フォルクスワーゲンID.4プロ ローンチエディション(RWD)
これぞドイツ的BEV 2022.11.22 試乗記 フォルクスワーゲン(VW)の電気自動車(BEV)「ID.4」が、いよいよ日本の道を走り始めた。これまでの「ゴルフ」のポジションを担うスタンダードモデルの導入だけに、いわば“黒船襲来”級の事件なわけだが、果たしてその仕上がりはどんなものか。威信回復をかけたBEV
日の出とともに「ボルボXC40リチャージ」のステアリングホイールを握って、まだ暗い東京都内から横浜市へ向かう。VW ID.4のプレス試乗会に参加するのだ。
XC40リチャージもID.4も、搭載されたバッテリーとモーターのみで走るBEVである。前方の空が少しずつ明るく青くなっていくのを眺めながら、「まさにBEV時代の夜明けだなァ」と今後のクルマの行く末に思いをはせ……、スイマセン、ちょっとカッコつけすぎました。ちょうどライバルになりそうなSUV系EVを乗り比べる機会に恵まれたので、思わず筆が走ってしまいました。
これまでもBEVに接し、試乗する機会もあったけれど、近ごろとみにBEV関係のニュースが増え、密度が増したように感じる。XC40リチャージの記事はひとまず置いて、今回はID.4についてリポートします。
ID.4は、2022年11月22日にわが国でも発売されたフル電動SUV。ディーゼルエンジンの排ガステスト不正事件で環境派としての権威を失ったVWが、威信回復をかけて取り組んだBEV専用プラットフォーム「MEB(modular electric drive matrix)」をベースに開発された意欲作だ。
ID.4は、世界中で広く販売されるVWの戦略モデル、いわば同社の新しい“ワールドカー”である。MEBの伸縮自在性を生かして、ハッチバックの「ID.3」、SUVクーペの「ID.5」、中国向けのストレッチ版「ID.6」、ワーゲンバスの再来と話題になった「ID.Buzz」などとファミリーを形成する。
比べてみればお買い得
日本市場のID.4には2グレードが用意される。容量77kWhのバッテリーを搭載し、561km(WLTCモード)の一充電走行距離をうたう「ID.4プロ ローンチエディション」と、同52kWhと388kmの「ID.ライト ローンチエディション」である。いずれも普通充電(200V)とCHAdeMO規格の急速充電に対応する。
価格は、プロが636万5000円、ライトが499万円と聞くと、「オッ!? 輸入車のBEVが500万円を切るのか!」とやや驚くが、ID.4のカタログを確認すると、後者は受注生産で納期に時間がかかるとのこと。うーん、残念。
この日の試乗車も、ID4プロ ローンチエディションだった。ブラックのルーフとシルバーのルーフレール、そして20インチのアルミホイールがプロの証し。ライトはモノカラーで、足元は18インチのスチールホイールとなる。
両者は動力性能に関しても差別化が図られ、リアに搭載されるモーターは、プロでは最高出力204PS/4621-8000rpmだが、ライトは同170PS/3851-1万5311rpmとなる。ただし、どちらもタイヤのひと転がり目から310N・mの最大トルクを発生する(発生回転数は、プロが0-4621rpm、ライトが0-3851rpm)。
ID.4のボディーサイズは、全長4585mm、全幅1850mm、全高1640mm。ボルボXC40リチャージといい勝負だ。国産で言えば「日産アリア」の大きさがそれに近い。
BEVとしての主要スペックを比較すると、プレミアムブランドの「ボルボXC40リチャージ プラス シングルモーター」は、総電力量が69kWh、一充電走行距離は502km、価格は639万円。ID.4はそれぞれ77kWh、561km、636.5万円だから「お得」と言えるかもしれない。ちなみにアリアは、66kWh、470km、539万円である。このあたりが、電動コンパクトSUVの現在地といえましょう。
専用シャシーならではのメリット
フォルクスワーゲンID.4、日本デビュー! ……の陰の主役が、言うまでもなくMEBである。バッテリーをフロアに敷き詰めるというより、床そのものをバッテリー化すると考えたほうがいい革新的な構造を採る。興味深いのが、バッテリーモジュールを上下にサンドイッチする強固なハウジングがID.4のボディーにボルト留めされ、ボディー剛性の一端を担うこと。やや妙なたとえだが、近代的なミドシップスポーツが、エンジンそのものを車体骨格の一部とするのと同じ考え方だ。
そもそも内燃機関モデル向けのプラットフォームをBEVに転用するのでは、プロペラシャフトを通すセンタートンネルや、エキゾーストシステムのための凹凸を避けてバッテリーを配置しないといけないから、おのずと搭載量と効率の面で、BEV専用プラットフォームにかなわない。
さらにMEBでは、バッテリー搭載スペースをできるだけ稼ぐためタイヤは前後に追いやられ、例えば「ティグアン」のホイールベース2675mmと比較して、ID.4のそれは2770mm。もちろん大量に積まれるバッテリーの冷却にも意が払われ、フロアプレートには冷却水回路が組み込まれる。バッテリーの温度をできるだけ一定に保つことは、出力、充電、そして寿命の面でも有効で、VWでは、8年または16万km走行したあとでもオリジナル容量の70%以上を保証するという。
ID.4の動力源たるモーターユニットはリアアクスルと一体化され、そのまま後輪を駆動する。動力系は非常にコンパクトなので、ほとんど荷室を侵食しない。ラゲッジスペースは543リッターが確保され、分割可倒式になった後席背もたれを倒せば、1575リッター(VDA方式)にまで拡大可能だ。
ちなみに、リアにフラット4を積んだ(オリジナル)ビートルは、フロントのボンネット下をトランクルームとしていたが、ID.4のそこには主に空調関係のユニットが収められ、物入れの機能はない。本国では、フロントにもう1つのモーターを搭載したヨンク版ID.4たる「GTX」がラインナップされている。
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さすがドイツ車の剛性感
公式に電動SUVと呼ばれてはいるが、XC40と比べるとグッと乗用車テイストが強いID.4。いわゆるクロスオーバーに近いスタイルだ。どこかツルンとした外観から予想されるとおり、Cd値=0.28と優秀な空気抵抗係数を誇る。
ボルボのBEV同様、キーを持っていれば自動で解錠され、シートに座ってブレーキペダルを踏むだけでクルマのメインスイッチがオンになる。ステアリングホイールの奥とセンターに液晶ディスプレイが配されただけのシンプルなインストゥルメントパネルを前にすると、「21世紀の今は“かつての近未来”なのだなァ」と当たり前のことを思う。
長いホイールベースとコンパクトな動力系のおかげで、「ひとクラス上」のルームスペースを持つことがID.4のジマンだ。その恩恵はリアシートに座ったときに顕著で、フロアはすがすがしいまでにフラットでスッキリしている。シートの高さは適正で、乗員の頭まわりにも余裕がある。そのうえ大きなガラスルーフがもたらす開放感が素晴らしい。廉価版のライトではこれがオプションでも用意されないとなると、「ホントに売る気あるの?」と邪推のひとつもしたくなるほどだ。なお、ガラスはUVカット機能付きで、電動サンシェードを閉めて直射日光を遮ることもできる。
いざステアリングホイールを握って走り始めれば、「なるほど、電気自動車だ」。アクセルペダルを踏んだ瞬間から力強く、踏み増した量そのままに直線的に速度を上げていく。その感覚は、ゴルフ場などにある「電動カートの親玉」と考えればまず間違いない。一方、ガツンとペダルを踏み込んでも、ID.4の場合、急激な速度上昇で乗員を驚かすようなことはない。遊園地のアトラクションのような超絶加速は、プレミアムブランドたるアウディやポルシェのBEVに任せるということか。
印象的だったのはボディーの過剰なまでの剛性感で、硬めのサスペンションと併せ、いかにもジャーマンBEV。車両寸法のわりにホイールベースが長いから、高速走行時の安定性も高そうだ。良くも悪くも内燃機関モデルのドライブフィールを色濃く残したボルボXC40リチャージとは対照的に、ID.4のそれは、開発にあたっての同社の意気込みそのままに、BEVであることをストレートに意識させるものだった。
2021年には、すでに世界中で約12万台を販売したというID.4。夜明けを迎えたピープルズBEVは、これからさんさんと輝く盛期を迎えるのか、はたまた日はまた沈むのか。環境問題というより政治案件となりつつある電気自動車から目が離せない……って、スイマセン、ちょっとカッコつけすぎましたね。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンID.4プロ ローンチエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4585×1850×1640mm
ホイールベース:2770mm
車重:2140kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/4621-8000rpm
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/0-4621rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100T/(後)255/45R20 101T(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 ev)
交流電力量消費率:153Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:561km(WLTCモード)
価格:636万5000円/テスト車=638万7000円
オプション装備:フロアマット<テキスタイル>(2万2000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:651km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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