“スマホライクな操作”には危険がいっぱい!?
クルマのスイッチレス化によるメリットとデメリットを考える
2019.08.28
デイリーコラム
めったに使わない機能に専用スイッチは不要
いまだ衰えを知らないSUVの隆盛。それとどこかタイミングを合わせるかのように、クルマのキャビン内ではタッチスクリーンあるいはタッチパネルと呼ばれる、要は「入力機能付きのディスプレイ」が流行真っ盛りだ。
昨今にデビューしたニューモデルの中にあって、“これ”を備えないのはもはや少数派。テスラ車のように巨大なタブレットを縦に据え付けたようなデザインが目を引くものもあれば、一部のアウディやジャガー/ランドローバー、そして身近(?)なところでは「トヨタ・クラウン」のように、ご丁寧にも2段重ねとした形態も登場するなど、サイズやデザインも百花繚乱だ。
このところ、各ブランドがこうしたアイテムにこぞって力を入れる理由はまず、いわゆる先進安全に関連する装備(ADAS)の普及が急速に進行し、その制御用のスイッチを個別に用意したのでは、「ダッシュボードまわりがスイッチだらけになってしまう」という事情が大きいと考えられる。
実際のところADAS関連の制御設定は、「ドライバーの好みに応じて一度行ってしまえば、たびたび変更することはない」というのが実態。なるほど、使用頻度の低い物理スイッチをダッシュボード上の“地価”が高い場所に置くのは、合理的とは思えない。
立派に見えるけど実際は!?
同時に、最近ではもっと大きな理由も考えられる。それはコストダウンだ。
いかにも未来的でスマートなこうしたアイテムは、マルチカラーで高精細なディスプレイを採用するゆえに一見とても高価そう。
けれども、冷静に考えれば複数の物理スイッチやそこに至る配線が省略できる上、内部の基盤は車種間での“使いまわし”も可能となるために、一度設計をしてしまえば後は量産効果によって、大幅なコストダウンが可能となるだろう。
こうして、ユーザーには先進性や高級感をアピールできる一方で、実際には作れば作るほどにコストダウンが可能となれば、シナジー効果が期待できるブランドほど採用例が増えていくことにも納得だ。
実際、先日たまたま「フォルクスワーゲン・ポロGTI」から「アウディA8」へと、車格の異なる2台を乗り換えた際には、そのバーチャルメーターのグラフィックがすこぶる近似していることに驚いた。メカニカルなメーターであればこうはいかず、当然A8の方がより高価なものになったに違いない。
しかし、ディスプレイ上での表現の違いとなれば、そこまでの差が生じるとは考えられない。この理屈はタッチスクリーンにも同様に当てはまるはずだ。
運転中の操作=歩きスマホ
というわけで、ユーザーもメーカーも“Win-Win”の関係が築けそうなこうしたアイテムだが、最近困惑してしまうのは、「走行中に使用頻度の高いスイッチ類までもが、タッチスクリーンに置き換えられてしまう」という例が少なくないこと。
例えば、メーター照度の調整や空調の内外気切り換えなど、走行中に素早く操作したい機能は物理スイッチとして“別建て”されていないと、時として危険を感じる場面が発生する。その理由はもちろん、「タッチスクリーンではブラインド操作が行えず、必ずそこに視線を落とす必要がある」ためだ。
ヘッドライトの自動点灯機能は今や当たり前だが、これにも落とし穴がある。明るい時間帯に霧に遭遇した場合には自動点灯が行われず、マニュアル操作で点灯させる必要がある。そのため、こうしたシーンに即座に対応できる、物理スイッチが不可欠だ。
確かに、スイッチ類が廃されたダッシュボードまわりの見た目は、シンプルで美しいが、だからといって、何でもかんでもタッチスクリーンに入れられてしまうのは困りもの。
「スマホライクな直感的操作」とは、タッチスクリーンの導入時によく聞かれたうたい文句である。しかし、歩きながら使っていて電車のホームから転落する人が現れるような“スマホライクな操作系”が、クルマのスイッチに最適であろうはずがないのは明らかなのだ。
(文=河村康彦/写真=トヨタ自動車、アウディ、フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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