トヨタ・アクアZ(FF/CVT)
10年後に向けた進化 2021.08.24 試乗記 フルモデルチェンジしたトヨタのハイブリッドカー「アクア」に試乗。新しくなった内外装や、世界初となるバイポーラ型ニッケル水素電池が搭載されたパワートレインの仕上がりを確かめながら、同門のコンパクトカー「ヤリス」との違いを探った。注目の新型バッテリーを搭載
新型アクアの試乗車を受け取ってスタートボタンを押すと、10.5インチのセンターモニターに表示されたのは素っ気ないメニュー画面。「MAP」と印字されたスイッチを押してもナビ画面にはならない。ディーラーオプションのナビキットを付けなければ、カーナビは使えないのだ。スマホのナビアプリと連携させる必要があるのだが、あいにく接続ケーブルを持っていなかった。これからはディスプレイだけを装備してさまざまな機能をスマホ連携で使うことが増えそうだから、接続ケーブルは必需品かもしれない。
ナビは諦めて発進しようとすると、今度はパーキングブレーキの解除スイッチが見当たらない。足踏み式だったのだ。新旧の機構が混在しているから戸惑ってしまった。シフトセレクターはコンパクトな最新式である。メーターは先代ではダッシュボード真ん中の上部にあったのが、ドライバー正面に変更された。
センターディスプレイの下に、エアコンなどの操作スイッチが配されている。フィジカルなボタンやダイヤルの組み合わせで、トレンドのタッチ式ではない。使いやすさを優先するならば、これが正解になるだろう。黒が基調のインテリアはプラスチックパネルとソフトパッドのコンビネーション。カメラマン泣かせのピアノブラックは少なめで、落ち着いたトーンになっている。
今回のモデルチェンジで最も注目されているのがバッテリーである。新開発の「バイポーラ型ニッケル水素電池」を採用した。バイポーラとは双極という意味で、電気の通り道となる集電体の裏表に正極と負極を付ける構造である。シンプルなので従来型よりコンパクトになり、出力が向上するうえにセルを増やすことができるという画期的なバッテリーなのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
EV走行比率が増えて静粛性が向上
バッテリーの進化は、走りの質感を高めることに直結する。出力性能は先代の110%増しになっており、15km/hまでだったEV走行は40km/hまで可能に。電動車らしさがより強く感じられるようになる。エンジンがかかってからも回転数を低く抑えられるので、ハイブリッド走行時の上質感も向上するのだ。バッテリーの入力性能も95%改善していて、回生能力を高めることで燃費にも貢献しているそうだ。
実際に走ってみると、確かに室内は静かだ。コンパクトカーらしからぬ静粛性である。急加速する際にはもちろんエンジン音が高まるが、その割合が低くなっているようだ。メーター内に示される「EV走行比率」を見ると、少し飛ばし気味であっても60%を超える数字を保っていた。エンジニアによると、これまでは「エンジン回転数の伸び方と車速の伸び方がマッチしない」ことが弱点だったそうで、バッテリー出力向上は加速フィールをリニアにする効果もあったという。
バッテリーと並ぶ新型アクアのアピールポイントが「快感ペダル」である。「日産ノート」や「BMW i3」で使われているワンペダル操作をトヨタとして初めて取り入れたのだ。後発ゆえにキャッチーな呼び名を考えたわけだが、微妙なネーミングではある。早速試してみようと思ってスイッチを探したが見つからない。快感ペダルボタンを押すということではなかったのだ。シフトセレクターの左側に「DRIVE MODE」ボタンがあり、「POWER+」というモードを選ぶと作動する。
POWER+はスポーティーな走りのモードなので、レスポンスが鋭くなり加速が力強くなる。アクセルを離すと即座に減速が始まるということなのだが、あまり強い減速Gは感じなかった。ワインディングロードでワンペダルのスポーツ走行をするのは難しそうだ。完全に停止することはないので最終的にはブレーキを踏む必要がある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
快感ペダルはマイルドな設定
初代ノートの「e-POWER」ははっきりとワンペダル運転を志向していたが、2代目はブレーキを併用するスタイルに変えた。ワンペダル運転がとてもエキサイティングなのは事実でも、違和感を覚える人は少なくなかったらしい。アクアの快感ペダルは、2代目ノートのe-POWERよりさらにマイルドである。数字で言うと、減速度は0.1G。通常モードでは0.04Gなので2倍以上の減速度だが、急激にスピードが下がるという感覚ではない。
開発陣は初代ノートe-POWERに乗ってフィールを確かめた。運転するととても気持ちよかったが、同乗者からは不満が出たという。クルマ酔いしそうになるという指摘があったのだ。街なかでのコントロールしやすさを主眼に置き、検討した結果0.1Gを選んだ。極端に走らないのはトヨタらしい。だから、“アクセルペダルによる自在な加減速コントロール”とうたうのは誤解を招くのではないかと思う。アクアは幅広いユーザーをターゲットにしており、いい意味で普通のクルマなのだ。
バッテリーやモーター以外にも、新型アクアには明瞭な進化が見て取れる。「TNGA」にもとづく「GA-B」プラットフォームを採用しており、構造の見直しや接着剤の多用によってボディー剛性を高めたという。先代アクアは目地段差の乗り越え時などにコツンと響いたが、新型では衝撃が緩和された。コンパクトカーにありがちなピョコピョコした動きがなくなったのは、ホイールベースが50mm延長されたことも関係しているだろう。
ロングホイールベースは、室内スペースの拡張にも貢献している。後席には十分な空間が確保されているし、荷室容量は先代よりわずかに縮小しながらも使い勝手を改善して実用的な形状にしたという。全高が30mm高くなったことも効いていそうだ。背が高くなっていてもエクステリアはいかにもアクアというフォルムで、それでいて洗練度を増した。巧みなデザインである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「ヤリス」と補完し合う関係
セットオプションで自動駐車機能の「アドバンストパーク」が装備されていたので試してみた。シフトセレクターの左にあるPボタンを押すと作動し、モニターに駐車場所が表示される。「開始」をタッチしてブレーキを離すと自動でステアリングを切りながら前進し、自動でシフトを切り替えて後退。正確に駐車スペースに収まった。スペースの認識も動作も素早く、開始から10秒ほどしかかかっていない。万が一のためにブレーキペダルに足を添えておく必要はあるが、「日産リーフ」と肩を並べる実用的な自動駐車機能である。
SUVの急伸長でコンパクトハッチバックはトレンドからはずれたようにも見えるが、日本ではまだまだボリュームゾーンだ。各社から手ごわいライバルが発売されており、トヨタのなかにも「ヤリス」という競合車がある。食い合いになっては元も子もないわけで、アクアの開発陣は当然そのことを意識していた。ただ、無理に差異化しようとは考えなかったそうだ。
異なるターゲットユーザーに向けて開発した結果、違うクルマに仕上がったのだという。ヤリスは曲がるという性能を優先していて、クルマの運転が好きな若い人やセカンドカーとしての需要に対応。アクアはクルマ初心者から高齢者までを対象とし、一家に一台という使われ方を想定している。後席や荷室のスペースを重視するならアクアを選んだほうがいい。操縦性ではヤリスに譲るものの、乗り心地ではアクアに軍配が上がる。
互いに補完し合う関係なのだ。「ホンダ・フィット」や日産ノートなどのライバルと戦うためには、2つの個性があったほうがいい。約10年ぶりに2代目となった新型アクアを、トヨタは「さらに次の10年を見据えたコンパクトカー」と位置づけている。世界的にEVへの転換を促進する動きがあるなかで、ハイブリッドシステムをさらに進化させることに十分な意義があると判断したのだろう。国内専用の小型大衆車に最先端のバッテリー技術を投入したことに、トヨタの本気が表れている。ハイブリッドカーにはまだまだ可能性が残されているという強い主張を感じた。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・アクアZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4050×1695×1485mm
ホイールベース:2600mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:33.6km/リッター(WLTCモード)
価格:240万円/テスト車=281万3600円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパールマイカ>(3万3000円)/195/55R16タイヤ&16×6Jアルミホイール<切削光沢、ダークグレーメタリック、センターオーナメント付き>(3万9600円)/トヨタチームメイト<アドバンストパーク[シースルービュー機能付きパノラミックビューモニター+周囲静止物パーキングサポートブレーキ]>+静止時警報機能付きブラインドスポットモニター<BMS>+前後方静止物パーキングサポートブレーキ+後方接近車両パーキングサポートブレーキ+カラーヘッドアップディスプレイ(18万8100円) ※以下、販売店オプション アジャスタブルデッキボード<2段デッキ>(1万4300円)/トノカバー(1万6500円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<デラックス>(2万5850円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1957km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:161.2km
使用燃料:8.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:20.2km/リッター(満タン法)/24.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
NEW
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。 -
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える
2026.6.1デイリーコラム具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.6.1試乗記「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。





















































