レクサスCT200h“バージョンL”(FF/CVT)【試乗記】
優雅な乗り手でありたい 2011.03.18 試乗記 レクサスCT200h“バージョンL”(FF/CVT)……470万3200円
レクサス印のコンパクトハッチ「CT200h」。「走りの歓び」をアピールするニューモデルで、箱根を走って感じたことは……。
音が「プリウス」
GAZOO Racingが開催する「ハイブリッド・チャレンジ」というイベントを見る機会があった。日本のハイブリッドカーがサーキットに集まり、燃費性能を競うレースである。参加していたのは、トヨタの新旧「プリウス」のほかに「SAI」、レクサスの「HS250h」「CT200h」、ホンダからは新旧「インサイト」「CR-Z」「フィットハイブリッド」というラインナップだ。最も多い参加車はやはり現行プリウスで、1位から5位までを独占する圧勝。優勝チームは31.9km/リッターという驚異的な燃費をたたき出していた。
対してCT200hはというと、トップチームの成績が21.4km/リッターだったから、差は大きい。ドライバーの技量によるところも大きいとは思うが、戦闘力に決定的な違いがあったのは確かだろう。でも、中身は同じという話である。たしかに、スタートする様子を見ていたら、エンジンフードの下から聞こえてくる音がまったく同じだった。ハイブリッドのシステムが共通だから、モーターが始動する時に同じ動作をしているわけだ。2代目プリウスは明らかに違う音だし、インサイトはそもそもエンジン音がする。
もちろん、同じなのはドライブトレインだけである。スタートボタンを押したときに、それを実感する。ピアノを奏でる「レクサス始動音」が、厳かにシステムが立ち上がることを告げるのだ。手に触れるところはワンランク上の質感で、コクピット然とした運転席のたたずまいも高級感とスポーティさが覆っている。
ディスプレイの操作は最近のレクサスに取り入れられたジョイスティックとボタンを使うもので、画面に直接タッチするより格段に上品だ。これが、思いのほか使いやすい。この手のコントローラーは操作に違和感を持ってしまうものが多かったが、ようやく感覚にフィットした使い勝手のものが現れたように思う。
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スムーズでしっとり
走りだって、プリウスとはずいぶん印象が異なる。モーターとエンジンがスムーズに連携してボディを運んでいく美質を受け継いでいるのは当然で、そこになんともいえぬしっとりとした落ち着きが加わっている。プリウスをおとしめるつもりはないが、これに比べるとどうしても挙措が軽々しく、洗練度が低いように思えてしまう。ほめ過ぎを承知で言えば、人とクルマの間に一枚しなやかな薄い布が挟まったような、フランス車にも通じる心地良さがCT200hにはある。
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これは逆に作用する意味もあって、あまり積極的に飛ばそうという気にはならなかった。できるだけ優雅な乗り手でありたいという気分に誘い込まれる。スポーティさをウリにしているはずなのだが、いかんともしがたい。ただ、燃費に関して言えば、これは有利な条件とも考えられる。そこまで深謀遠慮の末の味つけというわけでもないだろうけれど。
瞬間燃費やエネルギーの流れをディスプレイに示してエコ走行を促すのは、今ではごく当たり前の装備になった。この点でも、CT200hはいくぶんの工夫がある。「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の走行モードの切り替えは、センターコンソールのダイヤルを操作して行う。「エコ」と「ノーマル」ではメーターが青く光っているのだが、スポーツモードにすると全体が赤く染まるのだ。映画の『トロン』を思わせる演出である。最近公開された続編は観ていないが、1982年版では青が善玉で赤く光っているのは悪いヤツだった。
自分でカスタマイズすることもできるけれど、デフォルトでは「エコ」「ノーマル」時にメーター左にハイブリッドシステムインジケーターが現れ、「スポーツ」にするとそれがタコメーターに変わる。燃費を良くしたければ、「エコ」モードを選んだ上で、常に針が「エコ」の領域に留まるようにすればいい。
箱根では「スポーツ」で
やってみると、これが結構難しい。ちょっと油断すると、たちまち「パワー」の領域へと針が飛び込んでしまう。特に、始動時に「エコ」をキープするのは至難の業。現実的には不可能に近い。とてつもなく緩慢な加速しかできないから、交通の流れを阻害して周りのクルマに迷惑をかけることになる。「ふんわりアクセルeスタート」なんてお題目がいかに絵に描いた餅なのかがよくわかった。
高速道路でも、常に「エコ」状態で走ることはかなわない。前車との距離を一定に保ちながらスピードをコントロールするには、やはりどうしてもアクセルを踏み込む必要のある場面が頻繁に現れる。緩やかな上りでも、渋滞の原因を作らないようにするには、針の角度が上昇していくのに目をつぶらざるを得ない。長時間これを続けると、結構ストレスがたまる。
箱根では、頭から燃費のことを完全に吹き払って走ってみた。もちろん、モードは「スポーツ」で、パドルを操作してターンパイクから芦ノ湖スカイラインへと向かった。試乗できたのが土曜日だったので、観光客のクルマが多い。売れ行きナンバーワンのプリウスの姿はやはりよく見かけるわけで、ことごとく燃費の良さそうな模範的走り方をしている。安全な場所で追い抜かせてもらって存分に楽しんでいたら、メーターが示す燃費はみるみるうちに下がって、12km/リッター台にまで落ちてしまった。
燃費以外の価値
翌日、もう少し条件の良いコースを走ることにした。箱根とは反対側、東の千葉、房総半島を目指したのである。険しい山である箱根とは違い、房総は比較的アップダウンが少なく、穏やかな道が多い。アクセスするための東京湾アクアラインは基本的にまっすぐだから、自制心を最大限に発揮して走れば燃費は向上するはずである。
ダイヤルで「エコ」を選んでパドルは使わず、なだらかなカーブをゆったりと抜けていく。インジケーターばかり気にしないで、ある程度まではしっかりと加速し、そのあとはアクセルを緩めてクルージングする。高速道路で南下し、海岸に出たら海沿いの道をゆったり流した。アクアラインまで戻ってきたら、通算燃費は17.4km/リッターまで回復していた。この数字なら、なんとか合格点だろう。
試乗しているあいだ、CT200hには一度も遭遇しなかった。しっとりした乗り心地に、革をふんだんに使った内装。そういった上質感のほかに「同じクルマに出会わない」ということも購入者への訴求ポイントになるのかもしれない。プリウスに乗っていたら、のべつお仲間とすれ違うことになる。人気のある証だが、それがうれしくない人もいるだろう。
ハイブリッドカーがごく普通のものになってきた今、商品性を向上させるためには何らかの付加価値が求められる。燃費を至上の価値として追い求めるならばプリウスを買えばいいし、トータルの経済性を考えるならフィットハイブリッドが有力な選択肢になる。プレミアム気分を重視する向きには、CT200hが最上のクルマになるのかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=菊池貴之)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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