スバル・インプレッサスポーツSTI Sport(FF/CVT)
大人だったら響くはず 2021.02.08 試乗記 2020年秋に実施された「スバル・インプレッサスポーツ」の一部改良にあわせ、ラインナップに加わった「STI Sport」。ワインディングロードを舞台に、STIが新たにFFモデルで手がけたチューニングレシピを味わった。モータースポーツの頂点を極めたSTI
1995年から3年連続でWRC(世界ラリー選手権)のマニュファクチャラーズチャンピオンを獲得したスバル。その活動を支えてきたのが、1988年に誕生したSTI(スバルテクニカインターナショナル)である。ブルーのボディーカラーが印象的な「インプレッサ」が大地を駆け抜ける姿に胸躍らせ、WRCに夢中になった人や、インプレッサを手に入れたという人は少なくないはずだ。
現在ではニュルブルクリンク24時間レースや日本のSUPER GTなどで活動を続けているSTIだが、モータースポーツで磨いてきたクルマづくりの技を、コンプリートカーやパフォーマンスパーツといったプロダクト開発にも生かしている。
なかでも「Sシリーズ」と呼ばれる究極のコンプリートカーは、STIが開発からパーツの装着までを担当し、エンジンのパワーアップと、それにふさわしいシャシー性能で得たエキサイティングな走りが、ファンの心をつかんできた。ただ、こだわりの詰まったSシリーズの開発や生産には多くの時間を要し、生産台数が限られるという悩みがあった。
そこで、より多くの人にSTIの魅力を届けるために生まれたのが「STI Sport」というコンプリートカーだ。開発はスバルとSTIが共同で進め、生産はスバルの工場で行われる。スバル車のいちグレードとして販売され、手の届きやすい価格設定も手伝って、より幅広いファンにアピールするモデルとなっているのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
FFモデルもラインナップ
そんなSTI Sportの最新作がインプレッサスポーツSTI Sportだ。スバル自慢のシンメトリカルAWD仕様に加えて、STI Sportとして初となるFF仕様を用意。今回は、より価格も手ごろなFFモデルに試乗することができた。
初めて実車を目の当たりにした印象は、「派手さこそないものの、キリッと引き締まったクールなハッチバック」というものであった。明るいアイスシルバーメタリックのボディーに、ダークメタリックの18インチアルミホイールやブラックのエクステリアパーツが、精悍(せいかん)さを際立たせている。スポーツモデルでありながら、やりすぎ感のない、大人のコーディネートがうれしい。ブラックのフロントグリルに配されるチェリーレッドのSTIエンブレムがアクセントだ。
それに比べると、インテリアはわりと華やかだ。黒を基調としたインテリアは、落ち着いたレッドをあしらったシートをはじめ、レッドステッチが施されたステアリングホイールやダッシュボード、つやのあるブラックのパネルなどにより、グレードアップした印象だ。
もちろんSTI Sportをうたうだけに、走りにかかわる部分にも手が入れられている。目玉は、専用開発のフロントダンパー。ショーワ製のSFRD(Sensitive Frequency Response Damper=周波数応答型ダンパー)を、STIがこのクルマにあわせてチューニングしているのだ。さらにリアダンパーも専用のチューニングを施すことで、意のままのハンドリングと、滑らかで質感の高い乗り心地を目指したという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
エンジンはノーマルのまま
その一方で、2リッター水平対向DOHC直噴ガソリンエンジンはノーマルのままで、最高出力154PS、最大トルク196N・mのスペックは「インプレッサスポーツ2.0i-L EyeSight」と同一である。実はこれもSTI Sportの特徴のひとつで、パワーアップによってクルマの速さを求めるのではなく、シャシー性能を高めることで走りの楽しさを提供するのが、STI Sportの狙いなのだという。
それだけに、パワーアップを果たしたスポーツモデルのような期待を抱くのはお門違いということになるが、1350kgのボディーにこのパワーとこのトルクだから、冷静に考えれば十分なエンジン性能であるのは想像に難くない。
実際、CVTの「リニアトロニック」と組み合わされたフラット4は、低回転から余裕ある加速をみせる。パワーユニットの制御が切り替えられる「SIドライブ」は、燃費に配慮したという「インテリジェントモード(I)」ではややおとなしい印象だが、「スポーツモード(S)」を選ぶとエンジン回転が上がり、アクセルペダルに対するレスポンスも向上する。
アクセルペダルを踏み込むと、シャーというCVTからの金属音を控えめに発しながら、乾いたフラット4のサウンドを楽しめるのもうれしいところだ。154PSの“使い切れるパワー”は圧倒的な速さこそないが、このクルマを気持ちよく走らせるには十分な実力といえる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
珠玉のシャシー性能
驚いたのはSTI Sportの走り。専用開発のフロントダンパーに、18インチホイール、さらにSTIスポーツという名前だけに、運転するまでは身構えていたが、実に洗練された動きをみせるのである。
この日は高速道路やワインディングロードのほか比較的荒れた舗装の一般道も走ったが、しなやかに動くサスペンションがフラットな姿勢を保ちながら、路面からの細かいショックをカットし、思いのほか乗り心地は快適。目地段差を越える際もショックを軽くいなしてくれる感じだ。前述のSFRDは、電子制御の力を借りずに、伝わる振動の周波数に応じて減衰力を自動的に調整するといい、路面からの微振動を感じさせないのはこのSFRDが貢献しているようである。
一方、ワインディングロードを走る場面では、ステアリング操作にすぐさま呼応して、すっと向きを変える軽快なハンドリングを示す。コーナーを通過する際のロールの動きはしっかり抑えられ、しなやかさが際立つサスペンションが路面をしっかりと捉えてくれる。その一連の動きは、ドライバーの意図したとおりのものだけに、運転がうまくなったような気にさせてくれるのだ。
乗り心地が快適なぶん、運転しても疲れ知らず。耐久レースで勝つには、楽に運転できるマシンづくりが不可欠といわれるが、そのノウハウは、STI Sportのそういう部分にも息づいているということだろう。
絶対的な速さではなく、操る楽しさを加速させるチューニングが気持ちいいSTI Sport。酸いも甘いもかみわける大人におすすめしたい一台である。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スバル・インプレッサスポーツSTI Sport
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1775×1480mm
ホイールベース:2670mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:154PS(113kW)/6000rpm
最大トルク:196N・m(20.0kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 88W/(後)225/40R18 88W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:13.0km/リッター(WLTCモード)/15.5km/リッター(JC08モード)
価格:270万6000円/テスト車=306万4600円
オプション装備:アイサイトセイフティプラス<運転支援、視界拡張>(7万7000円) ※以下、販売店オプション DIATONEサウンドビルトインナビ(25万0360円)/光VICS対応ETC2.0車載器キット(5万9180円)/フロアカーペット(3万1240円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1057km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:303.0km
使用燃料:27.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/12.2km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
NEW
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.29試乗記「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。 -
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.28デイリーコラム今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。 -
第51回:290万円の高額グレードが約4割で受注1万台! バカ売れ「デリカミニ」の衝撃
2025.11.28小沢コージの勢いまかせ!! リターンズわずか2年でのフルモデルチェンジが話題の新型「三菱デリカミニ」は、最上級グレードで300万円に迫る価格でも話題だ。ただし、その高額グレードを中心に売れまくっているというから不思議だ。小沢コージがその真相を探った。 -
ミツオカM55ファーストエディション
2025.11.27画像・写真光岡自動車が、生産台数250台限定の「ミツオカM55 1st Edition(エムダブルファイブ ファーストエディション)」を、2025年11月28日に発売。往年のGTカーを思わせる、その外装・内装を写真で紹介する。 -
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】
2025.11.27試乗記ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。 -
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影
2025.11.27マッキナ あらモーダ!「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
























































