そこに“クラウンらしさ”はあるか? セダンじゃない新型「トヨタ・クラウン」の是非を問う
2022.07.26 デイリーコラム“セダンじゃないクラウン”が持つ話題性
新型「トヨタ・クラウン」の発表は、一般メディアも注目していた。どのぐらいのインパクトがあったのか、新聞のウェブサイトで確認してみた。
朝日新聞《新型クラウン、SUVも登場 イメージ一新、全車ハイブリッドに》
日本経済新聞《トヨタ、新型クラウン世界展開 SUVなど4車種 40カ国・地域で》
毎日新聞《トヨタ、新型クラウン発表 SUVなど計4車種 秋ごろ第1弾発売》
見出しは各紙ともに似たようなもの。やはり「SUV」というワードにニュースバリューがあると判断したようだ。
中日新聞も見ておこう。2020年11月に《クラウンセダン、生産終了で調整 トヨタ、22年に新型投入》と報じて世間を騒がせた張本人である。今回は《トヨタ、新型クラウン公開 世界展開、セダン路線を転換》という見出しだ。スクープ記事と整合性をとるため、「セダン路線を転換」という表現になっている。
発表会の質疑応答で中日新聞の記者が質問すると、豊田章男社長は「最初に“セダン廃止”と報道していただいたのは中日新聞なのですが。まず、われわれは一切言っていませんから」と皮肉まじりに反撃していた。その後に「でも、そのおかげで本当にクラウンのムーブメントを作っていただいたと思っています」とフォローしたのは、大人の反応である。
豊田社長も説明が難しい“クラウンらしさ”
事前に情報が流れていたからか、“セダンじゃないクラウン”の登場も、ちまたでは冷静に受け止められているようである。むしろ、セダンが残ったということの衝撃度が高かったようだ。クラウンは日本のセダンの最高峰というのが常識だったから、なんとか伝統が守られたという印象になる。しかし、クラウンの伝統とは一体何なのだろう? 7月18日の記事で、「質疑応答で『クラウンらしさとは?』と問われ、豊田社長はうまく答えられなかった」と書いた。動画がアップされているので(参照)、どんな発言だったのか検証してみよう。
「クラウンらしさというのは難しいんですが、今、答えがあるのかというと、ないと思います。ただ自分がドライバーとして、子供時代は乗せられるひとりの幼児として、ある時は後ろに座るゲストとして、いろんなところで関わってきたクルマとしては、乗ったときに『あ、これクラウンだよね』と思うのか、『ちょっと違うよね』と思うのか、まったく答えになっていませんけど、そういうことだと思います。ですから(開発中は)『これってなんだかクラウンらしいよね』とか『これってなんだかクラウンから遠ざかっちゃったよね』、そんな会話を随分と長く、何回も積み重ねていたという記憶はございます」
文字に起こすうえで整頓はしたが、実際には間投詞が多く、考えながらの説明だった。ミッドサイズビークルカンパニーの中嶋裕樹プレジデントの場合も同じようなもので、「これといって定義を設けているわけでは正直ございません。やはり長い間クラウンをご愛顧いただいたお客さまがクラウンだと思っていただける、例えばリラックス感ですとか上質さ加減かもしれませんし、乗り心地かもしれません」と話していた。
豊田社長は後で歌舞伎を例に出しながら「クラウンには型があるから型破りができる」と付け加えていたが、やはり抽象的である。
ただ継承するだけではブランドは守れない
クラウンらしさとして一般的にイメージされるのは、セダンであること、FRであること、高級感があること、といったあたりだろう。しかし、それを守り続けているだけでは、保守的で古臭いというレッテルが貼られてしまうことになる。だからこそ、歴代の主査やデザイナーは苦悩してきた。豊田社長や中嶋プレジデントがクラウンのDNAとして“変革”“革新”“挑戦”を挙げていたのは故なきことではない。
2018年の15代目クラウンの開発者インタビューで、デザイナーの國重 健氏は「チャレンジすることが伝統なんです」としながら、「様式を守ることが大事だという考え方もありますから、そういう方にも満足してもらいながらチャレンジするというのがクラウンの難しさでしょう」と語っている。そしてセダンの価値は「走りもいいし乗員も乗れて、バランスがとれている」ことにあると強調した。
しかし、実際には当時すでにセダンの退潮は明らかだったと思う。SUVはトレンドからメインストリームになり、「高級車=セダン」という公式は過去のものとなっていた。価格的にもプレミアムSUVがセダンを上回るようになり、スポーツカーメーカーが走行性能を高めたSUVをこぞって発売する。技術の進歩によって3ボックスでなくても高い剛性を持ったボディーを作ることが可能になり、背の高いクルマでも十分に満足のいく操縦性が得られるようになっていた。ドライバーズカーとしても、セダンの優位性は薄れていたのだ。
15代目クラウンはセダンであることを維持したが、デザイン的には変革があった。Cピラーを細くしたのである。太いCピラーがクラウンのアイコンになっていたのに、不文律を破ったわけだ。スポーティー志向を強めていたヨーロッパのプレミアムセダンに追随し、対抗しようとしたことの表れである。國重氏は「社内的にはチャレンジでした」と語っていたが、その程度の“変革”で新しさをアピールするのは難しかった。SUV化に向かう道筋は着実に整えられていた。
これが明治維新だというのなら
クロスオーバーをはじめとする4車種をラインナップした新型クラウンは、伝統を守ったのだろうか? 発表会の会場には歴代のモデルが並べられていたが、あらためて眺めてみると15台をひとくくりにして表現することは難しい。初代モデルの面影は2代目にはまったく残っておらず、なんとなくクラウンの型のようなものが定まってきたのは5代目からだろう。2003年の“ゼロクラウン”は明らかに若返りを図っていて、それまでの路線から離脱しようとしていることがはっきりと見えた。全体を通して、クラウンらしさ、と呼べるようなものは見つからない。
今日の日本において、伝統と思われているもののなかには、実は明治以降に始まったものが少なくないらしい。初詣が一般化したのは1872年に東海道線が開通して川崎大師にお参りする人が増えてからだし、神前結婚式が庶民に広がったのは昭和20年代末からだという。恵方巻きに至っては、1989年にセブン-イレブンが仕掛けた宣伝が始まりだった。新型クラウンがクラウンらしいかどうかという議論には、あまり意味がないのかもしれない。16代目クラウンを明治維新と重ね合わせた豊田社長の言葉が正しいとすれば、伝統が作られるのはこれからなのである。
(文=鈴木真人/写真=webCG/編集=堀田剛資)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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