トヨタGR86 RZ(FR/6MT)
危ういバランス 2022.01.25 試乗記 いまや貴重な自然吸気エンジンもマニュアルトランスミッションも見事に守られた「トヨタGR86」だが、早くも気になるのは今後の展開だ。スポーツカーがどんどん生きづらくなるのは必然の情勢で、果たしてどういう進化を遂げていくのだろうか。あり余るパワー
トヨタGR86のステアリングホイールを握って走りだすと、「ムムッ、速い! 速すぎる!!」と思うわけです。いやいや、なんぼエンジン排気量が2リッターから2.4リッターに拡大したからといって、そこまでではないでしょ、と突っ込む読者の方も多いことでしょう。たしかに。
乗っているのは、GR86の最上級グレードたる「RZ」(6MT)。フロントに積んだ2387cc水平対向4気筒エンジンは、最高出力235PS/7000rpm、最大トルク250N・m/3700rpmのスペックを持つ。従来は207PSと212N・mだったから、389ccの排気量アップによって、最高出力で28PS、最大トルクで38N・mの増大を得たことになる。
モデルチェンジを受けても車両寸法がほとんど変わらなかったこともあり(新型のほうが25mm長く、40mm低い<シャークフィンアンテナを含まず>)、試乗車RZの車重は1270kgに抑えられた。先代の「GTリミテッド」が1240kgだから、パワー・トゥ・ウェイト・レシオでは、6.0kg/PSから5.4kg/PSに向上している。
日常使いでありがたいのはトルクが太くなったことで、2700rpmも低い3700rpmで最大トルクを発生するようになった。街なかで、さしてエンジンを回さなくとも、出足のよさや力強い加速を実感できる。一方、ひとたびフラット4をフルスケール回すようなシチュエーションともなれば、余裕ある排気量を生かして、回転が上がるにつれて素直に伸びていくパワーを堪能できる。素晴らしいですね、新型GR86。
マニュアルが選べる!
トヨタGR86のグレードは、「RC」「SZ」に試乗車のRZの3種類。とはいえ、RCは競技用のベース車だから、実質、ベーシックなSZと上級版のRZに分けられる。両者に機関的な違いはないが、ホイールサイズが前者は17インチ、後者が18インチとなる。
最も差別化が図られたのは内装で、シンプルなファブリックシートのSZに対し、RZにはウルトラスエードと本革のコンビネーションシートがおごられる。うーん、ぜいたく。とはいえSZでも、ステアリングホイールやシフトレバー、パーキングブレーキといった頻繁に手が触れるパーツが本革巻きになっているのは良心的だ。
昨今のユーザーにとって、インテリアの違いより気になるのが運転支援システムや先進安全装備の充実度合いだろう。GR86は、最近では珍しい3ペダル式MTを選べるモデルだが、この点においては非常に不利だ。SZ、RZを問わず、6段MT車には、「アイサイトコアテクノロジー」が搭載されないのがイタい。前走車に追従する高機能型のクルーズコントロールやプリクラッシュブレーキ、後退時ブレーキアシストといった機能が装備されない。
言うまでもなく、AT車と比較して、マニュアル車はドライバーを介さずクルマが自らコントロールできる幅が狭いからである。動力、燃費性能の面でATモデルの後塵(こうじん)を拝するようになって久しく、自動運転においても圧倒的に不利な立場にある3ペダル式MT車。いまや設定があるだけで御の字かもしれない。
価格は、SZの6MTが303万6000円。RZが334万9000円。6AT車は、いずれも16.3万円高となる。
「速いは正義」ではあるものの
「新しいGR86をたたいてみると、『正常進化』の音がする」。昨2021年に登場した2代目は、そんな感じのニューモデルだ。前述の通りボクサーエンジンは迫力を増し、ボディーも相応に剛性アップが図られた。外観は、エアロダイナミクスをより意識してシンプルになったけれど、いかにもFRスポーツらしいフォルムが好ましい。
足まわりのチューンも入念に施され、姉妹車たる「スバルBRZ」とのキャラクター分けもしっかりなされた。発売前にGR86のプリプロダクションモデルに乗った豊田社長から、「これではイカン」とダメ出しされてサスペンションセッティングをやり直した。そのため発売が延期になって……というストーリーも、クルマ好きにはうれしかろう。
ケチのつけようがない新型車でドライブしながら考えるのは、「スポーツカーのインフレ問題」である。具体的には、スポーツカーがひとたび発売されると、以後、段階的に性能が上がっていくことだ。
「モアパワー!」を求めるのがスポーツカー乗りの本能で、スポーツカーにとって「速いは正義」だから、“問題”というには語弊があるけれど、GR86/スバルBRZのような、よくも悪くも大衆向けのベーシックなスポーツモデルにとって、どんどん性能が上がっていくのは、なかなか微妙な要素を含んでいるのではないでしょうか。
思い出すのは「MR2」
一般にスポーツカーという車種は、話題になるわりに売れない。口を出すクルマ好きは多いが、お金を出すユーザーは少ない。ことに、GR86/BRZのような庶民派スポーツカーは厳しくて、順次改良して性能を上げるにつれ、価格も上昇し、一般的な運転好きが「楽しい」と感じる領域から離れていく傾向にある。
いまのGR86/BRZは、けっこうギリギリのところにあるんじゃないでしょうか。というか、冒頭に記した通り、一般ドライバーに向けた「スポーツカーの入門モデル」としては少々速すぎる。ドライビングテクニックにおいて無駄にビギナー歴が長いワタシがそう言うのだから、間違いない。
「スポーツカーのインフレ問題」に関して思い浮かべるモデルのひとつに、「トヨタMR2」がある。初代は、1.6リッターエンジンをドライバーの背後に積んだ国内初の市販ミドシップモデルにもかかわらず、決してスポーツカーと呼ばず、トヨタは街なかを軽やかに駆け抜けるランナバウトだと言い張った。暴走行為と結びつけられるのをいやがったんですね。
2代目は一転、派手なフェラーリルックをまとって本格スポーツカーを標榜(ひょうぼう)。上級グレードの「GT」は、1270kgのウェイトに最高出力245PSの2リッターターボを積んでいた。搭載位置も過給機の有無もGR86とは違うけれど、このあたりの数値が公道上では「いい案配」なのだろう。
当時のトヨタも「そろそろ潮時」と考えたか、次の「MR-S」は、1.8リッターNAをミドに積んだライトウェイトスポーツにキャラクターを変えてきた。気軽に楽しめるお手ごろハンドリングマシンとして個人的には大いに感心したが、あまり売れなかった。「やはりスポーツカーは性能を落としてはいけないのか」と残念に思ったものです。そういえば、トヨタもMR-SをMR2の後継とは呼ばなかったな。
長引くコロナ禍と半導体不足のなか、ようやく新型GR86、BRZを路上で見るようになったタイミングであまりに気が早いハナシだが、今後、両モデルはどうなるのだろう? 次世代のモデルは、プラットフォームを一新してググッと性能を押し上げるか。電動化は避けられないのか。はたまた存在意義が薄れたとしてお取りつぶしに遭うか。気になるところだ。
天が落ちることを心配していると、ますますNAのピュアエンジン車で3ペダル式6MTも選べる現行モデルが貴重に思えてきた。余談ながら、いま注文すると、納期は3カ月程度だそうです。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタGR86 RZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:334万9000円/テスト車=376万5020円
オプション装備:ボディーカラー<スパークレッド>(5万5000円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビ<9インチモデル>(24万0350円)/カメラ一体型ドライブレコーダー<ナビ連動タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット<ナビ連動タイプ・光ビーコン付き>/(3万3220円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2540km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】 2026.8.15 英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
アウディQ3 TFSI 110kWアドバンスト(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.8 アウディのミドルサイズSUV「Q3」の新型が日本に上陸。デザインやインターフェイスは新しくなっているが、さまざまな事情によってクルマとしての基本コンポーネンツは先代を踏襲しているのが3代目の実情だ。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。FWDのエントリーグレードを試す。
-
NEW
第342回:どうしてこんなに高いんですか
2026.8.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は? -
NEW
次期「スカイライン」はこうしてつくられる! 日産が今やろうとしている開発効率化の取り組みとは?
2026.8.17デイリーコラム日産はいま車両開発期間の大幅短縮に向けて、大きなチャレンジをしているという。現在開発が進んでいる次期「スカイライン」に適用されるというその手法は、従来のやり方とどう違うのか? 世良耕太が解説する。 -
NEW
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】
2026.8.17試乗記BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。 -
ルノー・グランカングー クルール(後編)
2026.8.16ミスター・スバル 辰己英治の目利きミスター・スバルこと辰己英治さんが、3列7人乗りのMPV「ルノー・グランカングー」に試乗! スバルやSTIでクルマの走りを鍛えてきた彼の目に、フランス発の商用車はどう映ったのか? 商用・乗用を問わない“自動車の走りのキモ”を語ってもらった。 -
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】
2026.8.15試乗記英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。 -
目指すは究極の走りと官能性 「ランボルギーニ・レヴエルトSV」の核心をキーマンが語る
2026.8.15デイリーコラムランボルギーニが「レヴエルト」の進化モデル「レヴエルトSV」を発表。強力なV12エンジンとプラグインハイブリッドシステムを搭載したフラッグシップは、いかなる進化を遂げたのか? V12モデルのディレクターを務めるキーマンが、その核心を語った。


























































