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“MX”なのにSUV!? マツダの新型車「MX-30」に秘められた謎

2020.08.12 デイリーコラム 佐野 弘宗
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マイルドハイブリッド投入で販売規模を拡大

マツダは、「MX-30」を2020年秋にも国内導入することを正式発表した。しかも、すでに存在が明らかだったピュアなバッテリー式電気自動車(BEV)仕様に加えて、2リッターガソリンにアシストモーターを追加したマイルドハイブリッド仕様も用意……という、ちょっとしたサプライズまで追加された。

MX-30は2019年秋の東京モーターショーにおいて「マツダ初の量産BEV」として初公開されたクルマである。クルマの電動化に向けた施策は日本でもそれなりにとられているが、欧州のそれほどはヒステリックでないのはご承知のとおり。というわけで、あえてこの時期に市販化されるBEVといえば、2021年から罰則付きで厳格化される欧州のCO2排出規制(=企業別平均燃費規制)をにらんだ戦略商品であるケースが大半である。

実際、東京モーターショー会場に置かれたMX-30も、母国での世界初公開にもかかわらず、わざわざ「欧州仕様車」とうたった左ハンドル仕様がもちこまれていた。それは日本でのティーザーキャンペーンがスタートしたばかりの「ホンダe」も同様で、ホンダeも発売は欧州が先行しており、計画台数も欧州市場向けのほうがずっと多い。航続距離をあえて短めの200km程度に割り切っている点もMX-30とホンダeはよく似ており、どちらも欧州では街乗り中心のセカンドカー需要に照準を合わせている。

……といった背景を考えれば、MX-30も「欧州市場のオコボレを少量販売するだけか?」と思いきや、MX-30にはマイルドハイブリッド仕様も存在することが今回判明したわけだ。こうなると、MX-30は欧州でもこれまで予測されていた以上の台数を、そして日本でもけっこう本格的な規模でのビジネスをもくろんでいると思われる。

MX-30の技術的詳細は分からない部分も多いが、すでに明らかになっている情報を総合すると、プラットフォームは「マツダ3」や「CX-30」に使われる最新世代のそれ。内外装は専用デザインだが、ホイールベースや全長、全幅といった主要サイズはCX-30とほぼ同じである(全高だけわずかにMX-30のほうが高い)。そして、前記の電動パワートレイン以外の最大の技術ハイライトといえば、かつての「RX-8」からの復活となる観音開きサイドドア(マツダでの商品名は「フリースタイルドア」)だろう。

今回の車名には冒頭に「MX」というアルファベットが付くが、これに対しての印象はその人の年齢やクルマ好き度合いによってずいぶんと変わる。現時点でのマツダの公式見解は「その時代ごとの自動車の常識にとらわれることなく、新しい価値の創造と提供に挑戦する車種を“MX”の名称で表してきました。MX-30は、こうした従来のMXシリーズと同様に、お客さまに新たな価値を提供できる商品として開発してきました」とのことだが、「いやいや、MXといえばスポーツカーのことでしょ?」とか「MXなんて初めて聞いた」といった声も少なくないはずだ。

「オートモビル カウンシル2020」の会場で国内仕様がお披露目された「マツダMX-30」。ピュアEVだけでなくマイルドハイブリッド車が存在することも明らかになった。
「オートモビル カウンシル2020」の会場で国内仕様がお披露目された「マツダMX-30」。ピュアEVだけでなくマイルドハイブリッド車が存在することも明らかになった。拡大
観音開き式のドアは「フリースタイルドア」と呼ばれる。
観音開き式のドアは「フリースタイルドア」と呼ばれる。拡大
「RX-8」の「フリースタイルドア」。
「RX-8」の「フリースタイルドア」。拡大
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MX=コンセプトカーorクーペ

歴史的にいうと、マツダにおけるMXは、もともとモーターショーに出展されるコンセプトカーの名として世に出た。

MXが最初に登場したのは1980年代の東京モーターショーで、伊ベルトーネが手がけた1981年の「MX-81」にはじまって、以降「MX-02」「MX-03」「MX-04」と毎回のように新しいコンセプトカーが製作された。しかし、この時代の国産コンセプトカーの常として、その後の市販車に直接かかわるようなものはなかった。

MXが初めて実際の商品名として使われたのは、ご記憶の中高年(私を含む)も多いように、1989年に発売された「ユーノス・ロードスター」の海外名「MX-5ミアータ」である。当時はロータリーエンジンを搭載するスポーツカーの「RX-7」があり、MXはそれに対する「レシプロエンジンのスポーツカーもしくはクーペ」的な記号として使われた。MX-5に続いて「MX-3」や「MX-6」も発売されたからだ。

その後、経営不振におちいったマツダがフォード傘下に入って、MX-5以外の市販MXが姿を消すと、MXは再びコンセプトカーに使われるようになる。「MX-○○○○○」を名乗るコンセプトカーは2001年から2006年までに計6台がつくられて、それらはすべてその後に発売される「プレマシー」「デミオ」「アクセラ」「ベリーサ」「CX-7」といったリアルな予告コンセプトカーの役割を果たした。

1980年代のコンセプトカー群を第1世代、1990年代の市販車群を第2世代、2000年代のコンセプトカー群を第3世代とすると、2020年に上市されるMX-30は第4世代にして、第2世代以来の商品名として回帰したMXということができる。

まあ、このようなクロスオーバーSUVがMXを名乗るとは時代も変わったなあ……としみじみする中高年クルマ好き(私を含む)も少なくないだろう。しかし、考えてみれば、現代の定番サルーン(≒かつてのセダン)的存在のCX-30をベースに、スモールキャビンと観音開きドアによるスポーツルックを与えたMX-30は、さしずめ「SUVクーペ」ともいえる存在だ。しかもマイルドハイブリッド仕様は前記のようにレシプロエンジンを積むから、「MX=レシプロのクーペ」という第2世代以来の文法は一応、守られていることになる。

それに、市販MXの元祖であるMX-5(日本名:ロードスター)は今も継続しているから、MX-5とMX-30の2台で「マツダの市販スポーツカー/クーペ」という伝統が現代に正しく受け継がれたともいえる。こう考えれば、多くの中高年オタク(私も含む)にも違和感はない。

まあ、車名なんてものは、われわれ一般ファンの思い入れをよそに、そのときどきで都合よく使い回されるケースも意外と多い。その点でいうとマツダは個々の車名をきちんとリスペクトする傾向が強く、そういう真面目さもマツダが中高年エンスージアストに受ける理由のひとつかも……という話である。

(文=佐野弘宗/写真=マツダ/編集=藤沢 勝)

1981年の東京モーターショーでお披露目された「MX-81」。
1981年の東京モーターショーでお披露目された「MX-81」。拡大
1992年から1997年まで販売された「MX-6」。マツダが販売5チャンネル制を採用していた時代でもあり、「オートザム・クレフ」など7台が姉妹車として販売された。
1992年から1997年まで販売された「MX-6」。マツダが販売5チャンネル制を採用していた時代でもあり、「オートザム・クレフ」など7台が姉妹車として販売された。拡大
2004年に発表された「MX-FLEXA」はのちに「プレマシー」として世に出た。
2004年に発表された「MX-FLEXA」はのちに「プレマシー」として世に出た。拡大
「MX-Micro Sport」は「ベリーサ」の予告コンセプトカーだった。
「MX-Micro Sport」は「ベリーサ」の予告コンセプトカーだった。拡大
「MX-Crossport」は「CX-7」として商品化された。
「MX-Crossport」は「CX-7」として商品化された。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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