カワサキKLX230(MR/6MT)
最高の遊び道具 2020.04.17 試乗記 空冷単気筒エンジンを搭載した軽快なオフロードバイク「カワサキKLX230」。2019年10月に発売されたばかりのこのニューモデルは、どのような一台に仕上がっているのか? オンロードとオフロードの両方を走り、“使い倒せるバイク”ならではの魅力に触れた。ジャンルのツボを心得ている
2019年の夏にKLX230が登場した時、面白そうなオフロードバイクが出たなと思った。この排気量帯のマシンは、オフで楽しめることを真剣に考えていることが多いし、空冷エンジンを搭載しているのなら軽さや扱いやすさも考えられているはず。
そして今回、実際にマシンを見ての第一印象は、とてもスリムだということだった。車体も軽くて、これならオフロードでも安心して振り回すことができそうだ。質感が高いというわけではないが、オフロードで遊ぶマシンということを考えたらこれくらいがちょうどよいところである。
エンジンはレスポンスがよくて軽快に吹け上がるし、低回転のトルクもある。高回転まで引っ張っても苦しげになることなく、レブリミットまできれいに回ってくれる。幹線道路などを走っていてもパワー不足などまったく感じない。楽しいエンジンである。ただしメカノイズは大きめ。そしてトランスミッションのフィーリングは今ひとつだ。オフロードでの極低速走行を考えてアイドリングの回転数が高めに設定されているから、スロットルを戻した時の回転の落ちもよくない。こういう部分、オンロードをメインで走る人は、気になることがあるかもしれない。
ハンドリングはオフロードバイクらしく軽快。21インチタイヤの恩恵によりフロントには安定感があって、不安なくバンクさせていける。車体も軽いからコーナリングも楽しめる。ブレーキはオンロードでも十分な制動力とタッチを持っている。思い切りレバーを握ると若干フロントフォークがねじれるような感触もあるけれど、インナーチューブの長いオフロードバイクでは仕方ないことだし、フルブレーキでの挙動を乱すようなレベルではない。
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オフロードを走る楽しさを満喫
ボッシュと共同開発したというオフロード対応ABSの出来もよく、安定した減速が可能だ。意識的にABSを作動させるくらいのブレーキングを何度もテストしてみたところ、オンロードからオフロードまで安定して作動してくれた。この装備、ビギナーがオフロードに挑戦する時のハードルも大きく下げてくれる。高級なマシンのように緻密な制御をしている感じではないけれど、性能そのものには問題なし。スペースに制約のあるオフロードバイクでこの装備はとてもありがたい。
今回の取材では本格的なコースにおもむく機会はなかったが、林道的なあぜ道や砂利、砂というシチュエーションなどで走らせてみた。そこで感じたのは、サスペンションの出来のよさだ。かなり大きなギャップのあるところも走ってみたが、難なく走破してくれる。極低回転域でもエンジンが粘ってくれるため、回転を落として走ったりしても突然エンストすることがないのは、滑りやすいシチュエーションでとてもありがたい。
少しペースを上げて走ってみたりもしたが、そうするとこのバイクのよさがどんどん分かってきた。車体のバランスがよくて不安な挙動を起こすことがない。向きを変えたいとか、加速したいと思った瞬間にはバイクがすぐに反応してくれる。久しぶりにオフロードに出向いたが、こんなにも楽しいものかと取材を忘れて走り回ってしまったほどだ。
ファーストバイクとして考えた場合、ピッグバイクのような所有する喜びはないかもしれない。しかし、このKLX230は愛(め)でて楽しむようなバイクではない。オンオフ問わず徹底的に走り、遊び倒すための道具。そういう使い方をするのであれば最高のマシンである。
(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2105×835×1165mm
ホイールベース:1380mm
シート高:885mm
重量:134kg
エンジン:232cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:19PS(14kW)/7600rpm
最大トルク:19N・m(1.9kgf・m)/6100rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:38.0km/リッター(国土交通省届出値)
価格:49万5000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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