ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン(4WD/8AT)/ラングラー ルビコン(4WD/8AT)
ホンモノの地力 2020.07.27 試乗記 往年の「ウィリスMB」の面影を色濃く残す、ジープブランドの精神的支柱といえば「ラングラー」。そのラインナップの中でも、さらに悪路走破性能を追求したモデルが「ルビコン」だ。まさに“現行ジープ最強”といえるその実力を、本領たるオフロードで試した。ブランドの象徴であり、販売の屋台骨
2020年の上期、すなわち1~6月の国内自動車販売台数は、国産乗用車や軽自動車でおおむね20%、輸入車で24%の減少となった。言わずもがな、コロナ禍の影響が大きいわけだが、それでも諸外国のように激烈な数字に至らなかったのは、生産や販売の現場をほそぼそながらも回し続けた成果だろう。感染を防ぎながら生活を組み立てていくことの難しさと大事さを思い知らされる。
とそんな中、FCAジャパンの販売減少は15%にとどまったという。特にジープブランドは、この1~3月に過去最高の登録台数を連続で記録しており、結果的に2020年上期も過去最高台数を更新したそうだ。会社全体でも個性的なプロダクトが多く、他に比べるものがない、カスタマーの購入意志が固いという強みが垣間見えるわけだが、それにしてもこの環境下で販売を増やしたというのはご立派である。
そんなジープブランドを精神面だけでなく、今や台数面でも支えているのがラングラーシリーズだ。日本にも「アンリミテッド」が導入された先代JK型の発売時と比べると、昨年(2019年)はざっと10倍の販売台数を積み上げたという。フルフレーム&リジッドサスのクロカン系四駆としては異様な売れ方だが、ともあれ5ドアがその敷居を低くしたことは間違いない。
快適になっても本領はやはりオフロード
ラングラーはJL型になって、一般的なユーザーにとって一段と優しいクルマになった。車内はエンジンやトランスファーなどのメカノイズが抑えられ、乗り心地も穏やかになり、ハンドリングは中立からの操舵応答性が向上し、速度を上げてもシミーなどの不安定挙動はあらわれない。それこそ、全グレード標準で装備されるアダプティブクルーズコントロールを使って家族でロングドライブを楽しんだとしても、気になるのは若干の風切り音やロードノイズくらいだろう。
限りなく普通に使えるマジもんの道具というカテゴリーは、その武骨さからして好き者の挑戦心や探究心をかき立てるわけだが、そういうベクトルで接する向きにもJL型ラングラーは全然ガマンを強いることのないものになっている。そこに昨今のキャンプブームなどもあって、ユーザーが飛躍的に増えたというのはよくわかる話だ。
とはいえ、ラングラーの核心は普通ならば徒歩でもたどり着けないような極地へ赴き、自然と対峙(たいじ)できる強烈な走破性にある。今回、FCAジャパンが用意してくれたステージは、その性能を示すにふさわしい、夏季休業中のスキーゲレンデだった。草生い茂る急勾配をわしわしと上り下りし、ジャンプ用のキッカーを登坂セクションに見立てて、その能力をしっかり味わってもらおうという企てだったわけである。
が、そのもくろみを台無しにしたのが梅雨前線だ。延々と降り続く雨にたっぷり水を含んだ草は、氷雪路並みに滑りまくって、とてもではないが登坂は厳しい。然(しか)るべきタイヤで走ったとしても、地表を掘りたくってはスキー場の冬季営業に差し障る。当初の予定は変更され、整備用の取り付け路を使って頂上まで上がり、そこからゲレンデをゆっくりと下るというプランに変更されることとなった。とはいえ、ゲレンデの標準的な斜面の角度は15°から20°くらいだというから、変にヨーがついてしまうと、たちまちぬれ草に車体をもっていかれる可能性も十分にある。
繊細でなければオフロードは走れない
試乗できたのはラングラーの中でも悪路性能を強化したグレード、ルビコンだ。その名の由来はカリフォルニア州・タホ湖のかたわらにあるトレイルロードで、ジープブランドの多くのモデルがテストに用いている。過去に2回ほど訪れたことがあるが、これでもかと続く凄(すさ)まじい岩場におののきつつも、のしのしとそこをまたぎ越えていくラングラーの走破力に、ひたすら驚かされっ放しだった。
優れたオフローダーに求められるのは、一にも二にも速度管理能力だ。より具体的に言えば、歩くような速度でもじわりと加減速をコントロールできる動力伝達系の設(しつら)えということになるだろうか。加減速の両面で最初の一歩となるトラクションを自在にコントロールできなければ、いかに優れた電子制御を備えていても難所を越えるのは難しい。
取り付け路とはいえ折からの雨でズルズルになった泥道を、ラングラーはゆっくりと、そして平然と進んでいく。ルビコンが標準装着するタイヤは“マッテレ”(=マッドテレイン)と称される土はけにたけたタイプとはいえ、登坂路でもスロットル操作に進路を取り乱すことはまったくない。あらためて、その扱いやすさに感心させられる。
頂上からの下りでは、副変速機をローに切り替えて1速ギアを選び、その上でヒルディセントコントロールを併用する。あとはゆっくり、そして真っすぐ車体を草の生い茂る緑の滑り台へと導くだけだ。ラングラーは路面をがっちりと捉えて、徒歩よりも遅いスピードでじわりじわりと歩を進めていく。
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基本設計が高ければこその走破性
キッカー越えではボディー形状や骨格、アシのストロークといった、静的な(=電子制御などで可変しない)箇所の素性が優劣を大きく左右する。すなわちアプローチやデパーチャーのアングル設定が重要なわけだが、ラングラーは30°の急勾配もまったくものともしない余裕を備えている。ちなみに数値上は、41°の斜面に挑んでも36°の斜面から下りても、車体の前後を擦ることはない。
もうひとつ、悪路走破性を知る上で重要なのは、凸面を乗り越える際の底打ちにまつわる性能指標となるランプブレークオーバーアングルだ。これはホイールベースが短いほど物理的に有利になるわけで、3ドアのルビコンのほうが絶対性能は優れている。が、エアサスのような飛び道具を持たない5ドアのアンリミテッド ルビコンでもイニシャルで21°を確保しているわけで、今回の行程でも一度も“おなか”を擦るようなことはなかった。レジャーどころかサバイバルの道具としてみても、そのポテンシャルにはまったく不満はないと考えていいだろう。
とあらば、3ドア・ルビコンの立ち位置は? といえば、これはもう“悪路のピュアスポーツカー”ということになる。狭い林道でも内輪差を気にすることなく軽快に突き進む、その走りにはアンリミテッドにはない爽快感や開放感がある。そのぶん実用性やオンロードでの快適性などは劣るが、それを極上のドライビングプレジャーとトレードできる人には希少な選択肢となるだろう。ちなみに、今回試乗に供された3ドア・ルビコンはカタログモデルではなく100台限定の特別仕様車だが、まだ若干数の在庫はあるとのことだ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1895×1850mm
ホイールベース:3010mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4100rpm
タイヤ:(前)LT255/75R17 111/108Q M+S/(後)LT255/75R17 111/108Q M+S(BFグッドリッチ・マッドテレインT/A KM2)
燃費:9.0km/リッター(JC08モード)
価格:612万円/テスト車=621万9000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション 純正Wi-Fi対応ドライブレコーダー(6万2700円)/オールウェザーフロアマット(3万6300円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:5675km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ジープ・ラングラー ルビコン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4320×1895×1840mm
ホイールベース:2460mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:284PS(209kW)/6400rpm
最大トルク:347N・m(35.4kgf・m)/4100rpm
タイヤ:(前)LT255/75R17 111/108Q M+S/(後)LT255/75R17 111/108Q M+S(BFグッドリッチ・マッドテレインT/A KM2)
燃費:9.0km/リッター(JC08モード)
価格:589万円/テスト車=598万9880円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション 純正Wi-Fi対応ドライブレコーダー(6万2700円)/オールウェザーフロアマット(2万6400円)/ショートアンテナ<カーボン>(1万0780円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3782km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。