あのソニーがCESで自動車を発表! コンセプトカー「VISION-S」に見る狙いと思惑
2020.01.20
デイリーコラム
実は初めてではない“ソニーの自動車”
今年(2020年)も1月7日から10日までの4日間、米ラスベガスで世界最大級のエレクトロニクス見本市「CES 2020」が開催された。今回のショーのトレンドをひとことで言い表すなら、それは「異業種への挑戦」だろう。トヨタの出展内容が「街の建設」であり、現代自動車の出展の目玉は「ドローン」だった。そしてソニーは、なんと「クルマ」を発表したのである。
ソニーはこれまでにも、ヤマハの電動ゴルフカートをベースにした「SC-1」というコンセプトカーを製作したことがある。「スマホをクルマにしたらどうなるか」という提案を具現したクルマだ。
SC-1の特長は、車両の前後左右にイメージセンサーを搭載し、360°すべての方向に焦点が合った映像で自車周辺の環境を把握できることだ。しかも搭載するイメージセンサーの感度が高いため、夜間でもヘッドライトなしに外界の様子を視認することが可能となっていた。
もっと面白いのは、通常のクルマなら窓のある部分が、すべて外向けのディスプレイになっていた点である。イメージセンサーで周囲を把握できるので、窓が不要になったことを生かしたのだ。これにより、さまざまな映像を車両の周囲にいる人に対して表示できる。イメージセンサーにより誰が見ているのかを把握し、AI(人工知能)で解析することで、若者向け、子供向けなど、映し出す広告や情報を相手に応じて変えることができたのだ。
自動運転車ではないが、車室内のほか、車外からも遠隔での運転操作が可能など、既存の自動車メーカーとは異なる発想を盛り込んでいたのが特徴だった。
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得意のセンサー技術で勝負を挑む
しかし、今回ソニーがCESに出展したコンセプトカー「VISION-S」への気合の入り方は、SC-1とは比べ物にならない。というのも、VISION-Sはプラットフォームから新規で開発したクルマだからだ。電動ゴルフカートのうえに車体だけをかぶせたSC-1に比べたら、下世話な話になるが、かかっているおカネが2ケタは違うだろう。なぜそれだけの投資をしてソニーはクルマを開発したのか。
会場の説明員によれば、今回ソニーが自らクルマを製作したのは、自動車メーカーになるためではなく、「クルマ業界への貢献をより深めるため」だという。つまり、クルマの開発を自ら手がけ、さらにその車両を走らせることで、自動車メーカーにより近い視点で自動車業界向けの製品が開発できるようになることを目指しているのだ。「自動車業界向けの製品」とは、具体的にはセンサーとエンターテインメント系の製品を指す。
VISION-Sには全部で33台ものセンサーが組み込まれており、そのうち13台はソニーが得意とするイメージセンサーだ(なお、近くの物体を検知するセンサーとして超音波センサーを12台、遠距離の物体を検知するセンサーとしてミリ波レーダーを5台搭載しているが、これらは外部からの購入品である)。
注目されるのは、VISION-Sの発表と同時に公開されたソニー内製の「ソリッドステートライダー」の存在だ。ライダー(LiDAR)とは、レーザー光で周囲をスキャンして物体を検知するセンサーで、特に可動部品を持たないソリッドステートライダーは、世界の大手部品メーカーが開発にしのぎを削る最先端のセンサーである。今回の発表で、ソニーもこの市場に参入することが明らかになったわけだが、イメージセンサーで世界最大のメーカーであるソニーが出すだけに、その性能がどの程度のものか、非常に注目されるところだ。
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最高速240km/hの電動スポーツセダン
そして、もうひとつの特徴であるエンターテインメント系の技術としては、ヘッドレストを含めて室内に多数のスピーカーを取り付け、ソニーの提唱する立体音響「360 Reality Audio」を実現していることが挙げられる。この技術では、ボーカルや各楽器といったパートごとの音源データに位置情報を付けて、球状の空間に仮想配置することが可能で、再生時にはそれぞれの音が配置された方向から鳴り響き、高いリアリティーをもたらすという。
一方、これらの技術を搭載する車体そのものについてはソニー単独での開発は不可能なので、ここは大手部品・車両メーカーであるオーストリアのマグナ・シュタイア社と共同で取り組んだ。同社はトヨタの新型「スープラ」の生産を手がけていることでも知られている。
VISION-Sはまだ公道を走行できる認証を受けていないが、ソニーでは2020年度中に公道での試験走行を実施することを目指している。センサーの性能評価や、オーディオの耐久性評価などを通して自動車関連技術の向上に役立てるという。
車体や内装のデザインもソニー自身が手がけているというが、フロントまわりのデザインはどことなく独ポルシェの電気自動車「タイカン」を思わせる。実際、VISION-Sはタイカンと同様に電気自動車であり、前後に200kWのモーターを積んで最高時速240km/hを誇るスポーツセダンでもある。ソニーはVISION-Sを商品化する計画はないとしているが、一度そのドライバーズシートに身を沈めてみたいと思ったのは筆者だけではないだろう。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=鶴原吉郎<オートインサイト>、CES、ソニー/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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