第640回:タイヤ、レストランガイドに続くミシュランの次の一手は? 自動車&服飾業界の欧州最新事情
2020.01.31 マッキナ あらモーダ!「ウラカンEVO」よりサステイナビリティー
ファッションとクルマにおける最新の接点を大人服と子ども服の双方で観察したのが、今回のお話である。
イタリア・フィレンツェにおける1月の催しといえば、ピッティ・イマージネ・ウオモである。年2回開催される、世界最大級の紳士ファッション専門トレードフェアだ。2020年1月に開催された第97回は、全1203ブランドがいち早く2020/21年秋冬のトレンドを占った。
従来クラシコイタリアに代表されるトラディショナルな紳士モードで知られてきたこのイベントだが、今回はやや趣が異なっていた。キーワードは再生素材だ。そうしたマテリアルを駆使したコレクションだけでなく、特設ブースまで現れた。
気がつけば、筆者はピッティ・イマージネ・ウオモを、すでに15回も取材している。
かつてはMINIが新進ファッションデザイナーとコラボレーションしたり、イタリアの有名ブランドが“旅”をテーマに往年の大衆車「アウトビアンキ・ビアンキーナ」を何台も会場に並べたりした。さらにはイタルデザイン-ジウジアーロがコンセプトカーを協賛展示したこともあった。
いっぽう今回ランボルギーニ・メンズウエア・コレクションはエントランス近くに、「ウラカンEVO」をアイキャッチとして展示していたが、そのたけだけしいルックスとは裏腹に、足を止める来場者はまばらだった。
クルマに絡めたテーマの出展&注目度の減少と、それに反比例するように増える“サステイナビリティー”の台頭は、メンズファッションの都にも変化が及んでいることを感じさせた。
イベントオーガナイザーによれば今回訪れたバイヤー数は2万1400人で、1年前の2019年1月と比較して10%減少した。中国・ドイツ両市場の縮小が影響していると分析している。
そうした中、クルマとファッションは共存するのか? 一縷(いちる)の望みを託して筆者は2週間後、同じフィレンツェの会場で開催された姉妹イベントを初めて訪ねてみることにした。
「ビンボ」も訪問
そのイベント名をピッティ・イマージネ・ビンボという。「Bimbo」は貧乏ではなく、イタリア語で「子ども」の意味である。つまり、ピッティの子ども版だ。
大人版と同様に年2回開催され、毎回高品質なキッズ用ファッションを得意とするハウスが集まる。
2020年1月の第90回は全部で550のブランドが軒を連ねた。
クロージングリポートによると、総来場者数1万人は維持できたものの、肝心のバイヤー数は2019年1月の6400人から5900人へと、やはり“大人版”と同様に減少したという。
しかし出展者には希望もある。彼らの多くが、少子化が進むイタリアの子ども服市場に対して、近年は有望な市場として期待するのは、ロシアおよび旧ソビエト圏、中東諸国だ。実際に、国外からのバイヤー数を国別にみるとロシアが1位を占めたというから、出展者・来場者の双方にとって魅力あるショーとなったわけだ。
さて、訪問の目的に戻ろう。幼少時、クルマの柄のアップリケを親に貼り付けてもらうのを喜んでいた筆者としては、「今日でも自動車をモチーフにした絵柄が、子ども服に存在するか?」というところが気になる。
結論を先に言うと、少数派ではあるが存在した。最初に見つけたのは、プリミジというブランドの来季コレクションである。ロンドンをイメージしたデザインには、2階建てバスやオリジナルMiniを思わせる車両が表現されている。
他にも、ビンテージバイクをモチーフとしたニットのセーターなどが、一部のブランドに見られた。あるエキスパートの言葉を借りれば、「子どもは一定の年齢まで、動くものに興味を抱く」ので、全滅することはしばらくなさそうである。
いっぽうで、よりスピリチュアルなアプローチのブランドもあった。オフィチーナ51だ。「Officina」とはイタリア語で自動車修理工場を含む「工房」を示す言葉である。
CEO兼デザイナーのフィリッポ・クロサーラさんは、名門ボローニャ大学の哲学科卒という経歴を持つ。
彼は「オフィチーナは、職人たちが働く場所。どんな小さな村や町にも、さまざまオフィチーナがあった。そうした手作業の伝統を表現したかったのだ」と熱く語る。
ところで前述した「動くものに興味を抱く」のコメントをさらに裏づけてくれたブースは、ファッションそのものとはやや離れるが、ミラノ工科大学デザイン研究所による、子ども用品ストアのコンセプトであった。
ハイクオリティー玩具に見た「プリウス」の影響
「プレイフル・リビング」と名付けられたこの実験は、スタッフで建築家のニコレッタ・ゼルボさんによると、「ネットショッピング全盛の現代だからこそ、店員と親子連れ顧客が触れ合えるストアの在り方を模索したい」のが目的だ。
彼らがセレクトした玩具にも、いくつかの乗り物が確認できた。特に筆者が注目したのは、いかにも子どもが好きそうな、パーキングタワーを模した木製トイである。
そこに添えられたクルマの側面には「HYBRID」と記されている。やはり、高品質玩具には「環境」がふさわしいのかもしれない。
それはともかく、面白いのは形状である。クオーターウィンドウやCピラーの形状から、明らかに2代目および3代目「トヨタ・プリウス」を想起させる。
“プリウス=ハイブリッド=低環境負荷車”というイメージが、“ロンドン=2階建てバスとオリジナルMini”に匹敵するような、永続的なものになるかは不明だ。しかしながら、日本ブランドが生み出したボディー形状が、ある種記号化して、ヨーロッパの玩具にまで影響を及ぼしていることには驚きを禁じえない。
そうした大人版&子ども版ピッティであったが、実は双方に共通の、次なるトレンドと思われるものを発見した。
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目標は市場シェア10%!
それは、ずばり「ミシュランの靴底」である。
従来ピッティで、シューズ系ブランドが多くアピールしていた靴底メーカーといえば、日本の靴修理サービスでもヒールやソールが販売されているイタリアのビブラムであった。会場でミシュランの靴底は、それに比肩しようという勢いがあった。
思えば、かのシトロエンは、未来の顧客を開拓するため、子ども用のペダルカーやモデルカー「Jouet Citroën(ジュエ・シトロエン)」を創業後いち早く企画・販売した。
ヨーロッパのタイヤ市場でもアジア系ブランドが幅を利かせる昨今、ミシュランと聞いてタイヤよりもレストランガイドを真っ先に思い浮かべる人は少なくない。
ミシュランも子ども用や若者向けシューズの靴底を通じ、将来のタイヤ顧客につなげようとしているのか?
一瞬そう考えたが、調べると実はもっと真面目なプロジェクトだった。
2001年からミシュラングループの中でライセンスビジネスを展開していたミシュランライフスタイルは2014年、中国の繊維大手ジーファと提携した。
ミシュランは、タイヤ開発で培った接地性や耐久性、快適性を反映させた材質やトレッドパターンといったノウハウを提供。実際の製造をジーファが担当するというジョイントベンチャーがスタートしたのである。
ミシュランブランドの靴底は、市場で5~10%のシェア獲得が目標という。10足に1足がミシュランの靴底になるという壮大なプランである。
思えばミシュランは草創期に靴底を製造していたから、成功すれば、先祖返りということになる。
子ども時代、親の「品質がいい」のひとことで月星化成の武骨な黒いゴム長靴を履かされていた筆者としては、ミシュラン底のスタイリッシュな靴が履ける子どもがうらやましい。
それはともかく、いつか筆者もミシュラン底の靴を装着し、自分の足の発進加速およびパニックブレーキ性能がどこまで向上するか、試してみたいものだ。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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