未来への勇躍か? 苦肉の策か? 新型「クラウン」でトヨタが過去との決別を選んだ理由
2022.07.18 デイリーコラム“振り返り”に時間を割いた理由
1955年の初代モデルから「トヨタ・クラウン」の歴史をたどる映像が流され、暗転すると幕の後ろから豊田章男社長が登場。スティーブ・ジョブズばりにステージを歩き回りながら、歴代モデルと、開発を主導した主査の考え方を紹介した。日本初の純国産乗用車として生まれ、モータリゼーションの先頭に立つ。豊田社長はクラウンが高級車の代名詞となった輝かしい足跡を語った後、バブル崩壊後の苦境についても触れた。“右肩下がり”という表現を使い、クラウンという存在が危機に陥っていることを正直に認めたのだ。
新車発表会なのに、長い時間をかけて15代にわたる歴代モデルを振り返ったことには理由がある。今までと同じことをやっていたのでは未来が開けないことは、トヨタ自身が一番わかっているのだ。過去と決別するために、クラウンとは何だったのかを理解しなければならない。
「徳川幕府の江戸時代も、15代で幕を閉じております。16代目のクラウン。日本の歴史に重ね合わせれば、それは明治維新です」
なんとも壮大な例の言葉をきっかけに幕が上がると、ステージに現れたのは4台の新型クラウン。ちょっとしたサプライズだ。2021年12月に電動化戦略を発表した際も、16台のEVを並べて意表をついた(参照)。物量で圧倒するのが最近のトヨタの戦術である。ティザー映像では「SEDAN? SUV?」と思わせぶりなキャッチコピーで期待をあおっていたが、実際にはセダンもSUVも、そしてハッチバックもワゴンも、だった。豊田社長は得意満面だ。
セダンが残されたというのが、最大のトピックだろう。2020年11月に中日新聞が「次期クラウンはセダンではなくSUVのような車形に」と報じて以来、さまざまな臆測が飛び交っていた。日産は「シーマ」と「フーガ」の販売を終了するし、欧米でもセダンから撤退する動きが広がっている。乗用車のメインストリームはすでにSUVになっていて、クラウンがSUVになってもおかしくない状況だった。
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伝統に別れを告げ、世界に目を向ける
2018年に登場した15代目クラウンの開発者インタビューでSUVについて聞くと、「クラウンというブランドのなかにいろいろな車体形状があってもいいんですよ。クラウンのSUVとかミニバンとかね」という答え。ただし、「それをやるとほかのトヨタ車と食い合ってしまいかねないので慎重にやらなければいけない」とも話していて、「セダンから逃げてはいけない」と強調していた。SUVへの道は開かれていたが、セダンを廃止するという決断は難しかったようだ。
ミッドサイズビークルカンパニーの中嶋裕樹プレジデントによると、最初の提案は15代目クラウンのマイナーチェンジだったという。プランを豊田社長に見せると「本当にこれでクラウンが進化できるのか? マイナーチェンジは飛ばしてもいいので、もっと本気で考えてみないか」という反応。そこでクロスオーバーモデルの原型をつくると社長からGOサインが出て、さらにセダンもつくってみないかと逆提案された。経緯を見ると、本筋はむしろクロスオーバーということになる。
一方で、セダンも確かに生き残ったけれど、見た目はこれまでのクラウンとははっきりと違う。スタイリッシュで都会的なのだ。いいことなのだろうが、唯一無二というイメージは失われた。グローバル志向は明らかである。実際に、新型クラウンは約40の国と地域で販売されるそうだ。だから、土着性をはぎ取る必要があった。
会場に展示されていた歴代クラウンを見ると、進化しつつも受け継がれている核のようなものがあると感じる。そこはかとない土臭さややぼったさが、保守的な自動車ユーザーに好まれていた。1980年代のモデルの内装を見ると、“仏壇っぽい”と評された茶や紫のモケットシートに衝撃を受ける。レースのシートカバーが似合っていたのも当然だ。時代とともに美意識は更新されてきたものの、伝統と完全に縁を切らなければならない時期が来ていた。
問われる「クラウンらしさ」
グローバル展開に向かったのも必然である。15代目クラウンはデビューの2018年こそ年間販売台数が5万台を超えていたが、じりじりと数字が下がって2021年は2万1411台。当初の月販目標4500台には遠く及ばない。歴代で一番売れた8代目クラウンは、1990年に24万台を超える販売台数を記録した。2021年の販売台数トップの「ヤリス」が21万2927台だから、驚異的な売れ行きだったことがわかる。
新型クラウンは、シリーズ全体で年間20万台の販売を見込んでいるそうだ。4車種合わせての数字であり、そのぐらい売れても不思議ではない。多車種でグローバル展開を図ることで、クラウンというブランドを守ることができたのだ。発表会では「革新と挑戦」がクラウンの本質だと何度も語られていた。他メーカーが由緒あるモデルを継承できていない例が多いなかで、1955年から16代続いたのは大したものである。
発表会の後に新型クラウンをじっくりと眺め、運転席に座ってみたりもした。なかなかいい出来である。しかし、最後まで「なるほど、これが新しいクラウンだ」と納得することはできなかった。14代目クラウンの試乗会に参加したときも戸惑ったが、終わるころには受け入れる気持ちになっていた記憶がある。今回は、まだ異物感が拭えない。
質疑応答で「クラウンらしさとは?」と問われ、豊田社長はうまく答えられなかった。当然だが、明確な定義はないのだ。クラウンのクラウン性は、否定神学的にしか語れない。変わってしまったことに寂しさを覚えてしまうけれど、何年かするとこれが新時代に向けた賢明な判断だったと振り返るのだろうか。
(文=鈴木真人/写真=webCG/編集=堀田剛資)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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