第32回:出費は続くよ どこまでも
2019.10.12 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
webCG編集部員ほったの日常に、過剰な刺激と余計な彩りを与えてくれる排気量8リッターの怪獣「ダッジ・バイパー」。タイヤ交換を間近に控えたこの問題児に、またしてもトラブル発生! ぺーぺー編集部員の懐を、大量出費の危機が襲う。
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オーバーヒートはマニアのたしなみ?
(前回の続き)
クルマの流れを見計らって路肩にバイパーを寄せ、エンジンをかけたままフロントカウルを開ける。金属製のリリースレバーがチリッチリになっていたが、気にしている場合ではない。郷ひろみよろしく「あちちあち」といいながらエンジンルームに風を通す。後は水温が下がるよう祈るばかりだが……。うーむ。Mini乗りだったころを思い出させる、懐かしいこの感覚。こりゃあ、まごうかたなきオーバーヒートだ。
意外かもしれないが、一般的な“アメ車”のイメージに反して、記者のバイパーは熱に非常に強かった。このクルマの水温計は華氏表示なのだが、これまで公道はもちろんAUTO-Xの走行会でさえ、針が250度(≒摂氏120度)の目盛りに迫ることはなかったのだ。唯一の例外は、テンションプーリーが吹っ飛んで補機類が回らなくなったときだけだ。
そのバイパーが、オーバーヒートである。ドライバーを熱中症にすることはあっても、おのれが熱中症になることがあるのか。貴様も人の子(?)よのう。
エンジンをかけたまま、そんな人の子をしばらく放置してクールダウン。ところが一向に針が落ち着く気配がない。いつまでも路傍で排ガスばらまいてるわけにもいかないので、カウルを戻し、そろりそろりとわが家に戻ることにした。で、帰ったら速攻で“相模原のDr.コトー”ことコレクションズ本多氏に救援要請。事態を察してか、いつになく早々にお返事をいただく。いわく「お盆またぎになっちゃいますけど、24、25の週末なら引き取りにいけますよ」とのこと。近所(というほど近所ではないけど)に頼れるお店があるというのは、誠にありがたいことである。
またしても大量出費の危機
しかし困った。それにしても困った。こんな間の悪いことってあるのだろうか? 何もタイヤ交換のタイミングで壊れることはないじゃないの。
先述の通り、記者のバイパーはこれまでオーバーヒートを起こしたことがないので、それ系の修理費用は未知。ただ、さる情報筋によると、センサー、サーモスタット、ウオーターポンプが全部逝くというトリプル役満を浴びたオーナーが、30万ばかり銭を吐き出す事案があったそうだ。もしそんなことになった場合、タイヤ交換と合わせた出費はどれほどになるか。前回の試算通りとすると70万円だが、さすがにそれはないわ。ありえん。
ならばできることはただひとつ。タイヤの交換費用を圧縮するのである。おりしも前回の記事掲載後、読者の方より「某GT監督がCMキャラクターをやっているタイヤチェーンなら、当該サイズのタイヤも安く手に入りますよ」という耳寄り情報をいただいた。ありがとうございます。調べたところコミコミ10万円ほど節約できる勘定である。……が、それでも最悪60万円の出費か。エグい。これはエグい。
……余談だが、今回のタイヤ探しの件については、ホントに多方面からアドバイス、情報提供をいただいた。上述のフジ・コーポレーションの紹介に加え、例えばさるバイパー乗りの御仁からは、Facebook経由で「クムホの2代目ACR用のタイヤなら、そのホイールでも履けるよ」とのタレこみが。いやはや、これについては盲点でしたわ。あるいは前のオーナーさんは、このタイヤを履きたいがゆえに純正サイズとは違う19インチにアルミを履き替えたのかもしれないねえ。
それと、いささか“身内ネタ”っぽくてアレだけど、三鷹&港北かいわいにおけるミシュラン取扱店の様子や、輸入&逆輸入タイヤが得意な専門店の情報をくれた某カメラマンにもお礼をば(笑)。つくづく、記者の連載は読者に恵まれていると思う。
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今回ばかりはこれで勘弁して
かように有益な情報を多く賜った記者が、ではどのような選択肢を採ったかというと……。スンマセン、やっぱりリアだけ、前と同じ「トーヨー・プロクセスR888R」に履き替えることにしました。前回散々「さよならトーヨー」なムードを漂わせておきながら、申し訳ない、面目ない。
だってしょうがないじゃない♪ クルマがオーバーヒートしちゃったんだもの。そっちの修理代がいくらかかるか分からないってのに、タイヤに大盤振る舞いしてられるか。こちとら渋谷勤務・武蔵野在住の、一山いくらの民草なんだよ。
それにね、ちょいと調べたり、先達のアドバイスに耳を傾けたりしていると、どうも「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」は、記者の用途にあっていないというか、記者には手に負えないシロモノだったようなのだ。
先述の通り、今回もオーバーヒートの修理はコレクションズの本多氏に依頼したのだが、クルマの引き渡しの折に、ちょいとタイヤについても相談させてもらった。ちなみに、氏はサーキットやジムカーナでブイブイいわしている、実践派のアメ車乗りだ。
「ほったさんの使い方だと、パイロットスポーツ カップ2はやめたほうがいいですよ。確かにカップ2には(記者のバイパーに合う)サイズがありますし、似たようなタイヤをもっと安く欲しいなら、例えばクムホとかならぐっと出費を抑えられます。でもそういうタイヤって、とにかく寿命が短いんですよ」
安易に手を出すべからず
詳しく話を聞いたところ、どうやら名前に“カップ”とか“トロフェオ”とか付いてる系のタイヤ、あるいはニュルやドラッグストリップで記録を出すためにメーカーがつくらせたタイヤというのは、浅学な記者が想像する以上に特殊なものらしい。どのへんが特殊なのか。すんごい雑に言ってしまうと、ゴムがべらぼうに柔らかいうえ、グルーブ(タイヤ表面に彫られた排水用のミゾね)の彫りも浅いのだ。それによって強力なドライグリップ性能を引き出しているわけだが、引き換えにゴムの摩耗と劣化が速く、ミゾが浅くなるのも速く、当然のことながら雨にも弱いタイヤになってしまうのだとか。
ちなみにどれぐらい短命かというと、「スポーツ走行などはしていないのに、1万kmでタイヤが摩耗し切ってしまったオーナーさんがいるくらい」とのこと。またどれくらい雨に弱いかについては、不運にも雨天の下でカップタイヤ装着車を試乗するはめになった方々の試乗記をご覧くだされ(これとかこれとか)。
いずれにせよ、トイレットペーパーの買い出しにも、江川亭三鷹大沢店にラーメンを食いに行くのにもバイパーを使う記者にとっては、ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2はいささか相性の悪いタイヤだったようだ。こういうタイヤはやっぱり、普段使い用にもう1台クルマを持っていたり、車検ごとにタイヤを交換したりするのもいとわない、ブルジョアのための一品なのだろう。ああトーヨー、ワタシの味方は、やっぱり君だけだよ。
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タイヤの状態に戦慄
クルマを預けて3週間。タイヤが届き、オーバーヒートの修理も済んだとのことで、相模原のお店へとバイパーを引き取りに向かう。いささか早めに着いてしまったのでタイヤはまだ交換作業中だったのだが……。
読者諸兄姉の皆さまには、これからちょっとした衝撃画像を見ていただくので、ホラーに免疫のない方は心臓をたたいておいてください。
写真A&Bをご覧あれ。これ、何かというと、1カ月前までわがバイパーが履いていたタイヤである。「ミゾが減ってた」なんてレベルではない。ゴムが剝がれて、中のベルトが見えちゃっている状態である。そりゃグリップもしませんよ。
いやはや、こんな状態になるまで気づかなかったとは、ギョーカイ関係者だというのにお恥ずかしいかぎり。いや、ちゃんと日常点検はしてたんですよ? ただ、タイヤの幅が345もあって、しかも低くてリアオーバーハングの長いバイパーだと、一目見ただけではトレッドの状態が分からんのよ。それに、トレッドがこんなになってるなんて、普通想像しないじゃん。気がつかないのもむべなるかな。むべなるかな!
……いや、何も言わんでください。普通気づきますよね。言い訳せずに(もう十分したけど)反省します。読者諸兄姉の皆さまも、お気をつけあれ。
それとエンジンのオーバーヒートについては、本当にオーバーヒートしているわけじゃなくて、温度計のセンサーが壊れているだけだった。O2センサーの時といい、つくづく自己管理系の部品が弱いやつだな。
「水温計は高くなっても、チェックランプはつかなかったでしょう?」
「そういえばそうですね。空調もまともに動いてたし」
「でしょ? ほったさんはメーターとかインジケーターとかを気にしながら走るから、こういうときに症状の確認ができていいですね。中には、水温計とか全く見てないで、『なんかいきなり水噴いちゃったんだけど』なんていう方もいますから(苦笑)」
ははは。まぁタイヤの減りには全然気づかなかったんですけどね。
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資本主義の真理
そんなやり取りを経てバイパーを引き取ったのは、9月真ん中の3連休の初日。キーを受け取ると、記者はそのまま栃木・鬼怒川へと向かった。高校時代の同期どもと、酒乱温泉ツアーの予定が入っていたのだ。
渋滞の東名&首都高を抜け、片側3車線の東北道を一路北へ。アライメントを整え、タイヤを新調し、エアコンも直したバイパーは、某大学の校歌ではないがまさに陸の王者である。100km/h巡航、6速1250rpmでも走りにじれったさはなし。ギアを落としてべたんと踏めば、新品のリアタイヤを地面に押し付けて怒涛の加速を披露する。大抵の厄介事は、アクセルひと蹴りでかなたに置き去り。うむ、苦しゅうない。苦しゅうない。苦しいのは俺の財布だけだ。資本主義の定めだが、やはりこのキモチイイ状態を保つには、相応の出費が必要なのだ。今回も、もちろんこれからも。
今回のタイヤ交換で判明したのだが、リアのブレーキパッドがそろそろ寿命。また、故障診断機をコネクターにつないでも信号が来ないという、新しい問題も露見した。カプラーか、配線か、はたまたコンピューターか……。思い出されるのは、エアコン&エンジンチェックランプ事件の悪夢である。そして来年1月になれば、みんな大好き、車検がお待ちかね。うーむ。今はなんも考えたくねえ。
故障の原因が深刻なものでなかったこと、タイヤ交換をリア2本だけで済ませたこともあり、今回の出費はどうにかコミコミ23万円で収まった。しかし23万円ですよ、奥さん。次は少しは、手加減してほしいものである。
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。