ランドローバー・レンジローバー イヴォーク オートバイオグラフィーP300e(4WD/8AT)
パワーと安心と 2022.06.14 試乗記 「ランドローバー・レンジローバー イヴォーク」にプラグインハイブリッド車(PHEV)が登場。エンジンとモーターの合計で最高出力309PSを生み出すパワートレインは環境負荷が低いだけでなく、ラインナップ中で最もパワフルでもある。果たしてその仕上がりは?別次元のスムーズさ
ランドローバーの電動化が着々と進んでいる。すでに全車種にマイルドハイブリッドモデルが登場しており、3車種でPHEVが選べるようになった。新型「レンジローバー スポーツ」にもPHEVがあることが明らかにされている。ランドローバーは2024年を皮切りに6種類の電気自動車(EV)を発売していくことを発表しており、手始めとしてPHEVを充実させているかたちだ。
「P300e」は、レンジローバー イヴォークとしては初のPHEVモデルである。3気筒1.5リッターエンジンとモーターを組み合わせ、システム最高出力は309PS。トランスミッションは専用の8段ATが与えられている。どこかで見たことがあるようなスペックだと思うかもしれない。それもそのはず、「ジャガーEペース」のPHEVの兄弟車なのだ。同じグループに属するジャガーはランドローバーよりも迅速な電動化戦略をとっており、EペースのPHEVは2021年から販売されている。
P300eは外観では従来のモデルとほぼ変わりはなく、リアのバッジを見なければPHEVだと気づかないだろう。内装はもちろん上質で、試乗車は優しい色合いの2トーンレザーを使ったシックなインテリアだった。バッテリーの残量が十分だったので、スタートボタンを押してアクセルを踏むとモーターのみで走りだす。滑らかさ、静かさは比類がない。ディーゼルモデルに乗った時もスムーズさを味わったが、これは別次元である。
モーターは後輪のみを駆動するので、EV走行時は4WDではない。市街地で流れに乗って走っている限りではエンジンは始動せず、静かなモーター走行が続く。上質さを味わっていると、近い将来に登場するランドローバーのEVに大きな期待を持ってしまう。しかし、このクルマはPHEV。バッテリー残量が少なくなると、モーターとエンジンが協働するハイブリッド走行に移行した。
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急速充電には非対応
イヴォークP300eの駆動用バッテリーの容量は15kWhで、EV走行換算距離は欧州のWLTPモードで68km。通勤や買い物などの短距離なら、ほぼEVとして使うことができるはずだ。充電は自宅で行うのが基本である。急速充電には対応しておらず、外出先で短時間にバッテリーを回復させることは想定されていない。自宅に家庭用充電器を設置すれば、2.12時間でフル充電されるという(7kWの場合)。環境さえ整えれば、このクルマの能力を引き出すことができる。
コンバインドチャージングシステム(CCS)規格を採用しているので、CHAdeMO充電器に対応していないのはもちろん、低速充電でも日本の公共充電ポイントではほとんど接続できない。センターコンソール下段のタッチスクリーンでドライブモードを選べるようになっていて、通常は「ハイブリッド」を選ぶ。バッテリー残量が十分なら、「EV」モードで走ることもできる。
もうひとつ、「保存」というモードがある。漢字で表記されるのが珍しいが、要するにセーブモードだ。積極的にエンジンを回し、バッテリーに電気をためることを優先する。深夜に帰宅する時など、音を立てたくない場合にこのモードを使えばEV走行が可能になる。あくまでも非常用であり、燃費が悪化するのは確実なので試乗ではあまり使わなかった。
悪路用の走行モードも用意されていて、タッチパネルのアイコンに触れるだけで砂利道や雪道などに最適なプログラムで制御してくれる。今回は使っていないし、オーナーになっても使う機会は少ないだろう。オンロードでは、「エコ」と「ダイナミック」を使い分ければいい。高速道路ではエコモードで走っていて、力不足を感じることはなかった。
PHEVのアドバンテージ
タッチパネルで多くの設定ができるのはスマートだが、少々使いづらいという側面もある。物理スイッチと違い、指に触れる感覚だけで操作するのは難しい。ヘッドアップディスプレイの位置調整をする時は、何度もパネルに触れて操作ができる階層を見つけなければならなかった。音声操作がもっと精密になれば代替できるのだろうが、今は中途半端な時期なのかもしれない。
箱根まで移動し、ターンパイクの入り口ではEV航続可能距離は15kmだった。ダイナミックモードに切り替え、急坂を上っていく。さすがに109PSのモーターだけでは足りないので、エンジンがフル回転する。モニターで4WDの作動状況を見ていると、後輪のモーターもよく回って仕事をしていた。以前に乗ったディーゼルモデルに比べると、加速が鋭くてスポーティーな走りだ。1.5リッター3気筒でも、やはりガソリンエンジンらしいレスポンスのよさが山道にマッチしている。
坂を上り切ると、EV航続可能距離は4kmにまで低下していた。それでもガソリンと合わせれば、180km走れる。これがPHEVの強みだ。ワインディングロードではモーターとエンジンを合わせた309PSのハイパワーでスポーツ走行を楽しみ、後は効率のいいハイブリッド走行で帰ればいい。下りの道では回生が働いてバッテリー残量も回復するから、心に余裕がある。
PHEVモデルには、ほかにもアドバンテージがあった。ディーゼルモデルよりも、乗り心地が改善されている。せわしない動きが緩和されていて、しっとりとしているように感じた。床下にはバッテリーが格納されていて、重量が増すとともに重心が下がっている。背の高いSUVだから、バッテリーを積んでも室内空間が狭くて困るというようなことはない。
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いいとこ取りの最適解
エコカーのなかで、現状ではPHEVが最適解のひとつだと言われる。街乗りではEVとして使えて、遠出をする時でも電欠の心配がない。モーター走行のスムーズさや加速のよさを満喫しつつ、ガソリン車のように安心して長距離ドライブができるという、いいとこ取りのクルマなのだ。バッテリーやモーターを搭載するスペースが必要になるが、SUVならさほど問題にはならない。
国産のSUVタイプのPHEVが人気になっていて、輸入車でもラインナップが広がっている。バッテリーだけで50~60kmほど走れるタイプが多いようだ。一方で、従来は走行距離に不安があったEVは、大容量のバッテリーを積むことで500km以上の航続距離を確保するモデルが増えてきた。価格は500万円台からあり、競争力のある商品になったという印象がある。
イヴォークP300eは、気軽に買えるクルマではない。試乗車は限定モデルを除くと最上級グレードの「オートバイオグラフィー」なので、オプションを含めると900万円超え。エントリーグレードでも710万円だ。イヴォークのディーゼルモデルなら547万円からあり、国産のEVやPHEVは500万円台でさまざまな選択肢がある。ランドローバー伝統の高級な仕立てでスタイリッシュなデザインを持ち、エコ性能も合格点というところに価値を見いだす人が選ぶクルマなのだ。
唯一無二の魅力を持つイヴォークP300eだが、すぐに手に入れられるわけではない。ランドローバーのウェブサイトに掲載されている納車時期目安は、2023年6月以降となっている。ディーゼルモデルなら年内納車が可能で、遅延の理由として挙げられているのは世界的な半導体不足だ。電動化への道は平たんではないようである。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォーク オートバイオグラフィーP300e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1905×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:2080kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/2000-4500rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/1万rpm
モーター最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)/2500rpm
システム最高出力:309PS(227kW)
システム最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 104W M+S/(後)235/50R20 104W M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:1.4リッター/100km(約71.4km/リッター。WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:68km(WLTPモード)
EV走行換算距離:68km(WLTPモード)
交流電力消費率:--km/kWh
価格:939万円/テスト車:1015万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルパールシルバー>(8万7000円)/2ゾーンクライメートコントロール<2列目ベント、温度コントロール付き>(9万9000円)/空気イオン化テクノロジー2<PM2.5フィルター付き>(6万8000円)/WiFi接続<データプラン付き>(8万2000円)/ツインカップホルダー<フロント、カバー付き>(1万2000円)/20インチ“スタイル5076”5スプリットスポークホイール<ダイヤモンドターンドフィニッシュ>(0円)/ヘッドアップディスプレイ(15万4000円)/ウインドスクリーン<ヒーター付き>(3万2000円)/ヒーテッドウオッシャーノズル(2万4000円)/プライバシーガラス(6万6000円)/電源ソケットパック2(1万3000円)/フロントフォグランプ(3万1000円)/ヘッドライトパワーウオッシュ(3万8000円)/アクティビティーキー(6万3000円)/コントラストルーフ<ブラック>(8万7000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1724km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:445.2km
使用燃料:44.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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