マツダCX-30<スカイアクティブG 2.0搭載車>(FF/6MT)/CX-30<スカイアクティブG 2.0搭載車>(FF/6AT)/CX-30<スカイアクティブD 1.8搭載車>(FF/6MT)
花も実もあるSUV 2019.07.17 試乗記 「CX-3」と「CX-5」の間に割って入る、マツダの新型クロスオーバー「CX-30」。国内での発売に先駆けてドイツ・フランクフルトで試乗した筆者は、激戦のSUV市場でも輝ける完成度の高さを感じたのだった。理由あってのディメンション
世界中で拡大しているコンパクトSUV/クロスオーバー市場での戦いを有利に進めるためには、現在の持ち駒であるCX-3だけでは足りない。マツダがこの市場にCX-30を投入した理由はそこにある。CX-3のスタイリッシュさ、コンパクトさは独身のユーザーやシニア層には支持されたが、ボリュームゾーンであるヤングファミリー層にはうまくリーチできずにいたというのがマツダの分析。CX-30は、まず何より、彼らの求める機能性や扱いやすさに重きを置いて生み出された。
ボディーサイズひとつとってみても、この狙いを明確に具体化している。4395mmの全長は、ヨーロッパで主流の全長4500~4700mm近辺のDセグメントカーが縦列駐車している空きスペースに容易に滑り込めるようにと決定されたという。全幅1795mmは、日本市場でのコンパクトカーの実質的な、あるいは感覚的な上限だというだけでなく、地域問わず都市の狭い路地で難なくすれ違いできる大きさとして、そして全高1540mmは立体駐車場に入る高さとして、それぞれ明確な目的をもって導き出されているのである。
このサイズの中で、まずキャビンには大人4人が快適に過ごせるだけの空間が用意された。乗り降りの容易な高い着座位置を持つ前席は、CX-5と同等のカップルディスタンスが確保され、ゆとりを持って座ることができる。後席も、身長177cmの筆者が座ってなお、膝の前や頭上に十分な余裕がある。マツダ3より70mm短いホイールベースを、殊更に意識させられることはない。
しかも荷室は、日本で主流のA型やB型だけでなく海外の大型ベビーカーまで簡単に積み込める広さ。幅1mの棚などを両手で積み込める1020mmの開口幅を確保し、重い荷物をかがまずに積み込めるよう開口部下端の高さを731mmとするなど、本当に細部まで配慮がいき届いている。電動のパワーリフトゲートも選択可能だ。
かたちと機能の巧みな融合
こうしてユーティリティーを重視しながらも、CX-30のデザインがいい意味でそのことを強く意識させないのは、さすが今どきのマツダ車である。むしろ、そうした予備知識なしで見たら、まずはそのスタイリッシュさこそ際立ってみえるに違いない。
マツダ3に続いて移ろいゆく面の美しさが際立つサイドビューは、実はルーフ後端を大きく下げることなくフォルムをスペシャルティー的に見せている。サイドシルやフェンダーを幅広のクラッディングパネルで覆うことでボディーを天地に薄く見せているのも効いているのだろう。計算、とても巧みである。
ほかにも、リアウィンドウは寝かされているものの、その下のリアゲート部分をあえて後方に突き出すかたちとして荷室容量を確保していたりと、エモーショナルな部分と機能性をどう両立させるかという点では、他の追随を許さないレベルのこだわりを感じさせる。マツダ3からまた新たなフェイズに入ったマツダデザインの勢いは本物だとあらためて実感させられた。
インテリアも、十分な空間があるだけでなくデザインの洗練を感じる。操作系やスイッチ類が集中する運転席まわりから、助手席の方向にかけてスッキリと収束していく造形、細いAピラーのおかげで良好な視界が、良好なドライビングポジションと相まって、とても居心地が良い。本当の意味で落ち着ける空間づくりとは、最先端のテクノロジーがこれみよがしにアピールされていたり、イルミネーションが輝いたりアロマが香ったりということではない、と思わせる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
“一体感”が際立っている
今回の試乗の拠点は、ドイツ・フランクフルト郊外。周囲の街並みは古くて道が狭く、左右にずらりと駐車車両が並ぶ中を縫うように走らなければならなかった。そんな中でステアリングを握ったCX-30は、確かにとても走らせやすいというのが、その第一印象。前述の通り練りに練られた絶妙なサイズ、そして目線のちょうどいい高さが貢献しているのは間違いないが、それだけでなくフットワークが実に軽快、爽快なのだ。
操舵応答はとにかく素直で、しかも手のひらにはその時のクルマの状態がありありと伝わってくる。特別シャープだとかすさまじく速いとか、何か一点が際立っているわけではないが、クルマとの一体感がとても高い。高すぎて最初は「特徴がないな」などと思ってしまうかもしれないが、意のままになるその走りは、乗れば乗るほど快感になってくる。
この走りの感覚は、マツダ3と非常に近いベクトルにある。それと比べるとホイールベースが短く、全高も高い中で、そう思わせる走りを実現しているのだから見事だ。
ちょっと影が薄いのがパワートレインである。欧州スペックのガソリン2リッターに「M HYBRID(Mハイブリッド)」と呼ばれる24V電装系とISGによるマイルドハイブリッドの組み合わせは、全体的にパンチがなく、6段MTとの組み合わせだと上り勾配に差し掛かるたびに2段もしくは3段のシフトダウンが必要なほど。ATならそこまで悪くはないが、こちらも全体にアクセル開度は大きくなりがちで、余裕のない走りになってしまう。
日本仕様のマツダ3の2リッターガソリンエンジンも、さほど見どころがあるわけではないが、これよりはもう少し力がある。せめてそちらを積んでほしい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
どちらかといえばディーゼル推し
それでも、フットワークに見合ったドライバビリティーを求めるなら、低回転域からトルクがスッと立ち上がる1.8リッターディーゼルのほうがいい。特にアイドリング付近でのゴロゴロとしたうなりや振動が、速度域の高いドイツの交通環境では気にならなかったこともあるが、そもそもCX-30はマツダ3と同じく、従来のマツダ車とは一線を画するほどの静粛性を実現しているから、まずまず快適に走らせることができた。のちに加わる予定のスカイアクティブXも気になるが、選ぶならこちらということになるだろう。
今やSUV/クロスオーバーはクルマ購入時の選択肢の筆頭に挙げられるカテゴリーであり、スペシャルティー的なクルマが欲しい層にはマツダ3の「ファストバック」を選んでほしいのだとマツダの開発陣は言う。コンパクトハッチとSUV/クロスオーバーの存在感が、かつてとは逆になっているわけだ。
CX-30の機能性と使い勝手への行き届いた配慮も、そうした背景を考えれば納得である。けれどもそこはさすが今のマツダらしく、単にそれだけにはとどまらず、情感たっぷりのデザインに仕立て、爽快な走りの魅力をも備えることで、クルマと過ごす日常をちょっと気分の良いものにしてくれそうな雰囲気、うまくまとっている。市場拡大中ということは、競争が激化しているということでもあるが、CX-30はコンパクトSUV/クロスオーバー市場の中でも、きっと存在感を発揮できるに違いない。
(文=島下泰久/写真=マツダ/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マツダCX-30(スカイアクティブG 2.0搭載車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:122ps(90kW)/6000rpm
最大トルク:213Nm(21.7kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:5.1リッター/100km(約19.6km/リッター、WLTPモード)/6.2リッター/100km(約16.1km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
拡大 |
マツダCX-30(スカイアクティブG 2.0搭載車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:122ps(90kW)/6000rpm
最大トルク:213Nm(21.7kgm)/4000rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:5.5リッター/100km(約18.2km/リッター、WLTPモード)/6.6リッター/100km(約15.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
マツダCX-30(スカイアクティブD 1.8搭載車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:116ps(85kW)/4000rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1600-2600rpm
タイヤ:(前)215/65R16 98H/(後)215/65R16 98H(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:5.1リッター/100km(約19.6km/リッター、WLTPモード)/4.4リッター/100km(約22.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。 -
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.17試乗記スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。




























































