ランドローバー・レンジローバー イヴォークSE P250(4WD/9AT)
いまどきの“小さな高級車” 2021.02.26 試乗記 ランドローバーが擁するプレミアムSUV製品群の「レンジローバー」シリーズ。その中にあって最もコンパクトなモデルが「レンジローバー イヴォーク」だ。東京から雪の群馬・嬬恋へのドライブを通し、そのボディーに凝縮されたレンジローバーの魅力に触れた。進化を続けるインフォテインメントシステム
2019年に登場した2世代目レンジローバー イヴォーク。ランドローバーのベストセラーモデルとして、「PTA(プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー)」と呼ばれる新開発のプラットフォームを採用し、また同ブランド初となるマイルドハイブリッド(MHEV)仕様を設定するなど、さまざまな新機軸を打ち出してきた。
2020年12月に受注を開始した2021年モデルでは、新たにMHEVを組み合わせた2リッター直4ディーゼルエンジン仕様「D200」(最高出力204PS/最大トルク430N・m)を追加。従来の2種類の2リッター直列4気筒ガソリンエンジン「P200」(最高出力200PS/最大トルク320N・m)、「P250」(最高出力249PS/最大トルク365N・m)と合わせ、エンジンタイプは3種類で、全10モデルの展開となった。
本来は、新しいディーゼル仕様で雪山に……という趣向だったのだが、コロナ禍の影響による生産の遅れなどもあってそれがかなわず、現状で最もパワフルなP250仕様でのテストドライブとなった。
インテリアは、ステアリングホイールの奥に12.3インチの液晶ディスプレイを、ダッシュボード中央には10インチのタッチスクリーンを上下に2つ配置し、物理スイッチを排したとてもシンプルでモダンなものだ。2021年モデルでは最新インフォテインメントシステム「Pivi」が標準装備となり、さらに上級グレードには、最先端の車載AI技術による自己学習型ナビゲーションシステムやオンラインアップデート、ストリーミングメディアやアプリなどを、データ容量を気にすることなく使用可能な「Pivi Pro」が搭載される。
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時代に即した装備とマテリアル
いまの時代に即した新オプションとして、空気浄化システムも用意される。車外の空気の状況をモニタリングし、一定以上の汚れを検知したら自動的にエアコンを内気循環に変更。同時に室内のCO2量もモニタリングし、必要に応じて内気循環を解除する。またエアコン稼働時にはマイナスイオンを発生し、PM2.5フィルターによって室内の微細な空気の汚れを取り除く。さらに、スマートフォンのアプリを使ってリモートでエアコンのファンを作動させ、車内の空気の入れ替えが可能と、小さな子どものいる家族にとっては、なによりうれしい装備だろう。
シートなどの素材には従来のレザーに加えて、自動車としては珍しいウール混紡のテキスタイルや、再生能力の高いユーカリの素材を使ったテキスタイルなどを用意する。試乗車にもその「ユーカリメランジテキスタイル」と「ウルトラファブリック」を組み合わせたシートが採用されていたが、とても肌触りがよく座り心地も良好だった。個人的にはレザーよりも、間違いなくこちらを選ぶ。
バックミラーはカメラ映像を映し出す「クリアサイトインテリアリアビューミラー」が装着されていた。一般的なルームミラーは、フレーム下のレバーを切り替えると防眩(ぼうげん)タイプとなるが、このアイテムではミラー部分がモニターとなり、視野角50度の高解像度映像を映し出す。ルーフ上に備えたカメラを使うので、ラゲッジが荷物満載であったり後席に人がいたりしてリアウィンドウの視界が遮られた状態であっても、まったく問題ない。最初は距離感をつかむのに多少の慣れが必要だが、試乗を終える頃には普通のミラーでは見づらいと感じたくらいだった。
雪道で力を発揮するドライブモード
運転支援システムも充実している。イヴォークで世界初採用となった、走行中にボンネットを“シースルー”にしたかのような映像をタッチスクリーンに表示し、車体下の路面状態やホイールの予測軌道などを確認できる「クリアサイトグラウンドビュー」に加え、ブラインドスポットアシスト、アダプティブクルーズコントロール(ACC)、クリアイグジットモニター、リアコリジョンモニター、リアトラフィックモニターなども装備される。
試乗車は、フィンランドのタイヤメーカー、ノキアンのスタッドレスタイヤ「ハッカペリッタR3 SUV」(235/50R20)を装着していた。ノキアンは世界で初めてウインタータイヤをつくったメーカーであり、欧州では定評がある。また21インチや22インチなど大径サイズが充実しているのも、欧州車オーナーにとってはうれしいところだ。高速道路での剛性感はさすがのもので、事前に言われなければスタッドレスタイヤだと気づかないかもしれない。一方雪上でも、操舵感もよく、制動力もしっかりと出ていた。圧雪アイスバーンなどもうまくクリアし、「日本の雪質に海外のタイヤはマッチしないのでは」という懸念は杞憂(きゆう)に終わった。
もちろんそこには、ランドローバーの本分であるオフロード性能も寄与している。イヴォークはドライビングモード切り替え機能として「テレインレスポンス2」を装備。「オート」「コンフォート」「ダイナミック」「エコ」「草/砂利/雪」「泥/わだち」「砂地」の7つのモードが選択可能で、雪上では「草/砂利/雪」を選択して走行したが、スリップするような場面は一度もなかった。
全長4.4mを切る車体に“レンジらしさ”を凝縮
ものは試しとDSC(横滑り防止装置)をオフにして、アクセルを大きめに踏み込むようなドライビングも試してみたが、挙動は終始安定していた。横置きエンジンプラットフォームといえども、さすがのランドローバー印であり、制御頼みではない基本性能の高さを感じた。もしモード選びに迷ったときは、「オート」を選択しておけば、路面状況をモニタリングして最適な車両設定(サスペンション、トランスミッション、トラクション)を自動選択してくれる。600mmの最大渡河水深は、大雨災害時などでも有用だろう。
イヴォークのオーナーにアンケートをとると、その大半が購入動機のひとつとしてデザインを挙げるという。フロントまわりをはじめボンネット、グリル、ヘッドライト、バンパーなどが面一(つらいち)になった意匠や、車両を施錠するか走行を始めるとドアパネルに格納される「デプロイアブルドアハンドル」など、デザイン性と機能性が非常にうまくバランスされている。2泊3日を共にしても、気に障るところがひとつもなかった。
イヴォークの全長は4380mm。実は「トヨタC-HR」(4390mm)より短い。一方で全幅は1905mmもあり、クラスを超えたワイドなボディーをフル活用してこのスタイルを実現している。同門のSUVとしてはコンパクトなボディーに、兄貴分である「ヴェラール」なみの上質さと、数々の最新デバイス、そしてレンジローバーの名にふさわしいオフロード性能を凝縮した、いまどきの“小さな高級車”なのだ。
(文=藤野太一/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォークSE P250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1905×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:249PS(183kW)/5500rpm
最大トルク:365N・m(37.2kgf・m)/1500-4500rpm
タイヤ:(前)235/50R20 104T XL M+S/(後)235/50R20 104T M+S(ノキアン・ハッカペリッタR3 SUV)
燃費:--km/リッター
価格:658万円/テスト車=883万5000円
オプション装備:ボディーカラー<カイコーラストーン>(8万7000円)/セキュアトラッカー(10万1000円)/ドライブパック(11万3000円)/空気イオン化テクノロジー(2万円)/Meridianサウンドシステム(15万2000円)/アダプティブダイナミクス(17万5000円)/クリアサイトインテリアリアビューミラー(1万7000円)/20インチ“スタイル5079”5スプリットスポークホイール<グロススパークルシルバーフィニッシュ>(4万4000円)/ヘッドアップディスプレイ(15万4000円)/ウインドスクリーン<ヒーター付き>(3万2000円)/ウオッシャーノズル<ヒーター付き>(2万4000円)/固定式パノラミックルーフ(20万9000円)/プライバシーガラス(6万6000円)/電動調整ステアリングコラム(2万2000円)/フロントフォグランプ(3万1000円)/コンフィギュラブルアンビエントインテリアライティング(4万5000円)/マトリクスLEDヘッドライト(13万5000円)/キーレスエントリー(10万円)/アクティビティーキー(6万3000円)/パワージェスチャーテールゲート(1万5000円)/ウェイドセンシング(0円)/パドルシフト<ブラック>(3万3000円)/プレミアムカーペットマット(3万8000円)/パネル<ナチュラルグレイアッシュ>(3万円)/地上波デジタルテレビ(11万3000円)/ラゲッジスペースストレージレール(5万4000円)/コンフィギュラブルダイナミクス(4万8000円)/ヘッドライニング<ライトオイスター、クロススエード>(21万8000円)/14ウェイフロントシート<ヒーター+メモリー機能付き>+リアシート<ヒーター付き>(11万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1万4834km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:389.5km
使用燃料:46.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)

藤野 太一
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