プジョー208アリュール(FF/8AT)
駆け回らずにいられない 2020.08.03 試乗記 フルモデルチェンジしたプジョーのコンパクトハッチ「208」に試乗。新世代プラットフォームをベースに開発された新型は、運転の楽しさを再認識させてくれるドライバーズカーに仕上がっていた。もっと知られていいクルマ
ステアリングホイールを握って走り始めたとたん、「クルマの運転って楽しいなァ」とあらためて気づかせてくれるのが、プジョーの新しい208だ。気のおけない動力性能と素晴らしいハンドリングの持ち主で、さほど気張らずとも、ほどよいスポーツ性を存分に堪能できる。昨今のコンパクトSUV興隆の陰でいささか存在が薄くなりがちなコンパクトハッチだけれど、プジョー208は、趣味人のためのニッチカーにとどめておくのはいかにも惜しい快作である。
新型208のデビューは、2019年のジュネーブモーターショー。1年あまり遅れて、この夏、わが国への上陸を果たした。プジョーは車名に使われる数字をモデルチェンジのたびに増やしていく方式を改めたので、今回のニューモデルは2代目208ということになる。
ニュー208は、「CMP」こと新世代の小型車向けプラットフォームを用い、先代と同じ2540mmのホイールベースにわずかに大きくなったボディーを載せる。いまのところ、5ドアのみの設定だ。ローンチ時の話題は、同じシャシーを使ったピュアEVも登場したこと。言うまでもなく、厳しくなる一方のCO2規制に対応するためで、208のEV版「e-208」は、340km(WLTPモード)の航続距離をうたう。たとえ動力源が異なっても、デザインをはじめドライビングプレシャーやスペース効率まで内燃機関モデルと共通なのだという。真偽のほどは、e-208に乗ってみないとわからない。
ドイツ車っぽくなってきた!?
日本市場のプジョー208は、1.2リッター直列3気筒ターボ(最高出力100PS、最大トルク205N・m)にトルクコンバーター式8段ATが組み合わされる。ラインナップは、簡素な「スタイル」(239万9000円で受注生産)、中堅の「アリュール」(259万9000円)、そして17インチを履き、スポーティーな内装が与えられた「GTライン」(293万円)で構成される。この日のテスト車は、実質的なベーシックモデルとなるアリュールだった。
先代の208は、オバケのQ太郎のような(!?)愛嬌(あいきょう)あるスタイルが(自分のなかで)話題になったが、新型はグッとハンサムなクルマに脱皮した。顔つきこそ牙が生えた「508」と共通のモチーフが採られるが、全体にソリッドなたたずまいは、ことにリアから見た姿はジャーマンブランドの一台と見まごうばかり。
輸入車が主に趣味の対象とされる東洋の島国では、「最近のフランス車は、見かけも走りもドイツ車っぽくなっちゃってぇ」と残念がる向きがあるが(←ワタシです)、本国のプジョースタッフは、ほとんど気にしていない。というか、社長自ら「プジョーはフランスのドイツ車と言われることもありますから」と笑うほど。主戦場たる欧州でのプジョーは純然たる実用ブランドだから、曖昧な趣味性を尊んでいるヒマはないのだ。
ドアを開けて208の運転席へ。アリュールのシートは、小じゃれた水色のステッチが施されたファブリックタイプとなる。無愛想な見かけでも不思議と豊かな快適性を提供するルノー車と異なり、プジョーのシートはやや平板な座り心地。それも含めて、低い位置に生える小径のステアリングホイールを握ってのドライビングポジションに、「これこれ」とうれしく思うプジョー好きも多いのでは。同社のクルマを所有したことがある、またはなじんでいる人にとっては“いかにも”な居心地だ。
乗れば驚きがある
ステアリングホイールの位置を生かして、インストゥルメントパネルの上部ゾーンを視覚的に独立させた「i-Cockpit(iコックピット)」と呼ばれる構成は、近未来風のフレーバーが効いたいいアイデアだと思う。ニュー208のジマンは、メーター類の液晶表示が3Dになったこと。といっても、舞台セットの書き割りのように、中景、遠景と2層に分かれて表示されるだけだが、重要情報に対するドライバーの反応時間を「約0.5秒短縮する」というのがプジョーの主張である。
iコックピットはデジタルメーターの特性を活用して、表示内容を何種類かから選択できる。ただ、回転計と速度表示を同サイズで並べる“ごく当たり前”の表示を、パーソナル設定としていちからセットしなければならないのはいかがなものか。もうひとつケチをつけると、ディスプレイを囲むメーターナセルの左右に小窓が開いているデザインも意味がわからない。外からの光をわざわざ液晶に当てて見にくくしているのだから。未来派のデザインはすてきだけれど、機能面で消化されていない部分が残っているのでは……といった守旧派のクルマ好きが抱いたかすかな疑念は、スターターボタンを押して走りだしたとたん、すっ飛んでしまう。
先代のGTラインと同じ75.0×90.5mmのボア×ストロークを持つ1.2リッターは、バランサーを備えた3気筒エンジンのスムーズさの中に、どこかゴロゴロしたフィールを残すターボエンジンだが、それが全然イヤではない。むしろ生き生きとした感覚で、内燃機関を回して移動する喜びを再確認させてくれる。最大トルクの発生回転数は、先代よりわずかに上がって1700rpmだが、なにしろペアを組むATが6から8スピードに多段化されている。まったく十分な力強さで1160kgのボディーを運んでいく。
“ほどよい動力性能”がいい
冒頭に記したように、208のハンドリングは秀逸で、適度なパワーアシストを得たステアリングを切ったとおり、思い描いたラインをきれいになぞって右に左にと峠の“曲がり”をこなしていく。カッチリしたボディーの高い剛性感と、しなやかに動くサスペンションのコンビネーションがいい。タイトコーナーでもジンワリと粘る。後ろ足がトレーリングアームだったころのプジョーのように、時にダンスを踊るがごとくのトリッキーな動きは影を潜め、安定感がありながら、しかしスロットル操作で容易に姿勢をコントロールできるのがうれしい。リアサスペンションの形式は、コンベンショナルなトーションビームだが。
快活なシャシーに加えて特筆すべきは、装着タイヤ「ミシュラン・プライマシー4」のバランスのよさだ。この日は早朝に雨が残り、天気が回復するに従って路面がウエット、ハーフウエット、そしてほぼドライと変化していった。プライマシー4は、ぬれたアスファルトの上でも正確な手応えを示し、乾くに従ってスポーティーな走りに対応する適度なグリップ力を発揮して運転者を喜ばせる。ニューモデルの潜在力を引き出す有能な脇役である。拍手!
208のドライブモードには、ノーマルのほか、エコ、スポーツがある。エコはパワーが絞られるだけのモードなので、せっかちなドライバーではかえって燃費が悪化しそう。スポーツモードでは、動力系がわかりやすくアグレッシブになるのみならず、エンジン音を模した低音がスピーカーから流れて気分を高めてくれる。せっかくなら、かつての「205」のラリーカーやレーシングプジョーの音をサンプリングして流すとおもしろいと思う。できれば、すぐに操作できるオフスイッチを設けてほしい。
クルマを手の内に入れられる……ように感じさせるほどよい動力性能で、胸のすく走りを見せるプジョー208。「クルマの運転は楽しい」ということをシンプルに思い出させてくれるフレンチハッチだ。もちろん、前車追従式のクルーズコントロールやステアリングを自動操作するレーンキープ機能、いざというときに作動する被害軽減ブレーキなど、各種ドライバーアシストを装備する。
注目の8ATは、6速が直結、7、8速がオーバードライブとなる。帰路に100km/h巡航を試してみると、なかなか7速からシフトアップしない。8速はいわゆる“燃費ギア”で、1.2リッターエンジンにして100km/hでの回転数は約2000rpmに抑えられる。そのわりに、305km走っての実用燃費が9.0km/リッターとふるわなかったのは、スイマセン、猿のように山の中を駆け回ったワタシのせいです。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
プジョー208アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4095×1745×1445mm
ホイールベース:2540mm
車重:1160kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:100PS(74kW)/5500rpm
最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)195/55R16/(後)195/55R16(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:17.0km/リッター(WLTCモード)/19.5km/リッター(JC08モード)
価格:259万9000円/テスト車=295万1550円
オプション装備:パールペイント<ヴァーティゴ・ブルー>(7万1500円) ※以下、販売店オプション ナビゲーションシステム(23万6500円)/ETC 2.0(4万4550円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1975km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:305.0km
使用燃料:35.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。






















































