第33回:古都が呼んでいる(前編)
2020.01.24 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
ニッポンが誇る1000年の都・京都へと、このうえなくアメリカンな「ダッジ・バイパー」でドライブを敢行。走らせれば何かが起きるポンコツマッスルカーは、片道450kmの道のりを無事走破できるのか? webCG編集部員がささやかな冒険に挑む。
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竹中直人かく語りき
京都市は、北緯35度01分、東経135度45分に位置する、近畿地方の都市である。その歴史は古く、794年から1869年まで、実に1000年以上にわたり日本の首都がおかれていた。今日でも多くの寺社仏閣や歴史的建造物が残る、世界屈指の文化都市である。
そんな京都に、バイパーで行くことにした。
なんでか? 特に理由はない。年イチで催される大学同窓の集まりが今回(2019年)は京都開催となり、「休みの日に電車に軟禁とか、ないわ」と思ったからである。
最近分かったことなのだが、マイカーを所有していると、クルマ乗りからは車種選定の理由を聞かれ、クルマに乗らない人からは、「なんで○○に行くのにクルマを使うの?」と聞かれる。なんでって言われましてもねぇ。むしろ自前でドア・ツー・ドアの移動手段があるのに、なんでわざわざ公共交通に頼らにゃいかんのよ?
そもそも、クルマ乗りがクルマに乗るのに、目的なんてあってないようなものなのだ。かつてわが心の師、竹中直人氏は、サングラスの怪人に運転の喜びを聞かれ、こう答えた。「仕事が早めに終わったらさ、海に行けちゃうんだもン」(2006年9月25日放送『笑っていいとも!』より)。まさに金言。これこそ他の交通手段じゃ得られぬ、自動車ならではの自由と気まぐれだろう。
ただし、今回の旅に関しては問題がひとつあった。会の幹事も、まさかホントにクルマで来るやつはおるまいと踏んでいたようで、投宿先に駐車場がなかったのだ。
しかし記者は慌てない。こんなこともあろうかとスマホに駐車場予約アプリをダウンロードしておいたのだ。別にコインパーキングでも構わないのだが、高いし、そのとき空いているか分からないし、場所によってはイタズラされるかもしれないしね。で、諸般の条件を入力して出てきたのは、二条城の近隣、宿から2.5kmの駐車場だった。ドア・ツー・ドアとは一体? という感じだが、通勤で家から駅まで30分歩いている記者からすれば、こんな距離屁(へ)でもない。当該駐車場の予約をポチり、いざ武蔵野を後にする。片道450km、往復でアバウト900kmの小旅行だ。
8リッターV10 OHVでエコラン大会
いや、その前にすることがあった。給油だ給油。実は今回、普通に900km走るだけでは面白くないので、ちょっとした課題をおのれに課していたのだった。
随分前の計算だが、高速におけるバイパーの燃費はおおむね6km/リッター台で、ガソリンタンク容量は72リッター。そして既述の通り、今回の旅の道のりは片道450kmほどである。あれ? これ、頑張ればワンタンクでいけんじゃね? というわけで開幕しました。東京-京都 無給油チャレンジ。プリウスやインサイトあたりなら寄席聞きながらでもできそうなものだが、挑戦するのはわがバイパー。こうして連載でネタにできるほどのハイエミッション野郎である。行けるかどうかは、まぁ五分五分。正直なところ、もう少し分のない勝負でないと記事的に盛り上がらないのだが、ただ京都まで走るよりは面白みが増すでしょう。
家の近所のシェルで給油しつつ、二条城付近のガソリンスタンドを検索。めんどうなので寄り道、回り道にならないことも勘案し、堀川通り沿いのエネオスをゴールとする。Googleマップによると、厳密な走行距離は455km、所要時間は5時間31分と出た。時刻は2019年12月21日午前5時22分。「昼前には着くかいな」とアバウトにソロバンをハジきつつ、今度こそ本当に、武蔵野の地を後にする。
武蔵境通りを南下し、ようやく甲州街道へとつながった東八道路を抜けて、高井戸から首都高4号新宿線へ。そしてETCゲートをくぐった直後に、首都高じゃなくて環八(下道)で東名高速まで行った方が、距離も時間も費用もガソリンも節約できたことに思い至る。
無給油チャレンジに、早くも暗雲が垂れ込める。
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こんな時間からどこ行くの?
まあ、やっちまったものはしょうがない。気を取り直して4号線を新宿JCTへと向かいましょう。
それにしてもである。ちょいとクルマが多くないか? その量たるや、止まりはしないがだらだら運転を強いられるといった具合。時計を見れば、まだ朝の6時前。冬至のころとはいえ、お天道様は影も形もない時分だ。こんな時間から、皆さん一体ドコ行くの? ……ハタから見たら俺もなんでしょうけど。
加減速の繰り返しは燃費が落ちるし、ここは早々にエコラン(?)に移りたいところなんですが……。ま、永福入り口を過ぎればこの渋滞も解消されるでしょ。
ところがである。永福を過ぎてもクルマの数はまったく減らず、新宿JCT→C2→3号渋谷線をずっと忍耐でやり過ごす羽目に。さすがに東名に入れば……というのさえ希望的観測で、なんと小田原厚木道路が分岐する厚木JCTまで、ずっとこの調子だったのだ。いやホント、皆さんこんな時間からドコ行くの? まぁ俺もなんだけど。
大井松田ICの先、東名高速の下り線が二又に分かれる辺りに差し掛かると、さすがにクルマの数は減り、ようやく多少は好きな速度で走れるようになる。やれやれ、これでようやくエコランらしい走りができるわい。
ヘビというより暴れ牛
一説によると、大体のクルマは車速を60km/hくらいで保つと、最も省燃費で走れるらしい。とはいえここは天下の幹線道路。前にも後ろにも迷惑をかけるのはご法度である。そんなわけで、車速は前が詰まらない限りは法定速度いっぱい、ギアは基本6速固定とする。ちなみに(前にも書いたかもしれないが)バイパーの場合、100km/h走行時のエンジン回転数はおおむね1250rpm。ガスペダルを踏むというより、足の重さを掛けておくだけ、といった状態である。
何がすごいって、これで普通に走れることよ。バイパーのエンジンは可変バルブなしの自然吸気だから、トルクバンドからはまったく外れているはずなんだけど、そこは8リッターの暴力でカバー。クラッチをつないだままブレーキを踏んでも、ペダルの踏み応えや制動の仕方に、押し返すような弾力(?)がある。トルクがブレーキを押し返してくるのである。で、前がすいたら今度はガスペダルに足を掛け直すだけで、車速がじわわ……と回復するんだから大したもの。
よく大トルクのMT車について、「まるでAT車のように運転できる」なんて言う人がいるけど、ここまできたらATどころかちょっとしたクルコンだ(前走車追従機能はついていないけどね)。しかも前回触れた通り、わがバイパーは今やフットワークが絶好調! 過日の鬼怒川ツアー同様、陸の王者気分で京都まで行ける、はずだった。
どうもオカシイ。何かがオカシイ。段差やわだちでクルマが盛大に暴れるのだ。以前はハンドルに手のひらを当てて、金星丘のお肉で振動をいなしつつ……という感じで走れたのに、今回は両手でガッとハンドルをつかんで暴れる牛をねじ伏せるがごとし。気分は大山倍達である。タイヤ替えたり、アライメントを見たり、あれやこれややってきたのに、全部元のもくあみ。いやコイツ、何が原因で良くなって、何が原因でダメになるのか全然わかんねぇよ!
しかしまぁ、バイパーとの付き合いも3年を過ぎた記者からすれば、こんな気まぐれも日常の彩(いろどり)。なんせ車名がヘビである。生き物なんだから、そりゃ機嫌のいい日も悪い日もあるさ。この程度のことで戸惑っていたら、このクルマとは付き合えませんぜ?
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“遠くへ来た”感が一気に盛り上がる
箱根の峠や富士スピードウェイへの道程でお世話になっている御殿場ICを抜け、御殿場JCTからいよいよ新東名へ。普段、ロケなどで足を延ばしているのは御殿場・裾野辺りまでなので、そこを過ぎると一気に“遠出感”が湧いてくる。テンションが上がる。
バイパーの方も気分がノってきたのか、今まで以上に車体が暴れる。新東名と聞くと、皆さん「こっちの方が新しくて道がきれいなんだから、スムーズに走れるのでは?」とお思いでしょう。私もそう期待していたのだが、意外にも凹凸やうねりが多いのだ。東名区間より明らかに高い平均車速もあって、補修箇所や車線間の“うね”に乗り上げたときの挙動が怖い。特に怖いのが片輪だけが補修路面を踏んだときで、クルマが意思を持ったかのように力強くナナメを向く。これ、ドライバーはともかく、助手席に乗っている人がいたら確実に酔うわ。
そんなバイパーをどうにか御して、遠州森町PAに到着。なるたけ距離を稼ぎたくてノンストップでここまで来たのだけど(トイレ休憩除く)、遠州森町ってどの辺なんだろ? スマホで調べてみたところ、天竜川のちょい手前であることが判明した。余談だが、天竜川の東側はヤマハの根城である磐田、西側はスズキの居城・浜松である。静岡すげえ。
検索ついでにスタート地点からの距離も調べると、223kmと出た。実際の数値との誤差がどれほどかは知らないが、“アバウト折り返し地点”と表して差し支えないでしょう。今が8時22分なので、所要時間はジャスト3時間。今のところはスケジュール通りといったところか。
朝食をいただき、カチコチに凝り固まった右足をほぐしたら、あらためて京都へと出発。燃料計を見ると、針は半分と4分の3の間を指していた。旅は思いのほかに順調である。(つづく)
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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