ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアー(FF)
足りなければ足せばいい 2022.09.02 試乗記 国産ミニバンの当たり年となった2022年に、トヨタ勢に続いてフルモデルチェンジを果たした「ホンダ・ステップワゴン」。迫力で競い合う土俵から降りたデザインにも注目だが、走らせた印象はどうか。ハイブリッド車の仕上がりをリポートする。モテ期を迎えたホンダデザイン
2022年1月にフルモデルチェンジしたトヨタの「ノア/ヴォクシー」は、いろんな意味でちょっと想定外のクルマだった。
刷新されたハイブリッドシステムは、抵抗の塊のような大箱をして20km/リッターをうかがう低燃費をひねり出しつつ、TNGAの採用もあって乗り心地やハンドリングといった動的な質感も著しく向上している。webCGの試乗記で自分なりには大賛辞を送ったわけだが、一方でちょっと心配していたのが、昨年末からノア/ヴォクシーの機先を制するようにティーザーを繰り広げていたステップワゴンの出来栄えである。
いちクルマ好きとしてどちらが推しかといえば、それはもうステップワゴンに、より具体的には「エアー」に決まっている。それはひとえにノア/ヴォクシー、より具体的にはヴォクシーの真逆を張ったプレーンなデザインに激しく賛同の意を込めての話だ。
もううんざりするほどこねくり回されてギラギラに飾り立てられてきたミニバンのあり方に、やっと一矢報いるタマが飛んできた。しかもそれが、率先して謎デザインを施し続けてきたホンダから投げられたわけだ。
この間、乗って萌(も)えても見て萎える、そんな残念なホンダ車にどれだけ触れてきたことか。それの最たるものでもあった「シビック タイプR」も、乗らずとも見ただけで萌えるクルマへと見事に変貌を遂げてくれた。以上、まったくもってオッさんの戯言(たわごと)ながら、ホンダ車のデザインは21世紀以降で初めてのモテ期を迎えているように思う。
レンジローバーさながらの進化ぶり
そんなこんなで、ミニバンの清廉な未来が託されたステップワゴンのエアーである。グレード体系は内装やホイールなどの差別化で2つのトリムラインがある「スパーダ」に比べると、シンプルにガソリンかハイブリッドかの二択だ。試乗車はそのハイブリッドの側。外装色は「フィヨルドミストパール」という水色がかったイメージカラーで、内装もグレーのざっくりしたファブリックをダッシュボードやドアトリムのアッパー部に取り回し、IKEA調を目指したニトリくらいのしゃれっ気を感じなくもない。
凹凸を極力排してきれいに面取りされた外装は、先祖返りを思い起こさせながらもツルッとしたサーフェスが今に生きるクルマとしての新しさを伝えてくる。初代ステップワゴンの後席に乗せられて育った子供たちが、今やこのクルマのかじ取りを前席で担うターゲットだというつながりをしっかり反映した形状は、僕のような素人には文句のつけようがない。なんだか「レンジローバー」の進化を見ているようだなぁとつぶやくとマクガバン氏から耳をねじり上げられそうだが、そのくらいの気概を感じるデザインではある。
「THS」の高効率と「e-POWER」のBEVフィーリングの良いところを両取りしたようなホンダ自慢の「e:HEV」は、1.8tにならんとする車格のステップワゴンにも快活な応答性をもたらしていた。日常的に多用するだろう60km/h以下の車速域では、発進からのモーター走行が望外のカバレッジをみせてくれるので、車内は静粛が保たれる。そこから向こうの高速巡航域でも常識的に速度を乗せていけばエンジンをうならせて荒ぶることはない。120km/h級になればそれなりににぎやかしいこともあるが、総じて車内の音環境は前型に対して大きく進化したポイントといえる。
酔いやすさを軽減する仕組み
試乗時には10km以上の渋滞にも遭遇したが、ADASのレスポンスも鈍にあらず敏に過ぎずと、日本的なトラフィックにちょうどいい案配で合わせ込まれている。作動状況もメーター内にグラフィカルに表示されるなど、使いやすく認識しやすい。
が、この親切なモニターを介して知ってしまうのが、ACCで渋滞の中にいる際に、微細な速度変化に応じて減速時に頻繁にブレーキランプがともっていることだ。これは何もステップワゴン固有の問題ではなく、メーカーの内外を問わずACCを備えるクルマすべての問題だが、それが車種によっては可視化されるというわけである。世界的な取り決めで、現状は0.13G以上の減速度が出ている際にはブレーキランプを点灯することになっているが、例えば朝夕の東名高速などを走りながら観察していると、この点灯の連鎖がかえって渋滞を誘発している感もなくはない。自動車メーカー各位には、LEDヘッドライトの対向攻撃性と並んでぜひ改善の議論をお願いしたいところではある。
シート自体は前席、2列目とも少し背もたれが小さめかなと思うところはあるが、最後列に座ってみると、この背もたれのサイズと形状、そして着座高をうまくチューニングすることによって、前方視界のヌケのよさが確保されていることが分かる。この見通しのよさに加えて姿勢管理のしやすいハンドリングや加減速の素直な応答性が、乗員の酔いやすさを軽減するというわけだが、その言い分はおおむね間違っていないように思えた。この点、実は軽量な1.5リッターターボのほうがより素直で優しい動きだったことは以前の試乗で確認済みだ。
装備面に残る“謎”
というわけで、乗り心地や静粛性、ハンドリングといった動的質感面において、ノア/ヴォクシーとステップワゴンとの差は限りなくゼロと個人的には思う。となると、見てくれ勝負でステップワゴンの大勝利とまとめたいところだが、そうは問屋が卸さないのが燃費だ。完全な乗り比べではなく個々の試乗での実感値にはなるが、同じハイブリッド比較でいえばノア/ヴォクシーが20km/リッター近辺の低燃費をさらっとマークするところを、ステップワゴンはそれよりも1~2割くらい劣りそうな気配である。加えて、ステップワゴンは先代にオプションで用意されていた100V/1500WのACアウトレットがわざわざ落とされている。
ステップワゴンの装備はほかにも謎なことが多く、その理不尽のしわ寄せがエアーのほうに偏っている。例えばスパーダには標準装着されるブラインドスポットインフォメーションや全列USBタイプCアウトレット、シートヒーターや2列目オットマンなどは、エアーではオプションでも装着できない。せっかく鳴り物入りのエアーなのにやる気あるんかいなと思われても仕方がない状態で、それゆえか受注比率はスパーダが圧勝、エアーは2割程度にとどまっているという。
謎デザインの次は謎オプションですか……という感じだが、この件、既に販売現場からも要望がガンガン上がっているようで、そう遠くないうちにエアーの装備まわりも見直されるかもしれない。ここはひとつ、ホンダのもうけ以前に日本の路上の平穏のために、ぜひ状況改善をお願いしたいところだ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1750×1840mm
ホイールベース:2890mm
車重:1810kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175N・m(17.8kgf・m)/3500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(31.2kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H/(後)205/60R16 96H(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:20.0km/リッター(WLTCモード)
価格:338万2500円/テスト車=404万6900円
オプション装備:ボディーカラー<フィヨルドミストパール>(3万8500円)/マルチビューカメラシステム(8万8000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<DRH-224SD>(3万3000円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ/e:HEV車用/ベンチシート車用>(6万2700円)/11.4インチ Honda Connectナビ(29万2600円)/15.6インチリア席モニター(14万9600円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4712km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:264.7km
使用燃料:18.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.6km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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