BMWアルピナXB7(4WD/8AT)【試乗記】
有終の美ではない 2022.04.25 試乗記 独立した自動車メーカーとしてのアルピナの歴史が間もなく終わろうとしている。静かにフェードアウトしていくのもひとつのやり方だろうが、アルピナは最後の最後まで開発の手を緩めることはないはずだ。超ド級SUV「XB7」をドライブしてそう感じた。アルピナ一族の決断
高性能を声高に主張する押し出しの強さよりも、端正なエレガンスを旨とするのがアルピナだが、これほど巨大なSUVとなるとシックなグリーンで装っていても、ただただそのボリュームに圧倒される。これが290km/hで巡航できるというのだからなんともはや、である。
室内もラグジュアリーこの上ない。スイッチトロニック付き8段ATのシフトセレクターは青く発光するクリスタルガラス製で、iDriveダイヤルも同様にキラキラ輝いている。しっとり手のひらに吸い付くようなステアリングホイールは、例によって最新BMWと同じくリムが太く(最新のADASシステム内蔵のためアルピナ独自品に変更できない)、そのせいかこのクルマにはオプションのシフトパドルが備わっている。ぶれることなく流儀を守り続けているように見えて、実は少しずつアルピナも変わっているのである。
言うまでもなく、BMWアルピナ各車はクルマ趣味を極めた、いわばコニサーのためのクルマだが、日常的に使いこなせる高性能と快適性を高い次元で追い求めてきたのが特徴であり、たまにサーキット走行に持ち出すだけといった特殊な趣味的スポーツカーとは根本的に異なる。時代と社会の要請に応えなければならないのだ。
というわけで、ついに、やはりこの日が来たか、と意外に冷静に受け止めている自分がいる。誰もが、いつかはそうなるだろうな、と心のどこかではうすうす覚悟していたように思うが、それでも実際に期限を切られるとやはりショッキングというか、寂しさは否めない。今から3年後、創立60年をもってアルピナがその名前をBMWに譲り渡すという。2026年からアルピナの商標はBMWのものとなり、アルピナは現在とは違うかたちで自動車ビジネスに関わっていくことになるという。譲渡代金は明らかにされていないが、BMWに買収されるわけでもないらしい。何だかいかにもアルピナらしい潔さである。
エンブレムは語る
何度か繰り返してきたことだが、アルピナ(正式社名は創業者の名前を冠したアルピナ・ブルクハルト・ボーフェンジーペンGmbH+Co.KG、車名にはBMWアルピナと、BMWが付く)は、「BMW 1500」用のキャブレターの開発からスタートし、歴代のBMW各車をベースに極めて端正で高品質、そして高性能なセダンとクーペ(近年はSUVラインナップも拡充してついにXB7を発売)をつくり続けてきたユニークな自動車メーカーである。BMW Mやメルセデス・ベンツのブランドのひとつとしてグループ企業となっているメルセデスAMGとは異なり、現在に至るまでアルピナはBMW本体との資本関係を持たず、それでいながらBMWとの深い協力関係を維持しているのが特徴的だ。
多少の上下はあるものの年間生産台数は現在もトータル1700台程度(2021年は過去最高の2000台余りを記録)。いっぽう、MブランドもライバルのメルセデスAMGも今や年間生産台数は15万台規模で、まさにアルピナとはケタが2つ違う。その規模で長年独立性を維持し、世界的な名声を築いていることがアルピナのすごさといえるだろう。
自動車界の激変期のなかにあって、アルピナは従来のままのビジネスを続行するのは難しいと判断した。確かにキャブレターのエアファンネルとクランクシャフトを描いたエンブレムを、電気モーターで走るアルピナ車にそのまま貼り付けることはできないだろう。もちろん寂しいことに違いはないが、長期的な見通しのもと、リードタイムをもって身の処し方を明らかにするのは、むしろ責任感ある振る舞いではないだろうか。
繊細でどう猛
XB7はBMW最大のSUVである「X7」をベースにしたアルピナのスーパーSUVである。ほぼ1年前に国内でもお披露目されていたが、ようやく試乗がかなったモデルだ。目いっぱい酷使されても音を上げないタフネスのために、独自の冷却系やターボチャージャーを備えたアルピナ最強の4.4リッターV8ツインターボは621PS(457kW)/5500-6500rpmと800N・m(81.6kgf・m)/2000-5000rpmを発生。全長5.15m、全幅2mでホイールベース3105mm、車重2.6t余りの巨大な3列シートのSUVであるにもかかわらず、0-100km/h加速は4.2秒、最高巡航速度290km/hを豪語する。蛇足ながら“巡航”とはそのスピードを維持しながら操舵が利くということを意味するらしい。
そんな超ド級の性能を持ちながら、感心するのは頭が動かない能役者や舞踊の先生のように、普段は優雅に静々と、水平に滑るように走ることだ。巨大な質量を滑らかに静かに動かせることこそ高級車の証しである。とりわけエアサスペンションと可変ダンパー、さらにインテグレーテッドアクティブステアリング、すなわち後輪操舵にも支えられた乗り心地は、オプションの23インチというけた外れに巨大なアルピナ専用「ピレリPゼロ」(標準装備は21インチ)を履いているにもかかわらず、ゴツゴツした荒々しさをみせるどころか、むしろまろやかなコンタクト感であり、コンフォートモードでは船のように緩やかな上下動が残り、ちょっとソフトすぎるのではないかと感じるほどである。
エアサスペンションは車速が上がると自動的に車高がダウンするほか、マニュアル操作で各40mm上下させることができるが、例によって端正なアルピナクラシック鍛造ホイール(これもオプション)を履いて岩がゴロゴロするガレ場に乗り入れようとする人はいないだろう。「メルセデス・マイバッハGLS」のようなオフロードモードなどは備わらない。
まだこの先がある
いっぽうでスロットルペダルを踏みさえすれば、獲物に跳びかかるようなどう猛な瞬発力を発揮するうえに、スポーツモードでは姿勢変化もグッと抑えられ(スポーツ/スポーツプラスモードを選択しても車高が各20mmずつ下がる)、さらにツイスティーな山道もまったく苦にしない正確なステアリングを備えている。こんな巨体でよくぞここまで、と感心するばかりである。
ちなみにXB7はアルピナの本拠地バイエルンのブッフローエから海を隔てた米国スパータンバーグ工場製(BMWの大型SUVはほぼ米国生産)であることを忘れてはいけない。開発作業や組み立て工程など、その手間暇はいかばかりかと考えると、売れればいいというものでもないはずだ。これがアルピナの有終の美である、と考えるのはまだ早い。実際、バージョンアップしたマイルドハイブリッドシステム搭載のXB7も発表されたばかりだし、この先も最後まで手綱を緩めることはないだろう。今現在のアルピナが欲しいんだ! という人にはあまり時間は残されていないが、ボーフェンジーペン一族はきっちり将来のことも考えているはずだ。そうそう、ワイン事業はそのままファミリービジネスとして残るらしい。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMWアルピナXB7
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5165×2000×1830mm
ホイールベース:3105mm
車重:2580kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:621PS(390kW)/5500-6500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y/(後)325/30ZR23 109Y(ピレリPゼロ)
燃費:7.5km/リッター(WLTCモード)
価格:2528万円/テスト車=2864万円
オプション装備:スペシャルペイント<アルピナグリーン>(63万円)/フルレザーメリノ(24万円)/アルピナクラシック23インチタイヤ&ホイールセット(77万9000円)/バイカラーステアリング(17万3000円)/ヘッドレストのひし形マーク(9万7000円)/サンプロテクションガラス(11万5000円)/パドルシフト(6万8000円)/保冷・保温機能付きカップホルダー(3万7000円)/5ゾーンオートマチックエアコンディショナー(14万円)/2列目コンフォートシート(9万1000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(61万7000円)/リアエンターテインメントプロフェッショナル(37万3000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2105km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:317.2km
使用燃料:49.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.2km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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