激戦コンパクトミニバン市場 新型「シエンタ」登場で従来型「フリード」に勝ち目はあるか?
2022.10.03 デイリーコラム今や貴重な小さなミニバン
2022年には「トヨタ・ノア/ヴォクシー」と「ホンダ・ステップワゴン」が相次いでフルモデルチェンジを受け、いずれも3ナンバー専用車になった。先代では、標準ボディーのモデルは5ナンバーサイズにおさまっていたが、現行型は拡大されている。
今は国内で新車として売られるクルマのうち、40%近くを軽自動車が占めていて、5ナンバーサイズのコンパクトカーも約25%に達する。最近は3ナンバーサイズのSUVが数多く登場しているが、5ナンバー車のニーズは依然として高い。
話をミニバンに戻すと、ノア&ヴォクシーやステップワゴンが3ナンバー専用車になったことで、従来以上に存在感を増したのが「シエンタ」と「フリード」だ。両車とも“5ナンバーサイズにおさまる貴重なコンパクトミニバン”になるからだ。
そのシエンタが2022年8月下旬にフルモデルチェンジを受けて、新型に切り替わった。そこでライバル車のフリードと、ミニバンとしての機能を人気の3列シート仕様同士で比べてみたい。
現行フリードは2016年に発売され、約6年が経過した。2023年にはフルモデルチェンジする予定だから、シエンタに対して現時点では設計が古い。商品力では不利になるが、フリードにも優位点はある。
つぶさに見れば一長一短
フリードで最も注目されるのは、2列目シートがキャプテンシートと呼ばれるセパレートタイプを基本にしていることだ。両側にアームレストが装着され、見栄えも豪華に仕上がっている。
2列目がセパレートシートなら、中央には狭いながらも通路ができるから、車内の移動もしやすい。3列目の乗員が、2列目シートを動かすことなく乗り降りできる。このように2列目は、セパレートシートの選択肢を用意したフリードが勝る。
3列目の居住性は引き分けだ。身長170cmの大人が多人数で乗車する時、2列目の膝前空間を握りコブシ1つ分に調節すると、3列目に座る乗員の膝前空間は、フリードが握りコブシ2つ分でシエンタは握りコブシ半分程度にとどまる。3列目の膝前空間はフリードが広いが、シエンタは薄型燃料タンクの採用で、床を低く抑えた。床と座面の間隔は、シエンタが40mm上回り、着座姿勢は自然な印象だ。一方、フリードの3列目は、床と座面の間隔が足りず、腰が落ち込んで膝が持ち上がりやすい。つまり3列目の居住性は一長一短といえる。
またフリードのハイブリッド車には注意が必要になる。ハイブリッドのユニット(IPU)が1列目の下に設置されるため、2列目に座った乗員の足先が、1列目シートの下部におさまりにくい。快適に座るには、2列目のスライド位置をノーマルエンジン車よりも後方に寄せる必要があり、結果的に3列目の足元空間を狭めてしまう。
ちなみに「日産セレナ」のe-POWERも、1列目の下に足がおさまりにくく、2列目/3列目の足元空間に悪影響を与えている。ハイブリッド車の居住性は、ノーマルエンジン車よりも悪い場合があるから注意したい。
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新しいほうが有利だが……
荷室は引き分けだ。路面から荷室床面までの高さは、フリードが480mmだから、シエンタの505mmよりも少し低い。その代わりシエンタには、前述の薄型燃料タンクが採用され、3列目を2列目の下側に格納できる。左右に跳ね上げるフリードと違って、シエンタでは、格納された3列目が荷室に張り出さない。スッキリと広い空間をつくり出せる。その代わりシエンタでは、3列目を格納する時に、2列目を一度持ち上げる必要があり、シートアレンジに手間を要する。従って一長一短だ。
このほかエンジンノイズも評価が分かれる。シエンタは遮音性能を向上させて静かに仕上げたが、ノーマルエンジン車で巡航中に素早くアクセルペダルを踏み増した時など、直列3気筒特有の粗いノイズが耳障りに感じられることがある。フリードは全般的にノイズは大きいものの、4気筒だから、3気筒の粗さは意識されない。
以上の点を除くなら、設計の新しいシエンタが全般的に優れている。特に先進安全装備と燃費では相応の差が開く。「フリード ハイブリッドG」のWLTCモード燃費は20.9km/リッターだが、「シエンタ ハイブリッドG」の同値は28.2km/リッターに達する。操舵に対する車両挙動の正確性、走行安定性、動力性能も、シエンタが勝る。
従って総合的にはシエンタの推奨度が高く、フリードは次期型を待ちたいが、キャプテンシートなどに魅力を感じるユーザーにとってはフリードを選ぶ余地もある。
なお先代シエンタは、初代に比べて外観のワゴン感覚が強まり、ミニバンらしさは薄れていた。それを新型シエンタでは、再びミニバンらしい見栄えに戻した。サイドウィンドウの下端を20mm下げて、上端は60mm持ち上げ、合計すればサイドウィンドウの上下幅を80mm拡大した。この明るい印象の外観がミニバンらしさの秘訣(ひけつ)だ。
この背景にはフリードとの販売競争もある。今のトヨタ車は、ライバル車との販売競争で負けることはほとんどないが、シエンタは例外だ。2018年と2019年はシエンタの登録台数がフリードのそれを上回ったが、2020年と2021年はフリードに抜き返された。フリードの強みは、ボディーが小さくても、デザインやシートアレンジに「ミニバンらしさ」が濃厚なこと。その点、シエンタもフリードに近づいたと受け取れる。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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