シトロエンC5エアクロスSUV シャイン パック(FF/8AT)
フワフワ ガラガラ 2022.12.04 試乗記 「シトロエンC5エアクロスSUV」のフロントまわりが新しくなった。さすがシトロエンというべきなのは、変更前と変更後のいずれも、ほかの何にも似ていない個性があふれ出ているところだ。それはともかく(?)、最新モデルの仕上がりをリポートする。最新のデザインコードを採用
2019年に登場したシトロエンC5エアクロスSUVの顔が変わった。いわゆるフェイスリフトを受けたのである。
シトロエンの「最新デザインコード」にのっとった新しいフロントマスクは、中央にダブルシェブロンがでんと構え、それぞれのシェブロンの下端から水平方向にクロームのドットが伸びていって、新しいシグネチャーであるデイタイムランニングライト(DRL)へとつながっている。妖怪百目みたいだったオリジナルの顔を忘却のかなたへと運び去るのは、筆者が単に忘れっぽいから、かもしれないけれど、クロームのドットとDRLがデジタルっぽさを醸し出し、違和感なくボディーに溶け込んでいるように思える。
室内では、場所をとっていたオートマチックのシフトレバーが廃され、最近のプジョー&シトロエンが採用している、指先で操作できるトグルタイプのコンパクトなセレクターに変更されている。シフトレバーがあったところは、ポッカリ空洞になっていて、スマホ等、小物を置くのに便利な空間として有効活用されている。
パワートレインは、1.6リッターのガソリンターボエンジンと、2リッターのディーゼルターボエンジン、そして1.6リッターガソリンターボとモーターからなるハイブリッドの3種類の設定がある。このうち、今回試乗したのはディーゼルの「シャイン パックBlueHDi」という装備充実モデルで、パノラミックサンルーフや、皮革部分にナッパレザーが用いられている。
かねがねC5エアクロスSUVはデッカい、と筆者は思っており、その印象は新しい顔になっても変わらない。現代の美女と野獣、あ、美女はいませんけれど、野獣、というか怪物っぽい。ところが全長×全幅×全高のスリーサイズは、4500×1850×1710mmと、意外とコンパクトで、2730mmのホイールベースと全幅は「プジョー308SW」とまったく同じ。全長はなんと308SWより155mm短いのだ。バージョンは異なるようだけれど、「EMP2(エフィシエントモジュラープラットフォーム2)」なるプラットフォームは308とも共通で、シトロエン自身、C5エアクロスSUVを「Cセグメント」に分類している。
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デッカいことはいいことだ
デッカく見えるのは、背が高いことによるわけである。FWDながら、SUVということで最低地上高が190mmと、たっぷりとられている。このゲタの部分を差し引いてみても、1520mmあることになり、308SWの全高より35mm、なお高い。ようするに、見た目どおり、ボディー本体のルーフも高くて厚みがある。
思い出すなぁ。高校生のころ、アンドレ・ザ・ジャイアントを見たときの衝撃を。あの日、新日本プロレスの興行を友達と一緒に見に行っていて、同級生のウメダくんのスネに場外で暴れるアンドレのブーツがかすった。ウメダがズボンの裾をまくると、アザになっていた。アンドレ・ザ・ジャイアント、恐るべし。というのは余談です。
閑話休題。C5エアクロスSUVの内に入れば、大変に広々している。以前から使われている「アドバンストコンフォートシート」のフラットな形状も視覚的に貢献しているだろうし、運転席と助手席とのあいだにあったシフトレバーがなくなっていることは、その広々感に輪をかけているに違いない。
コックピットは最新の308よりシンプルなしつらえながら、入れ物としてはこっちのほうがデッカい。
しかも試乗車の場合、ルーフはパノラミックサンルーフ付きでトランスペアレントになっており、天気がよければ、昼間は青空が広がっていて、誠にさわやかな心持ちがする。
一瞬、ゲッと思ったのは、エンジンをスタートさせたときだった。ガラガラというディーゼルサウンドと振動が伝わってきたからだ。
予想外のフラット感
乗り換えたのは筑波山のてっぺん近くだった。筆者はこのCセグメントとしては大きめのSUVのハンドリングをチェックすべく、山道を走り始めた。乗り心地はフワフワで、ロールはけっこう大きい。これはダメだろう。と思いきや、全然そうではなかった。
乗り心地がフワフワなのは、シトロエン自慢の「プログレッシブハイドローリッククッション」、略称「PHC」という、内部にセカンダリーダンパーを内蔵するダンパーがC5エアクロスSUVに採用されているからで、走りだすと、ゆるふわな印象を与える。
筑波山の山道には暴走行為ができないように、カマボコ型の凸凸凸凸路面が数カ所つくられており、そこを通過するようなことになると、フワンフワンとボディーがあおられる。そう覚悟し、速度を落とす。
ところが、速度をそう落とさずとも、ピッチングをさほど残すことなく通過する。もちろん、速度はある程度落としている。それにしても、筆者の期待値を上回るフラット感で、初期型にチョイ乗りしたときの記憶より、フワフワ具合は抑えられているようにも思う。
ロールも、こんなに背が高いのだから、もっと深々としそうなものなのに、思ったほどではない。あるところまでロールはする。でも、あるところでピタリと止まる。
このような表現は、あくまで筆者の主観でありまして、もうちょっと客観的に書くと、小さな入力ではフワフワ、大きな入力があったときにはそうでもない、安定しているのだ。
ステアリングがスローに感じるのは、小径かつ変形ステアリングホイールのプジョーから乗り換えたこともあるだろうし、C5エアクロスSUVは背の高いボディーゆえ、そもそも安定志向のハンドリングに仕立てられていることもあるのだろう。
身のこなしが軽い
ステアリングはスローではあるものの、切ったなりにボディーは反応する。さほどアンダーステアなクルマではない。2リッターのディーゼルの振動が大きいこともあって、微振動を感じつつ、狭い山道を駆けぬける。ロールすることで後輪もうまく接地させている。というようなイメージが浮かんでくる。
ドライバーだけのことで言えば、ディーゼルの音と振動にはやがて慣れる。走りだせば、ガラガラ音は消えるし、信号待ち等ではアイドリングストップでエンジンが休止する。そうすると、ちょっと寂しいと思うこともある。
1997ccの直列4気筒DOHCディーゼルはターボチャージャーの助けを借りて、最高出力は177PS/3750rpmと大したことはないにしても、400N・mという分厚い最大トルクを2000rpmで発生する。デジタルの回転計を眺めていると、平地をフツウに走っていると、8段ATは1500rpmぐらいで変速している。
車重は1670kg。例えば、ほぼ同サイズの「マツダCX-5」のディーゼル車はFWDの19インチタイヤで1650kgだから、驚くほど軽いわけではない。C5エアクロスは18インチだけれど、8ATで、パノラミックサンルーフ付きだし、少なくとも見た目よりは軽い。それで400N・mという大トルクだから、身のこなしは軽い。筑波方面から都内に戻り、比較的すいた首都高速を走っていると、まるでCセグメントのハッチバックを操っているような気分になった。
冷え切った朝、ディーゼル音がガラガラととどろくのを気にしない、南仏プロバンスのようなところにお住まいのファミリー層に、シトロエンC5エアクロスSUVはピッタンコだ、と思った次第です。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
シトロエンC5エアクロスSUVシャイン パックBlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1850×1710mm
ホイールベース:2730mm
車重:1670kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:177ps(130kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)235/55R18 102V/(後)235/55R18 102V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:17.1km/リッター(WLTCモード)
価格:552万5000円/テスト車=586万1655円
オプション装備:メタリックペイント(6万0500円)/ナビゲーションシステム(26万1030円)/ETC+取り付けキット(1万5125円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3269km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:472.5km
使用燃料:33.2リッター(軽油)
参考燃費:14.2km/リッター(満タン法)/15.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。