ハーレーダビッドソン・ナイトスター(6MT)
なめたらいかんぜよ! 2022.05.22 試乗記 ハーレーダビッドソンから水冷エンジンを搭載した新世代モデルの第3弾「ナイトスター」が登場。ハーレーの未来を担う正統的なクルーザーモデルは、長年にわたりブランドを支え続けた「スポーツスター」の後継にふさわしい、高い実力の持ち主だった。軽やかに動く車体に新開発のエンジンを搭載
ハーレーダビッドソンのニューモデル、ナイトスターにまたがり、車体を引き起こす。胸の内では「ヨッコラショ」とつぶやく準備をしていたのだが、思わず「軽ッ」と声が出た。大げさでもなんでもなく、その様はヒョイという擬音が最もふさわしい。走りだしてもコーナーを曲がってもUターンをしても撮影のために押し引きしても、その手応えは終始変わらない。そして今回の試乗中、最も印象に残ったこのモデルの美点でもある。
ナイトスターは、新開発の水冷エンジン「Revolution Max(レボリューションマックス)」を採用する3番目のモデルとして登場した。1番目が2021年7月に導入された「パン アメリカ1250/パン アメリカ1250スペシャル」、2番目が同11月からの「スポーツスターS」で、着々と新世代ユニットへの切り替わりが進んでいる。
先んじて導入された2機種のエンジンは、それぞれ「Revolution Max 1250」(パン アメリカ1250)、「Revolution Max 1250T」(スポーツスターS)と呼ばれている。その形式はいずれもバンク角が60°の水冷4ストロークV型2気筒DOHCで、1252ccの排気量は105mm×72.3mmのボアストロークからなる。ハーレーダビッドソンがこれまであまり公にする慣習がなかった最高出力を見ると、前者は150HP/8750rpm、後者は121HP/7500rpmを発生するハイパフォーマンスユニットである。
対するナイトスターのそれは、「Revolution Max 975T」という名称を持つ。形式自体は同じながら、数字が示すとおり、ボアストロークの縮小(97mm×66mm)によって排気量を975ccまでダウン。それに伴い、最高出力は89HP/7500rpmとなる。
こうして比較すると、ナイトスターのエンジンは廉価版に思えるかもしれない。1252cc版では吸気側と排気側の両方に採用されていた可変バルブが、975cc版では吸気側のみになっていることも、そういう印象を助長する。
ただし、実際のフィーリングにはなんのマイナスもない。むしろ、低回転域のトルク感とフレキシビリティーは1252cc版を明らかに凌駕(りょうが)。6速60km/hの走行も余裕でこなすほど、トルクバンドは広い。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
数値以上の“軽さ”に寄与するシート高と重心位置
その力強さをサポートしているのが車重だ。ナイトスターの221kgという車重は、スポーツスターSよりも7kg軽く、空冷時代の「アイアン883」比では35kgも削(そ)がれているのだから、その差はあまりにも大きい。もっとも、排気量の違いとマッシブな造形を踏まえると、スポーツスターSが7kgしか重くないことに感心するが、いずれにせよ両者の重さは体感的にはまったくの別もの。ナイトスターのほうが、少なくとも15kgは軽く感じられる。
その理由はふたつある。ひとつは、705mmという超低いシート高だ。この数値は、ただでさえ低いスポーツスターSから60mmも下がり、足つき性は誰にとっても良好そのもの。片足でも踏ん張りやすく、車体を押すのにも起こすのにも、ほとんど力を要さない。
そしてもうひとつ、ナイトスター最大のポイントが、燃料タンクの位置がもたらす超低重心化だ。実はこのモデル、ハンドルとシートの間に燃料タンクらしきものが見えているが、こちらはその用をなしていない。ここにはエアクリーナーボックスや電装、補器類のカバーとして機能しており、重量物はほとんど収まっていないのだ。
では、ガソリンはどこへいったのか。その答えはシート下にある。単座のシートをキーで開けると給油口がのぞき、下方へと樹脂製のタンクが伸びている(参照)。スポーツスターSならリアサスペションのスペースになっている部分が、まるまるガソリンタンクにあてがわれているのだ。結果、ナイトスターのリアサスペンションは車体後部に備えられてツインショック化。これによってトラディショナルなたたずまいも得ている。
「ヒョイ」という手応えのほとんどすべては、この設計のおかげにほかならない。エンジンに次ぐおもりが限界まで下方にあるのだから、物理的な重量差よりもはるかに軽く感じられるのは当然である。
こうした車体構造を選択した場合、代償としてホイールベースの拡張を覚悟せざるを得ないのだが、ナイトスターが公称する1545mmは、多くのクルーザーやビッグネイキッドと比べて特別長いわけではない。それでいて燃料タンク容量が犠牲になっているわけでもなく、11.7リッターを確保。ちなみに、スポーツスターSは、それぞれ1520mmと11.8リッターである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ドゥカティもヤマハもうかうかしていられない
ハンドルのセットポジションは、やや大柄な体格向きだ。平均的な日本人男性なら上体は前傾することになり、快適性を優先するならハンドルが1本分くらい手前にあってもいい。とはいえ、その程度のこと。ステップは前方に足を投げ出すフォワードコントロールではなく、ミッドコントロールの位置にあるため、下半身の収まりはいい。
ハンドリングは低重心化の恩恵がそのまま感じられ、なんの抵抗もなく、スッとロールする。一般的なスポーツバイクで重心を下げ過ぎると、スタビリティーが欲しい場面でもロールし過ぎ、実はいいことばかりではない。その軽さが不安定さにつながるからだ。
しかしながら、ナイトスターのようなクルーザーだと、デメリットが出るほどの領域には至らない。車体の成り立ち上、バンク角に制限があるため、その手前ですべてのことが終わっているからだ。スポーツスターSは、意図的にフロントに荷重をかけたほうがスムーズに旋回できたが、ナイトスターにその必要はない。車体に身を預け、車速さえコントロールすれば、素直にステアリングが入り、大きな弧を描くのも、コンパクトに曲がり終えるのも自在だ。
そのときに好印象なのは、ブレーキキャリパーのコントロール性とフロントフォークのストローク感だ。フロントに備えられたブレンボのセミラジアルマスターシリンダーは終始リニアな効力を発揮。ブレーキパッドがディスクに食いついたり、離れたりする様が分かりやすく、それにSHOWAの正立フォークも連動。車体姿勢を手の内に収める一体感は、クルーザーというよりもスポーツネイキッドを操っているような感覚に近い。
そう、ナイトスターの魅力がそこにある。これまでの多くのユーザーは、ハーレーダビッドソンの、あるいはスポーツスターシリーズのファンであり、そのコミュニティーのなかで完結しがちだった。ところが、ナイトスターにはその垣根が感じられない。例えば、「ドゥカティ・モンスター」や「トライアンフ・ストリートツイン」「ヤマハXSR700/XSR900」に興味があるユーザーが、その流れのなかでナイトスターも選択肢に挙げる。そういうシチュエーションが大いに考えられるほど、その軽やかさにおいて、あるいはフレンドリーさにおいて、競争力がある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ブランドの新たな大黒柱に
エンジンの出力特性とパワーが変化する走行モード、トラクションコントロールを筆頭とする電子デバイスも他社のスポーツネイキッドに準ずるものだ。走行モードには、「ロード」「スポーツ」「レイン」の3パターンが設定され、それに応じてバイクのキャラクターが分かりやすく変化する。ロードを選択するとスロットル微開域では穏やかに出力が増し、中回転域を過ぎるとシャープなレスポンスを披露。スポーツでは右手の動きに対してどこからでもトルクが湧き起こり、そのエネルギーが不等間隔爆発特有のトラクションへと変換されていく。またレインを選択したときは、全域でゆっくりとしたパワーカーブを描き、これはこれでダルに走れて悪くない。
それにしても、よく仕立てられているエンジンだ。Revolution Max 1250/1250Tがもたらすパワフルさを知っていると物足りないのか思いきや、低回転域の鼓動感はRevolution Max 975Tのほうが味わい深く、ゆったりと流すような走りを許容してくれる。より空冷に近いフィーリングを求めるなら、断然こちらだ。
もちろん、音質はグッと軽くなり、各部パーツには樹脂も多用されている。とはいえ、世にあまたあるスポーツネイキッドのなかに割って入る可能性を鑑みると、むしろ日欧のメーカーはナイトスターの存在をなめていてはいけない。すでに相当数のオーダーを抱えているというが、おそらくそれは一過性のものではない。かつてのスポーツスターがそうだったように、ハーレーダビッドソンというブランドを支えていくことになりそうだ。
ところで、各種メディアや公式画像ではさまざまなバリエーションが見られるため、どの状態がスタンダードなナイトスターなのか、疑問に思っている人がいるかもしれない。今回、筆者が乗っているソロシート&バーエンドミラー&ビキニカウルこそがそれだ。アップハンドルやハンドルマウントのミラー、パッセンジャーシート、シーシーバーなどは、純正アクセサリーとして多数ラインナップ。カスタムの楽しみもたっぷり残されている。
(文=伊丹孝裕/写真=ハーレーダビッドソンジャパン/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ハーレーダビッドソン・ナイトスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2250×--×--mm
ホイールベース:1545mm
シート高:705mm
重量:221kg
エンジン:975cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:89HP(66kW)/7500rpm
最大トルク:95N・m(9.7kgf・m)/5750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.1リッター/100km(約19.6km/リッター)
価格:188万8700円~191万9500円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。




















