キャデラックXT4スポーツ(4WD/9AT)
思いきりアメリカン 2021.07.24 試乗記 スタイリッシュなフォルムに最新の快適装備を満載し、競争力のある価格設定とされたシティー派SUV「キャデラックXT4」。プレミアムセグメントを席巻する、欧州ブランドのライバルに対する米国キャデラックならではの個性と魅力とは?キャラクターちがいの3グレード構成
XT4は、グローバルで最量販のエントリーモデルと位置づけられているキャデラックだ。キャデラックは米ゼネラルモーターズ(GM)で屈指の国際商品(いちばん国際的なGM車は「シボレー・コルベット」だろう)だが、4種類のSUVと2種類のセダンという(来年発売予定のEVをのぞく)フルラインナップを展開できている市場は、地元の北米以外では中国と中東、韓国くらいしかない。ロシアではXT4を含むSUVを全機種展開するいっぽうで、セダンは1車種も売られない。英国やEUにいたっては、いま正規販売されるキャデラックはXT4しかない。XT4はまさにキャデラックの屋台骨だ。そして、こうした現状を見るに、世界的な潮流はやはりSUVなのだと痛感する。
米本国ではFFと4WDがあるXT4だが、日本仕様は4WDのみの3グレード構成となり、今回の試乗車となった「スポーツ」は順番としては真ん中の位置づけである。もっとも、その640万円という本体価格は最廉価の「プレミアム」より70万円高いが、最上級の「プラチナム」との価格差は30万円しかない。細かい装備内容を見ても、プラチナムがはっきり上級という印象はなく、横ならびのキャラクターちがいと捉えたほうが正確だ。
実際、先進運転支援システム(ADAS)の機能や20インチホイール、高精細メーター、ヘッドアップディスプレイ、前席マッサージ機能やベンチレーション機能、空気のイオン化&除菌機能付きエアコン……といった安価なプレミアムでは省かれる安全・安楽装備は、スポーツとプラチナム両方に備わる。電動ガラスサンルーフはプラチナムでしか手に入らないが、かわりにスポーツには「バリアブルリアルタイムダンピングサスペンション」という電子制御可変ダンパー(やフロントシートの電動調整サイドサポート)が専用装備として与えられる。価格は結果的にプラチナムが少しだけ高くとも、そこに明確な上下関係はない。
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圧倒的なコストパフォーマンス
XT4は“ジャーマンスリー”でいうと、「メルセデス・ベンツGLC」や「BMW X3」、「アウディQ5」との競合を想定する。スポーツで640万円、プラチナムで670万円というXT4の本体価格は、競合車のエントリーグレードのそれに合わせた設定といっていい。
しかし、ジャーマンスリーのエントリーグレードは、素の状態では意外と質素なケースが多い。ADASのフル機能に電動本革シート、大径ホイール、ナビ、ブランドオーディオ、ヘッドアップディスプレイ、そしてガラスサンルーフや可変ダンパーなどをオプション追加していくと、あっという間に100万円以上のエクストラが必要となる。対してXT4はすべての装備が標準である。ひとまずリセールなどを横に置けばコスパは圧倒的……なのは、XT4にかぎらず、ジャーマンスリーに対する全キャデラックに共通する美点だ。
XT4のインテリアはなんとも豪華できらびやか、そして心地よい。細かい建てつけはジャーマンスリーに少しだけ分があるかもしれないが、それはもはや重箱の隅レベルの差でしかない。それでいてXT4は本革シートのみならず、ダッシュボードからドアトリムまで丹念にレザーがあしらわれる。さらにはフロントシート両席とも8ウェイ電動調整で、ヒーター/ベンチレーションのほかマッサージ機能までが標準でつく。この価格でこれだけの装備……というのはジャーマンスリーではありえない。
後席まわりもシートヒーターなど装備は充実している。日本人の平均的体格なら絶対的な空間にも不足は感じないが、どことなく閉所感があり、着座姿勢も少し窮屈に思われるのは、意図的な設計だろう。なるほどXT4はエクステリアデザインもクーペ的である。アメリカ大陸だと、このクラスはやはり前席優先のパーソナルカーという使われかたが多い。
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ドライブモードで走りが変わる
ドライブモードは「ツーリング」「AWD」「スポーツ」「オフロード」という4種類があり、ドライブモードによってパワートレインや駆動制御、パワステのほか、今回試乗したスポーツグレードではダンパー制御も変わる。ダンパーが柔らかめで駆動システムがFF状態となるツーリングモードがデフォルトだが、山坂道でムチを入れるときだけでなく、日常域でも快適なのは4WDとなってダンパーも引き締まるスポーツモードである。
路面からの細かい突きあげに対しては、もちろんツーリングモードやAWDモードのほうが吸収力がある場面が多い。しかし、コイルやスタビライザーといったバネに対して減衰力が低すぎる傾向にあるのか、とくに低い速度域では、ヒョコヒョコと落ち着かないことがある。かといって、どこでもそういうわけでもなく、ちょっと路面を選ぶ感が強い。
この点、スポーツモードはどんな路面でもしっかりした足取りとなり、ツーリング/AWDモードにあったクセはほぼ解消する。それでいて極端に締まるわけでもなく、ジャーマンスリーあたりの平均と比較すれば「もっと硬くてもいいのでは?」と思えるくらいには柔らかく快適だ。このスポーツモードを標準にしたほうが一般受けはよさそうである。
ただ、どのモードでも刻々と減衰を可変する制御なので、いずれにしても速度やGが高まるほどアシは締まっていく。面白いのは低速では落ち着きに欠けるきらいがあったツーリング/AWDモードも、本格的なコーナリングで横Gが高まるほど適度に引き締まり、場合によってはスポーツモードより好印象のケースが多くなることだ。というわけで、日本の道路環境ではスポーツモードのほうがオールラウンドで、ワインディングではツーリング/AWDモードのほうが気持ちいい……といった逆転現象が起きるのが面白い。であれば、サスペンションやパワートレインの組み合わせを任意設定できるカスタマイズモードがあれば不満も一発解消するのだが、残念ながらXT4にその用意はない。
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上品な所作の電子デバイス
というわけで、このクルマの可変ダンパーを使いこなすには、路面や状況に応じて、こまめにドライブモードを選ぶのがいい。それはそれでクルマ好きには楽しい作業だが、それが煩わしいというなら、固定減衰となるプラチナムかプレミアムを選ぶといい。XT4は今回のスポーツでもことさらゴリゴリの味でもないし、他のグレードでも極端に軟弱になるわけではない。
XT4でスポーツモードが総じて心地よいのは、駆動システムが自動的に4WDになるからでもある。この最新4気筒ターボは掛け値なしにパワフルで、しかも低速からパンチがあり過給ラグもほとんど気にならない。なのに、3000rpm、4000rpm、5000rpm……と回転上昇にともなってより活発になって回しがいのあるエンジンなのだ。このエンジンを存分に楽しもうとすると、FFではときにフロントタイヤが音をあげる。
XT4の4WD機構は後輪の左右それぞれに油圧多板クラッチを配するオンデマンド型にしてトルクベクタリング型だが、その所作はあくまで控えめだ。しかし、ブレーキング、ステアリング、アクセル操作のタイミングがばっちり決まったときには、テールをわずかに沈めながら、背後から軽く押しだすように滑らかに回頭していく瞬間がある。これがトルクベクタリング効果だと思われる。XT4のそれには一部の同種システムのように、これ見よがしにグリグリ曲げる効果はないが、あくまで黒子に徹しながらも、そっとアシストする上品な所作は悪くない。
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個性と魅力にあふれるSUV
繰り返しになるが、ロシアを含む欧州では、現在キャデラックのセダンは売られていない。そう考えると、コンパクトセダンの「CT4」以外の基本車種がすべて買える日本は、世界的にもキャデラックが充実した市場のひとつではある。ただ、キャデラック関連の記事を書かせていただくたびに、「日本で左ハンドルは論外」というご意見を少なからず頂戴する。それはXT4のみならず日本で販売されるキャデラックがすべて左ハンドルだからだが、そのご意見はまったくもって正論である。
ただ、GMの日本法人も今どき「左ハンドルのガイシャがエラい」などという時代錯誤をしているわけではなく、現行キャデラックには世界的に右ハンドルが存在しない。同じく左側通行の英国でも、やはり左ハンドルのまま売られている。キャデラックも一時は右ハンドルをつくっていたが、コストや効率の面で割が合わないと判断されたのだろう。この点でいうと、新型でついに右ハンドルを用意したシボレー・コルベットのほうがキャデラックよりはるかに国際派だ。
左ハンドルには賛否両論あるとはいえ、いかにもアメリカンにきらびやかな内外装デザイン、正確なのに軽く滑らかなキャデラックらしいステアリングフィール、緻密さと豪快さを両立したエンジン、ドライバー心理にシンクロする実践的なADAS制御、上品な4WDシステムなど(ハンドル位置以外は)国際派高級車ブランドに恥じないハードウエアに加えて、圧倒的なコスパ……をもつキャデラックは、素直に魅力のあるクルマである。日本における販売台数でジャーマンスリーをしのぐことは考えにくいが、こうして日本でもきちんと売っていただけるだけで、ひとりのクルマ好きとしてはありがたい思いだ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
キャデラックXT4スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4605×1875×1625mm
ホイールベース:2775mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:230PS/5000rpm
最大トルク:350N・m(35.6kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)245/45ZR20 99V/(後)245/45ZR20 99V(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:--km/リッター
価格:640万円/テスト車=662万3300円
オプション装備:ボディーカラー<オータムメタリック>(13万2000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット(6万0500円)/ETC2.0車載器(3万0800円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:8302km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:408.5km
使用燃料:48.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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