ランドローバー・ディフェンダー110 HSE(4WD/8AT)
時代が変わればクルマも変わる 2020.12.23 試乗記 長年にわたり旧型「ランドローバー・ディフェンダー」に乗り続けてきたオーナーが、すべてが刷新された“新型”に試乗。洗練されたオンロードでの振る舞いと圧倒的なオフロード性能に、氏が感じたこととは? 「旧型オーナーの新型ディフェンダー評」をリポートする。皆が“告げ口”してくる
最初に断っておきたいのだけど、この文章に新型ディフェンダーの購入を前向きに検討している方々の背中を押すような、ポジティブな示唆を期待しないでほしい。申し訳ないことだが、それもやむなしと諦めてもらうしかない。
なにしろ、今となっては旧型とされる平成8年型のディフェンダーと24年も付き合ってきた男が書いているのだ。当人にしても、例えばそこに長年連れ添ったパートナーの若い頃を重ねるようなことができたら、愛を添えた郷愁や愚痴を語れたのにと思う。それほどに「同じ名前で別の中身」というのは、前を知っている者に困惑しか与えないのである。
さておき2020年を振り返れば、誰の記憶の戸棚にも新型コロナ感染症の話題ばかりが詰め込まれた感が強いと思う。その中で僕だけの引き出しに収められたささやかでほほ笑ましいトピックは、新しいディフェンダーに関する皆からの告げ口だった。
「あれはディフェンダーじゃないですよね?」
そんなことをたずねられても、メーカーがそうだと言うなら新時代のそれなのだろう。それでも周囲のクルマ好きが疑問符付きで訴えてくる心持ちは理解できた。なぜなら、彼らの知り合いの中で長年ディフェンダーに乗り続けているのは、僕だけだったからだ。
『ランドローバーマガジン』という専門誌の創刊に編集長として臨むに当たり、もとより大きくてタフなヨンクが好きだった僕は、並行輸入でディーゼルエンジンの「ディフェンダー110」を手に入れた。それが1996年。当時ランドローバーを正規輸入販売していたローバージャパンにディフェンダーで訪れるたび、「ウチで扱っていないクルマに乗ってくるな」「工場は同じでしょ」というあいさつを繰り返したのが懐かしい。
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新旧をつなぐデザインの妙
それから24年。ボディーカラーはすっかり退色し、歌舞伎町の裏路地に打ち捨てられたポリバケツ同然の褪(さ)めた青になった。けれど人は、「それこそがディフェンダーの正しいありようだ」と褒めたりする。そんな言葉を耳にするたび申し訳ない気分になった。もしそれがディフェンダーのイメージのデフォルトになったりしたら、フェアじゃないと思ったからだ。一方で、新型を目撃した周囲の人々は僕への密告をやめなかった。それはきっと、失職間近の大臣に手向けられる最後の気遣いに近いものだったのだろう。
webCGのホッタ青年のリクエストに応じて、集合場所に自分の旧型で向かった。そこで待っていたのは「ディフェンダー110 HSE」。2リッター4気筒ガソリンターボエンジンを搭載したロングボディーの、その時点の最高級グレードである。「その時点の」と注釈を入れたのは、今はそうではないからで、2021年モデルには3リッター直6ディーゼルエンジンが準備され、HSEもお役御免。代わって「X」「X-Dynamic」の2つの仕様が設定されている。
早速同じ名前の新旧を並べてみたら、両者の違いは歴然だった。クルマに詳しくない人が2台を見回したら、そのつながりを発見するのは惑星の成り立ちを解明するより困難かもしれない。だが、それは想定内。基本設計を変えずに約70年も生き延びた工業製品を刷新するのだ。出自が別の銀河くらい異なって当然だろう。
とはいえ、サイドウィンドウ下を走る丸みを帯びたショルダーラインや、丸型っぽい縦2連のテールランプ、そしてルーフ左右に設けられた明かり取り用のアルパインウィンドウなどに新旧デザインの“つながり”が見て取れる。このあたりは現行の「MINI」や「フィアット500」の手法に近いのだろう。両者とも、特徴的なフォルムやディテールを継承することで、まったくの別物であっても昔のように愛してもらえるという、よき前例だ。
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「オフロードサイボーグですね」
ただし、ディフェンダーにとって最重要の継承ポイントは、類いまれなオフロード性能だろう。新型はそれに対する機能的アプローチを、骨格+足まわりから改めてきた。旧型のラダーフレーム+リジッドアクスルに対して、アルミモノコック+独立懸架式を採用。腰まわりは強いが上物たる室内がガタピシする古典的な前者に対し、後者はエレガントな乗用車タイプ。なおかつ新型は悪路走行で腹を擦らないよう、最大で145mmも車高を上げられるエアサスを備えている。
そのハイリフト状態でオフロードを走ると、視線の異様な高さに戸惑いつつも、最新4WDテクノロジーのサポートによってどこまでも行ける気がしてくる。シートの下で何が行われているかまるでわからないままに。「オフロードサイボーグですね」とつぶやいたのはホッタ青年だったろうか。
そんな新型の優れた足さばきに嫉妬などしない。かつてのヨンク乗りが危険と隣り合わせで鍛え上げたマニュアル式のテクニックが、電子技術によって再現され誰でも利用できるのは素晴らしいことだ。例えば川向こうで救助を待っている人がいるのに、「ローギアードに切り替えてセンターデフをロックして……」などと旧来の機構に従っているうちに、助けられるものも助けられなくなるのはよろしくない。聞けば新型の最大渡河深度は、旧型より400mmアップの900mmだという。その数値だけでも旧型は比較にすらならない。自分がもし市民の安全を守る役目に就いていたなら、迷わず新型を選ぶはずだ。
などと話はあらぬ方向へそれたが、いずれにせよオフロードサイボーグ化する機能を存分に装備した点で、ランドローバーは新型ディフェンダーを「ディフェンダーたるもの」としたのだろう。あるいはそれを、象徴的なフォルムやディテールの継承以上に必要不可欠な条件に定めて。
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悪路に分け入るためのツール
では、新型で躊躇(ちゅうちょ)なく目の前の川に飛び込めるかといえば、どうだろう。このご時世、勇み足はむしろバッシングされるだろうし、新型には“つながる機能”満載のインフォメーションシステムが用意されているから、それを使って然(しか)るべき筋に確かな救助を要請したほうが賢明だ。と、あらぬ方向のたとえを再度持ち出したのは、新型が失ったものについて言及したかったからだ。
そもそもディフェンダーとは何者なのか? それを考えるたび、僕は取材で訪れた英国を思い出す。ロンドンからランドローバーの工場があるソリハルまで移動する間に、中古ディフェンダー専門ショップを訪れたことがある。そこで話を聞いたのは、30代前半の林業を営んでいるという男性だった。山に入る仕事で使うため、程度のいい中古車を探して5時間ほどクルマを走らせてきたという。しかもショップ巡りはこれが最初でも最後でもなく、気に入るものが見つかるまで続けると笑顔を浮かべた。なぜそこまでしてディフェンダーを求めるのかを問うたら、長く使えるタフなモデルはほかにないと答えられた。
それを聞いてこう思った。ディフェンダーというのは器具(ツール)に近い存在だろうと。ただしポテンシャルを発揮する領域が狭いので、高速移動が可能な「レンジローバー」が生まれ、やがて富裕層に好まれたレンジローバーと器具化したディフェンダーの中間を埋める「ディスカバリー」が登場した、というのがランドローバーの商品ヒストリーだ。そこには用途の、または役割の明確なすみ分けがあった。ところが、時が進むにつれすみ分けはあいまいとなり、役割はシャッフルされ、今となってはディフェンダーが旧来担ってきた役割は誰も求めないものになった。
「これもディフェンダーだった」と言えたら……
そんなことは百も承知のランドローバーが、新しいディフェンダーをつくると聞いた時、旧型オーナーが抱いた最大の興味は、「今度はどんな役割を与えようとしているのか」だった。ところが、新型ディフェンダーに採用されたアルミモノコックなどの最新テクノロジーは、次期レンジローバーをはじめとする他のモデルにも順次投入されていくという。であれば、これを新しいレンジローバーと呼んでも差し支えないだろう。現に、ブランド最高級モデルと遜色ない乗り心地を披露できているのだから。
にもかかわらず、これをディフェンダーとしたメーカーの真意は、僕にはわからない。周囲のクルマ好きが意外なほど告げ口してきた旧型の潜在的人気にあやかりたかったとしても、それを揶揄(やゆ)する気はない。
あくまで「旧型オーナーの一個人としては、ただただ名前に問題がある」というほかに含むところはないのである。もしこれが、ディフェンダーのDNAを引き継いだまったくのニューモデルとして世に出たなら、僕は本気で買い替えを考えたかもしれない。周囲の「あれはディフェンダーじゃない」という意見に対して、「これもディフェンダーだった」と反論したい期待を、新型に寄せてもいた。が、結局のところ現時点における見解は、「違う名前だったらよかったのに」でとどまることになった。
以上が、旧型に24年も乗り続けるという境地に分け入ってしまった、偏愛と偏重に満ちた男の率直な感想である。ちなみに僕は、自分のディフェンダーを何年持ち続けようとか、生涯これ以外は乗らないと決めていたわけではない。ほかに欲しいクルマが見つからないまま、気がついたらこうなっていただけだ。新型にもそういうオーナーが現れたらいいのにと本気で願う。そこはやはり、中身は違っても同じ名前のよしみではあるわけだから。
(文=田村十七男/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ランドローバー・ディフェンダー110 HSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車重:2240kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300PS(221kW)/5500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)255/60R20 113H M+S/(後)255/60R20 113H M+S(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:8.3km/リッター(WLTCモード)
価格:812万円/テスト車=956万1000円
オプション装備:ボディーカラー<アイガーグレー>(9万5000円)/コンフォート&コンビニエンスパック(10万4000円)/3ゾーンクライメートコントロール<リアクーリングアシスト付き>(21万円)/エアクオリティーセンサー(8000円)/空気イオン化テクノロジー(1万9000円)/電子制御アクティブディファレンシャル<トルクベクタリングバイブレーキ付き>(18万3000円)/20インチ“スタイル5098”5スポーク<サテンダークグレイフィニッシュ>(6万8000円)/マニュアル3列目シート<ヒーター付き>(32万円)/ヘッドアップディスプレイ(15万4000円)/プライバシーガラス(7万3000円)/コールドクライメートパック(10万9000円)/クロスカービーム<ホワイトパウダーコートブラッシュドフィニッシュ>(3万5000円)/60:40ラゲッジスルーマニュアルスライディング&リクライニングリアシート<ヒーター、センターアームレスト付き>(6万3000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:6940km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:328.8km
使用燃料:45.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.3km/リッター (満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)

田村 十七男
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