ボルボXC40 B5 AWD R-DESIGN(4WD/8AT)
輝きは増すばかり 2020.09.16 試乗記 ボルボの電動化戦略の一翼を担う、SUV「XC40」のマイルドハイブリッドモデル。“エコ”ゆえにおとなしいキャラクターかと思いきや、その走りは驚くほどファン・トゥ・ドライブに満ちていた。流行の48Vマイルドハイブリッドを搭載
2018年の日本導入以来、すっかりボルボの顔になったコンパクトSUVのXC40。実際、日本でいま最も売れているのがこのXC40で、ここ数年のボルボの躍進や、世界的なコンパクトSUVブームを考えると、XC40のファンが今後ますます増えることは想像に難くない。
そんなXC40が、2020年8月にパワートレインを一新し、“電動化”、すなわち全車に電気モーターが搭載されることになった。具体的には、プラグインハイブリッドモデルの「リチャージプラグインハイブリッド」をラインナップに加えるとともに、ガソリンエンジン車には、48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載。さらに遅れてバッテリーEVの「リチャージピュアエレクトリック」が導入される予定だ。
ただ、電気モーターを搭載するといっても、その役割は大きく異なる。“リチャージ”モデルが電気モーターだけで走行できるのに対し、48Vマイルドハイブリッドシステムは、電気モーターがスターターや発電機、または、加速時にエンジンをアシストする役目を果たす。しかし、電気モーターだけで走行することはできず、ハイブリッドといっても、日本メーカーの“ハイブリッド車”とは大きく違っていることは、チェックしておきたいポイントだ。
それでも、燃費の向上やドライバビリティーの向上に貢献するマイルドハイブリッドは、電動化のファーストステップとして、ヨーロッパのメーカーを中心に搭載するモデルが急増している。
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ISGMは縁の下の力持ち
XC40でも、2リッターガソリンエンジンと48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた「B4」と「B5」が設定される。この中から、今回はよりパワフルなB5を試すことにした。
XC40の場合、「ISGM」と呼ばれる電気モーターがガソリンエンジンに組み合わされている。ちなみに、ISGMは「Integrated Starter Generator Module」の略で、エンジンスターターとジェネレーター(発電機)の機能をひとつに統合した部品という意味である。
ISGMはエンジンのクランクシャフトとベルトで結ばれ、エンジンスターターとバッテリーを充電するための発電機として機能する。さらに、クルマの運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで減速をサポートする回生ブレーキとしての役割もあるのだが、XC40ではモーターやバッテリーを48ボルト化することで、より大きなエネルギーの回収が可能。それを加速時に再利用する場合も、高電圧が有利に働くのだ。
XC40 B5の2リッターガソリンエンジンは、最高出力250PS、最大トルク350N・mを誇る。これに対して、ISGMのモーターは、最高出力13.6PS、最大トルク40N・mと、搭載されるエンジンに比べるとその性能は控えめ。しかし、その効果は想像以上である。
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一度知ったらやめられない
早速、「XC40 R-DESIGN」自慢のスタイリッシュなコックピットにおさまり、スタートボタンを押す。すると、拍子抜けするくらい静かにエンジンがかかる。ISGMの恩恵をこうむる瞬間だ。その後、アイドリングストップからエンジンが再始動するときもショックとは無縁で、マナーの良さがうれしい。
この日の試乗は、箱根のホテルを拠点に、主にワインディングロードを走ることになったが、いきなりの上り勾配でも、B5のパワートレインのおかげですいすいと坂道を駆け上がる様子に驚く。車検証を見ると車両重量は1780kgと、決して軽くはないが、低回転から余裕あるトルクを発生するB5は、やすやすとスムーズに、しかも静かに余裕ある加速をみせる。2リッター4気筒というよりも3リッターの6気筒に近い感覚だ。
そのうえ、モーターがエンジンをアシストするため、アクセルペダルの動きに対するエンジンの反応は素早く、ドライバーの望みどおりにエンジンが仕事をしてくれるので、運転が楽しい。さらに、アクセルペダルを踏み込めば、気持ちのいい加速はレブリミットの6000rpmあたりまで続く。難しいことはさておき、電動化のメリットは思いのほか体感しやすいのである。
XC40 B5 AWDの場合、グレードはスポーティーなデザインのR-DESIGNのみ。内外装に加えて、専用スポーツサスペンションが搭載されるのも見どころのひとつだが、ワインディングロードではその実力がいかんなく発揮された。
走りが楽しいR-DESIGN
サスペンションの味付けは少し硬めとはいえ、乗り心地は十分な快適さを確保。装着されていたコンチネンタルの「エココンタクト6」の感触もマイルドで、ロードノイズがよく抑えられているのも印象をよくしている。車高が高めのSUVでありながら、走行中のピッチングやロールなどの動きはよく抑えられており、フラット感もまずまず。コーナーではしなやかに動くサスペンションが路面をしっかりと捉え、軽快にコーナーを駆け抜ける印象だ。
電動ブレーキシステムを採用するためか、ブレーキのタッチに違和感を覚えることもあったが、クルマに慣れるにつれてそれもあまり気にならなくなり、箱根での久しぶりのドライブをすっかり楽しんでしまった。
新しいパワートレインがもたらす走りだけでなく、現代のコンパクトSUVに必要な要素を高いレベルで実現するのもXC40の魅力である。全長×全幅×全高=4425×1875×1660mmの比較的コンパクトなボディーでありながら、後席には足が組めるほど余裕あるスペースを用意。また、荷室も幅・奥行きとも十分なスペースを確保するとともに、折りたたみ可能なフロアは荷室を分割したり、フックを設けるなどして、とても使い勝手のよい空間になっている。キャビン内の豊富な収納も、日本車に迫るほどだ。
ボルボといえば安全装備が充実していることに定評があり、歩行者やサイクリストに加えて、大型動物検知機能を備えた衝突回避・被害軽減ブレーキシステムをはじめ、さまざまな先進安全運転支援機能から構成される「インテリセーフ」を装備。ほかにも標準装備が充実しているため、実際の乗りだし価格が抑えられるのもうれしいところだ。
さらに、モダンなデザインや質感の高いクルマの仕上がりなど、見るべき点がたくさんあるXC40。この内容なら、XC40人気はこれからも続くに違いない。
(文=生方 聡/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボXC40 B5 AWD R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4425×1875×1660mm
ホイールベース:2700mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:250PS(184kW)/5400-5700rpm
エンジン最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/1800-4800rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)235/50R19 103V/(後)235/50R19 103V(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:589万円/テスト車=632万5650円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(11万円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(21万円)/Lavaオレンジカラーフロアカーペット&ドア内張り(2万6000円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2082km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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