第625回:本領はオフロードにあり 「チェロキー/グランドチェロキー」にみるジープの“強み”
2020.08.01 エディターから一言![]() |
群馬県・白馬でジープのオフロード試乗会に参加。現場では、試乗記でも紹介した「ラングラー ルビコン」に加え、「チェロキー」「グランドチェロキー」の“プチ試乗”もかなった。今日的なSUVの先駆けともなったチェロキーシリーズに触れて感じた、他のブランドにはないジープの強みとは?
![]() |
![]() |
![]() |
実は“クラスNo.1”の人気者
輸入もののラージサイズSUV……と聞けば、まず思い浮かべるのはメルセデス・ベンツの「GLE」やBMWの「X5」といったモデルたち。他にも「アウディQ7」や「ポルシェ・カイエン」、「ランドローバー・レンジローバー」に「ボルボXC90」、果ては「ロールス・ロイス・カリナン」「ベントレー・ベンテイガ」「ランボルギーニ・ウルス」なんてのも加わり、富裕層御用達の一大カテゴリーと化しているわけです。
で、これらの中で昨年(2019年)一番売れたクルマはなんでしょう? と問われれば、「うーん、なんだかんだで話題になっちゃったX5かな」と思ったりするわけですが、実はそれを抑えてトップをとったモデルがあるんです。それは「ジープ・グランドチェロキー」。2019年の販売台数は1743台で、X5に約350台の差をつけています。知った時はその意外さに、思わず「へぇーっ」と間抜けな声をあげてしまいました。
グラチェロが売れている、その最大の理由はやはり“コスパ”でしょう。トヨタの「ランドクルーザープラド」を上回る堂々たる車体に、ゆとりの3.6リッターV6エンジンを搭載。本格的なローレンジも備えた4WDが、コイルサスで524万円、地上高が稼げるエアサス付きでも566万円からと、大人気の「ラングラー」にも並ぶお値段で手に入るわけです。恐らくこの2車種は、ディーラーにおいて好対照かつ相互補完的な役割を果たしているのではないでしょうか。
“泥のエキスパート”ならではの絶妙な調律
ラングラーと対照的とはいえ、そこはジープブランドのフラッグシップですから、悪路走破性はあまたのSUVとは一線を画します。単に数値的なところをみても、アプローチ、ランプブレークオーバー、デパーチャーの3アングルは、本格的なクロスカントリーモデルに迫るもの。最低地上高もコイルサスのグレードで230mm、調整可能のエアサスグレードなら最長280mmを確保しており、渡河深度も約500mmと、やはり本格的なクロスカントリーモデルに迫るものを持っています。
が、それよりも大事なのは、トラクションや制動のかけやすさ&抜きやすさといった、パワートレインとドライブトレインのコントロール性、あるいはトランスファーのレシオ設定、サスペンションの接地トラベルや先述の3アングルといったところが、いかに“悪路想定”で調律されているかということです。ここではエンジニアリングや実験部門の経験値がものを言いますが、当然ながらジープの開発陣には“泥のエキスパート”がたくさんいます。
こういう人たちが関わってできたクルマゆえ、インターフェイス類は当然ローゲインで、操作量に対してリニアに応答するキャラクターに設(しつら)えられます。悪路では視認性の高さも重要な性能ですから、車両感覚がつかみにくく側方視界をいじめるデザインは拒否されるでしょう。優れたオフローダーは優れた実用車でもある。これは僕の持論ですが、その根拠はこういうところにあります。そして、例えばジープやランドローバーのクルマは、総じてそういうところがよくできているんですね。
秀逸な電子制御もプロフェッショナルがいればこそ
そういう点でみれば、チェロキーもまた、きちんとしたオフローダーといえるでしょう。“横置きFF系プラットフォームにモノコックボディー”と、他社のSUVとまるで変わらぬ構成にクルマ好きの期待値はダダ下がり。「ジープよお前もか」とうなだれるわけですが、よくよく見ればグレードによってはローレンジ付きの4WDにリアデフロックまで備える本気の悪路仕様となっています。
実際、チェロキーの悪路走破性は同級のライバルとは比べられないほど本格的です。トルク変動が急になりがちな2リッターターボを搭載しながら、速度のコントロール性は至って穏やか。不安定な路面でもトラクションがしっかりかかります。ディメンションも優秀で、まずまずのガレ場に入ってもシャシーヒットには至りません。
走破性については、たぶんに路面状況に応じて制御の切り替えが可能な電子制御トラクションマネジメントが役立っているのでしょうが、それをキャリブレーションするのはもちろん開発陣です。車体形状や足まわりなどにも独自のノウハウが注ぎ込まれていることは容易に想像できます。
チェロキーシリーズといえば、ヘビーデューティー一本やりだったオフローダーの世界に、パッセンジャーカー的な快適性や使い勝手のよさを盛り込んで商品化した、SUVの始祖たるモデルといっても過言ではありません。今では百花繚乱(りょうらん)のカテゴリーにあって、でも悪路ファーストというスタンスを崩さない。そこにパイオニアとしての矜持(きょうじ)を感じるのは僕だけではないでしょう。ジープのブランドイメージはラングラーだけが支えてきたわけではないということです。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。