【F1 2019 続報】速かったが強くはなかったフェラーリ メルセデスに1-2をプレゼント
2019.09.30 自動車ニュース![]() |
2019年9月29日、ロシアのソチ・オートドロームで行われたF1世界選手権第16戦ロシアGP。予選までは最速を誇ったフェラーリが、レースになるとチームオーダーに揺れ、トラブルに泣き、作戦でも失敗。メルセデスに逆転を許すこととなった。
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“メルセデスの牙城”ロシア
圧倒的にストレート(だけ)が速かったフェラーリだったがゆえに、ベルギーGP、イタリアGPを赤いマシンが連取することは多くが予想できた。しかし、スローコーナーが点在するシンガポールGPの市街地コースでの1-2フィニッシュには誰もが驚いた。
メルセデス10勝、レッドブル2勝で終えたシーズン前半戦から、フェラーリが3連勝しての後半戦スタート。ライバルの思わぬ台頭に、これまでの15戦で296点を集めていたポイントリーダー、メルセデスのルイス・ハミルトンは、「残り6戦のどこであっても、われわれが優勝候補の筆頭というわけではない」と危機感をあらわにした。
ハミルトンは、チームメイトでランキング2位のバルテリ・ボッタスに対し65点もの貯金があった。残る6レースで獲得できる最大ポイントは、ファステストラップのボーナス1点を含めて156点。フェラーリを133点も突き放していたメルセデスと同様に、その地位は盤石といっていい。
とはいえ、過去5戦だけの成績に限れば、2勝を含む表彰台3回のシャルル・ルクレールは80点、ハミルトン73点と、様相は変わってくる。231点でランキング2位につけるボッタスの後ろでは、3位ルクレールと4位マックス・フェルスタッペンが200点で並び、前戦シンガポールGPで1年以上ぶりに優勝したセバスチャン・ベッテルも194点で5位につけていた。
シルバーアローの大量リードの陰で、だいぶ遅まきながら力を発揮してきた跳ね馬の軍団。シンガポールでフェラーリに次ぐ3位に入ったレッドブルのフェルスタッペンも、「注意しなければならない」と、赤いマシンへの警戒感を示していた。
次なる舞台はロシア。2014年からという短い歴史ながら、メルセデスが過去5戦で全勝、ポールポジション4回と、チャンピオンチームの“庭”のようなソチのコースだ。先行きがほぼ見えてしまっているタイトル争いはともかく、シルバーアローの牙城を跳ね馬が4連勝で切り崩すとなれば、シーズン終盤の注目度もがぜん上がってくる、そんな一戦だったのだが……。
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フェラーリが予選で圧倒 ルクレールが4戦連続ポール
最初のプラクティスではルクレールがトップ、フェルスタッペンは2位。続く2回目はフェルスタッペンがルクレールを従えて1位と、初日はフェラーリとレッドブルがけん引役を務めた。そして3回目のフリー走行になると、いよいよフェラーリが頭角を現し1-2。予選に入っても、ひづめの音も軽やかに赤いマシンが集団を率い、ルクレールが4戦連続、今シーズン6回目となるポールポジションを獲得してしまった。フェラーリが4連続ポールを取ったのは、2000年から2001年にかけてミハエル・シューマッハーが記録して以来のこととなる。
Q3最後のアタックでハミルトンが何とか予選2番手につけたものの、その差は0.402秒。直線基調の最初のセクターではフェラーリに0.5秒近く差をつけられていた。ハミルトンに100分の2秒負けたベッテルは3位だった。
ホンダのパワーユニットを搭載する4台は、次の日本GPを見据えて新しいICE(内燃機関)を搭載したことでグリッドダウンが決まっており、4番手タイムのフェルスタッペンは9番グリッドに降格。レッドブルのチームメイト、アレクサンダー・アルボンはQ1でクラッシュしてしまいピットレーンからのスタートとなった。
フェルスタッペンのペナルティーで1つずつ繰り上がり、ボッタスが4番グリッド。マクラーレン勢は、カルロス・サインツJr.がベストタイの5番グリッド、ランド・ノリスは7番グリッドだった。ルノー勢は、ニコ・ヒュルケンベルグがマクラーレンの間に割って入り6番グリッド、ダニエル・リカルドは10番グリッド。ハースで健闘したロメ・グロジャンは8番グリッドから決勝に臨むこととなった。
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“予定通り”ベッテルがトップ、しかし……
2番グリッドのハミルトン、4番グリッドのボッタスとも、スタートタイヤにソフトではなくミディアムを選択。フェラーリの速さを前に、メルセデスはコース上での真っ向勝負ではなく、異なるストラテジーで挑んできた。だが結果からすれば、フェラーリはその速さを強さにまで昇華させることはできず、メルセデスはライバルのおぼつかないレース運びに救われることになる。
53周レースのスタート、事実上の1コーナーであるターン2までの長い直線でトップに立ったのはベッテルだった。ルクレールは無駄な抵抗をせず2位を受け入れ、蹴り出しの良くなかったハミルトンは3位、そのハミルトンに並びかけるところまでいったサインツJr.が4位、ボッタスが5位にダウンしたところでセーフティーカーが出動。後方でグロジャンとリカルド、アントニオ・ジョビナッツィが接触したことがきっかけだった。
ここでフェラーリの作戦が無線のやり取りで明らかになる。スタートでハミルトンを出し抜くために、ベッテルにルクレールのスリップストリームを使わせると取り決めていたのだ。おかげでフェラーリは1-2でレースを始めることができたのだが、当然ながらルクレールに1位のポジションを返してあげないとフェアではない。
4周目にレース再開。1位ベッテル、2位ルクレールでしばし周回を重ね、3位ハミルトンを振り切ったところで、フェラーリは2台の順位をスワップするつもりでいた。しかしベッテルは「順位交換はあと2周ほど先延ばしにしたい」などとチームに伝えトップに居座ったまま。この状況に対し、ルクレールは「理解している。こっちはスタート前の“約束”をちゃんと守ったんだから」と、ポジションを交代するなら、しばらくこのままでも問題ないと答えた。
23周目、2位走行中のルクレールが上位陣で最初にピットストップ。ソフトからミディアムに替えてボッタスの後ろでコースに戻った。ベッテルがタイヤ交換に踏み切ったのは27周目のこと。その前にベッテルのタイヤはピークを過ぎていたため、結果的にここでフェラーリは予定していたポジションチェンジを果たせ、ルクレールがベッテルの前に出た。
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ハミルトン&メルセデスが4戦ぶりの勝利でタイトルにまた一歩
レース開始早々、チームオーダーに揺れたフェラーリの誤算は、その後も続くことになる。ピットアウトしたベッテルのマシンにトラブルが発生。MGU-Kの異常を検知したチームは、スロー走行を続けるベッテルに、ピットに戻るではなく「マシンを止めろ」と指示を出した。コース脇に赤いマシンがストップ、するとバーチャルセーフティーカー(VSC)の指示が……。
ミディアムタイヤでロングラン中だったメルセデスに、絶好のチャンスが巡ってきた。全車がスロー走行を余儀なくされるこのタイミングでピットストップを実施すると、トップはハミルトン、2位ルクレール、3位ボッタスという順位となり、形勢がメルセデスに味方することになる。
さらにフェラーリは、自らの傷口を広げるかのような動きを見せる。VSCが開けた直後、今度はウィリアムズのジョージ・ラッセルがクラッシュしたことで2度目のセーフティーカーが出たのだが、この間にルクレールがミディアムからソフトに履き替え、3位にポジションを落とし、そこから巻き返しを図ろうとしたのだ。
期せずして1-2となったメルセデス。33周目に再スタートがきられると、2位ボッタスを盾にルクレールを3位にとどめ、首位ハミルトンを助けるチームプレーに打って出た。しっかり後ろをガードされたハミルトンはリードをどんどん広げ、ファステストラップのボーナス1点をやすやすと奪い、そして夏休み前のハンガリーGP以来となる4レースぶりの勝利をつかみ取ったのだった。
「これぞまさにわれわれに必要だったものだよ!」と歓喜の声をあげたハミルトン。フェラーリ3連勝、そしてロシアGP予選での完敗と、盤石のチャンピオンチームとてプライドを大きく傷つけられる展開が続いていただけに、劣勢をはね返しての1-2には喜びもひとしおだったはずである。
ハミルトンのポイント上のリードは73点と、ほぼ3勝分に匹敵するほどにまで拡大。今シーズンあと5戦、6度目の戴冠の瞬間も、着実に近づきつつある。
次戦はいよいよ鈴鹿サーキットでの日本GP。10月11日のフリー走行で開幕、決勝レースは10月13日に行われる。
(文=bg)