日産リーフNISMO(FWD)
気分がアガる 2020.07.23 試乗記 ピュアEV「日産リーフ」のマイナーチェンジに合わせ、チューンドコンプリートモデル「リーフNISMO」も進化。ステアリングギアボックスやサスペンションを改良し磨きをかけたという走りを、同社のテストコース「グランドライブ」で確かめた。ベース車両に合わせてマイチェン
これまでの経緯を振り返れば、誕生から現在までの道のりは決して順風満帆というわけでなかったことは明らか。それでもフルモデルチェンジや航続距離の大幅延長といったビッグイベントを経験し、初代モデルの発売から間もなく10周年を迎えるのが日産のピュアEV、リーフというモデルである。
事実上「大手自動車メーカーが手がけた世界初の量販EV」と紹介でき、実際日産はリーフに対して“継続は力なり”という文字通り地道な取り組みを続けてきた。その結果、街で目にする機会が大幅に増えたのは間違いない。いつか“世界の誰もがEVを普通に乗りこなす”時がやってきたあかつきには、そうしたきっかけを作り出したモデルのひとつとして日産リーフの名が語り継がれることになるだろう。
そんなピュアEVの新たな魅力をアピールするバリエーションとして、2018年7月に2代目ベースで設定されたのがリーフNISMO。ご存じ日産の“走りのスペシャリスト”であるニスモが手がけたこの一台は、内外装のドレスアップに加え「レース活動で得たノウハウをフィードバックした」とうたわれるさまざまなエアロパーツや専用チューニングが施されたサスペンション、さらにはやはり専用のプログラミングが施されたパワーユニットやステアリング、スタビリティーコントロールなどを採用する、リーフのイメージリーダー的な存在でもある。
今回紹介するのは、ベース車両のマイナーチェンジを受けて細部までが再度リファインされた“20MY”と通称されるリーフNISMOである。
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欧州仕様車のステアリングギアボックスを導入
「抵抗値を悪化させずにダウンフォースを増大させる」というコンセプトに基づいたエアロパーツ類や、リム周囲の穴を小さくすることで表面を流れる空気抵抗を低減させ、同時に軽量化にも配慮したという18×7Jサイズのアルミホイールなどは、いずれも従来モデルと同様のデザイン。その上で、新型ならではのポイントとして見た目上で最も強いインパクトを放つのは、肩甲骨を面で支えるという「GT-R」用アイテム同様の考え方を採用したと開発陣が語る、レカロ製のフロントシートだ。
ベース車両のシート同様にヒーターが内蔵されるのは、「貴重な電力を暖房で消費したくない」という、EVならではの思いが感じられる。そもそも従来型には設定のなかったレカロシートがこのタイミングで用意されることになったのは、「市場からの要望」によるものだという。
減衰力やバネ定数のアップやバンプストッパーの材質変更など、専用チューニングが施されていたサスペンションもリファインされた。足まわりの変更に着手した理由は、コーナリングの限界を高めつつドライバーの操作に対し忠実に反応し、かつ高いスタビリティーとフラットな乗り心地を両立させるという初期の狙いどころはキープしながらも、よりスポーティーなテイストを実現させるべくステアリングのギア比を高め(速め)たことに起因する。
ちなみに、18.3:1から14.9:1へのステアリングギア比の変更は、これまで欧州仕様に用いてきたギアボックスの採用によって実現されたとのこと。もともとNISMOバージョンにはより機敏なステアリングシステムが欲しかったものの、現行リーフは欧州モデルの発売が日本よりも遅かったため、従来型NISMOには間に合わなかったのがこのタイミングでの変更となった理由であると説明された。
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病みつきになる加速力
かくして登場から2年、マイナーチェンジされた最新のリーフNISMOのドライバーズシートへと腰を下ろすと、これまでのモデルよりも圧倒的に“気分がアガる”のは、やはりいかにもコンペティティブなデザインのレカロ製シートによるところが大きい。
かくも派手なルックスの持ち主でありながら、乗降性がほとんど犠牲にされていないのは美点のひとつ。一方で惜しいのは、やや高めの位置が好みの自身をしても、「もうちょっと下げられないかな」と思えたそのポジションであった。
これは、床下に駆動用バッテリーを配したリーフならではのハンディキャップ部分。ここを欲張ると今度はシートレールにもさらなる工夫が必要となるなど、「量販モデルとしては許容し難き大改造が必要となるため涙を飲んだ」というのが開発陣の心境であろうことは容易に想像がつく。
110kW、すなわち150PS相当の最高出力値と320N・mという最大トルク値は、実はベース車両のそれと全く変わらない。それでも、アクセル操作に対するパワーの出方に専用のチューニングが施されているので、スポーティーな加速感が巧みに演出されているのは「さすがはNISMOならではのノウハウ」を文字通り実感させられる部分。いずれにしても、加速のパフォーマンスはなかなかで、エンジン車から乗り換えると、なるほど病みつきになりそうだ。
一方、減速側でもレスポンスの良さをうたうポジションを含め、細かく見ると標準車と同様に合計8つものドライブモードが用意されるのは、いくらなんでも煩雑過ぎという印象。標準車のスイッチを流用しようとするとこうなってしまうという事情もありそうだが、NISMO仕様であれば例えば“ワンペダルドライビング”が前提で構わないはず。その上で走りのモードの設定も、せいぜい3種類程度が上限というものではないだろうか。
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次は大容量バッテリー搭載モデル?
今回のチェック走行の舞台は1960年代に創業した追浜工場に付随する、古く小規模なテストコースがベース。そこでの短時間の走行ゆえ感じ取れた印象は限定的だったが、それでも開発陣が意図した「応答の速いスポーティーな操安性能」は納得できるものだった。
ステアリングギア比が速められたことで、全般に必要となる操舵量が減ったのは開発陣のもくろみ通り。それゆえ懸念される挙動の不安定さが、実際にはまるで問題とならないことも確認できた。
連続するパイロンでのスラローム走行で恩恵が明白だったのは、トラクションコントロール機能の過度な介入が抑制されていたこと。従来型との比較を試みると、パイロンをクリアの後、素早く直進状態へと姿勢を取り戻して加速態勢へと移れるのが“20MY”のほうであることは明らかだった。
最終的には静止状態にまで至る強い回生ブレーキ力を得ることができるのはリーフ元来の特徴のひとつだが、そんな回生力に上乗せされる液圧ブレーキの領域を再チューニング。さらなる制動力が必要となった際、ブレーキペダルの踏み込みによって高い減速G領域での“ガッシリと利く感じ”が向上しており、こちらでも今回好印象を抱くことができた。
一方、前述のように走行条件が限られたゆえに「フラットな乗り心地」といううたい文句については、判断が難しかった。ただし、100km/hに至らない速度領域でも“ダウンフォースによる振動の抑え”が実感できたことは事実で、このあたりは一般道へと乗り出してあらためてチェックを行いたいところでもある。
重量が大幅に増してしまう点がネックにはなるものの、現行リーフにはすでに最高出力と航続距離をより向上させた大容量バッテリーを搭載したモデルも存在する。となれば、今度は当然そんなモデルをベースとした“スーパースポーツバージョン”にも乗ってみたくなる、NISMOが手がけたリーフなのであった。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
日産リーフNISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1790×1570mm
ホイールベース:2700mm
車重:1520kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:150PS(110kW)/3283-9795rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/0-3283rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95Y XL/(後)225/45R18 95Y XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
一充電最大走行可能距離:281km(WLTCモード)/350km(JC08モード)
交流電力量消費率:177Wh/km(WLTCモード)/137Wh/km(JC08モード)
価格:429万4400円/テスト車=479万6000円
オプション装備:NISMO専用チューニングRECARO製スポーツシート<前席、ヒーター付き>37万4000円/NISMO専用本革巻き3本スポークステアリング<レッドセンターマーク、レッドステッチ、ガンメタクローム加飾付き>+ステアリングヒーター+ヒーター付きドアミラー+後席ヒーター吹き出し口+高濃度不凍液(2万2000円)/プロパイロット+ステアリングスイッチ<メーター・ディスプレイコントロール、オーディオ、ハンズフリーフォン、プロパイロット>+電動パーキングブレーキ+NISMO専用電動パーキングブレーキスイッチ<ガンメタクローム加飾付き>+インテリジェントBSI<後側方衝突防止支援システム>+BSW<後側方車両検知警報>+RCTA<後退時車両検知警報>+インテリジェントLI(10万5600円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:610km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電力消費率:--km/kWh(車載計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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