第745回:美しき名車たちの競演 「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」に参加して
2023.05.31 エディターから一言日本からの参加者とともに“美の祭典”を体験する
あまたある自動車のビューティーコンテストにおいて、世界最高と評されるイベントが2つある。ひとつは8月の「モントレーカーウイーク」(いつの間にか“ウイークエンド”ではなく“ウイーク”と呼ぶようになった!)の最終日に開催される「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」。もうひとつが5月にイタリアで開催される「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」だ。
ミラノからクルマで1時間半。イタリア人が憧れる避暑地、コモ湖畔の街チェルノッビオにグランドホテル・ヴィラデステがあり、そこで1929年にコンテストが始まった。ペブルビーチもそうだったけれど、始まった当初はヴィンテージカーのイベントではなかった。現代でいえばモーターショーのようなもので、最新モデルの美しさを競ったのだった。それが、1986年にヴィンテージカーイベントとして復活し、21世紀になってからはBMWグループがメインスポンサーとなって規模を拡大している。
先に言っておくと、今年もBMWの最新モデルやコンセプトカーが多数展示された。なかでも「ロールス・ロイス・スペクター」や「BMWコンセプトツーリングクーペ」、さらには新型「5シリーズ」が、限られた参加者や観覧者の目を楽しませたようだ。
筆者は今年、幸運にも日本からの参加者に全日程で帯同するチャンスに恵まれた。イベントを見学するチャンスはあっても、参加者目線で体験する機会などそうそうない。喜び勇んでイタリアへ飛んだことは言うまでもない。
ホテルのディナーで親睦を深める
イベントは“プレリュードツアー”と呼ばれるプレイベントから始まった。発泡ワインで有名なフランチャコルタのホテルにコンクール参加者の一部が集合し、そこからコモ湖まで1泊2日のドライブを楽しむという趣向だ。ミラノからレンタカーを飛ばし、スタート地点となったラルベラータホテルに着いてみれば、半地下のガレージはすでに宝石箱となっていた。
BMWクラシックが持ち込んだ戦前の「328」シリーズや、「507ロードスター」「2002ターボ」「3.0CSL」「M1」といった“バイエルンスターズ”はもちろんのこと、「マセラティA6GCザガート」や「ランチア・フロリダ2ドア ピニンファリーナ」といった超珍しいイタリアンビューティー、「シトロエンSM」のエスパスや「イズデラ・スパイダー」といった珍品オープン、さらには名もよく知らぬどデカいロールス・ロイスにベントレーなどなど、25台くらいが並んでいた。コンクールの展示車両は50台だから、半数近くがそろったことになる。
日本からは筆者がお供した「ランボルギーニ・ミウラP400SV」に、「マセラティ3500GTツーリング」がいた。金色のマセラティのオーナーは「コンコルソ・デレガンツァ京都」の主催者でもある木村英智氏。今やヴィラデステやミッレミリアの常連で、世界のクラシックカーシーンで名の知られた、数少ない日本人のうちの一人である。しかも私より若い。心強い限りだ。
ディナーではおいしい食事を楽しみつつ周りとの友好を深める。見知らぬオーナーと知り合うチャンスだ。誰だっていい。彼らは必ず素晴らしいコレクションを持っている。話を聞くだけで面白い。遅れて、クラシックカーのディーラー/コレクターであり、ジャーナリストのサイモン・キッドソン氏がやってきた。2022年9月のミウラツアー@モロッコ以来の再会。彼もまた世界のクラシックカーを代表する人物で、若い世代の人だ。コンクールでは司会の大役を務めることになっている。彼は「アルファ・ロメオTZ2」をツアーに持ち込んでいた。
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ルマンの歴史を彩るレースカーの姿も
翌朝。ツアーはフランチャコルタから北イタリアの湖水地帯を西へと向かう。新緑の季節。雨が少しぱらつくなかを色とりどりの宝石たちがごう音をとどろかせて走る光景は、まさにクルマ好きの天国だ。
昼前にモンツァ市内へと入ると、独ミュンヘンのクラシック&レーシングカー愛好家たちがサーキットを占有し、イベントを開いていた。そこに合流してわれわれもサーキットドライブを楽しむという趣向。そのために、BMWは20台以上の最新Mモデルを用意してくれた。筆者は迷うことなく「M2」を駆る。面白いことにM2のサーキットインプレッションは文字どおりの意味でほとんど“「M4」と変わらない”というものだった。
パドックにはドイツのクルマ好きたちが持ち込んだ素晴らしいモデルがたくさんいた。筆者の目をくぎづけにした「BMW M1グループ5」に「3.5CSL」、ポルシェの「956」「934」。そうしたジャーマン・レンシュポルトに交じって、新旧のアストンマーティンやフェラーリもズラリ。そのなかの何台かは、ヴィラデステにもやってくるらしい。
クラシックモデルによるパレードランと記念撮影を終えて、一行はいざヴィラデステへ。夕方早くには到着し、ホテルのエントランスにてそのままレジストレーションと車検を受ける。続々と集まってくる参加者たち。ド派手な「マッハ55」が現れた! と思いきや、奧山清行さんの駆る新作「Kode61バードケージ」だった。
今年はルマン24時間レースの100周年ということもあって、ヴィラデステでは珍しくレーシングカーも多数集う。彼らももちろん自走で車検を受ける。「ポルシェ917K」や「フォードGT40」「フェラーリ512BB LM」などが爆音を響かせてホテル内を走る姿を見るだけで、もうコーフンMAX最高潮だ。
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貴重なクルマや著名人との邂逅
会場となる湖畔のグランドホテルは、もとはエステ家の別荘だったというが、これがとてつもなく大きい。もちろん湖に面した部屋は景色も上等だが、あいにく筆者の部屋は反対の山側だった。しかしフロントの真上ということで、レジストレーションエリアと駐車場への出入り口、フロントへの車回しが見渡せる。窓を開いておけばサウンドが大音量で聞こえるから、気になる音がしたら窓辺へ向かいクルマを眺められる。湖側でないこの部屋が、断然にうれしかった。
ヴィラデステに着いたのは木曜日。翌日は丸々レジストレーションに充てられるから、部屋でゆっくりくつろぎながら、走る宝石たちを眺めて過ごす。なんという僥倖(ぎょうこう)。気になるクルマを見つけたら降りていって子細に鑑賞。明日からゆっくり見ることができるとはいえ、一刻も早く見たくなるのがクルマ好きの性(さが)だ。
クラシックカー界の大物たちやBMWグループの関係者たちに交じって、アロイス・ルーフさんやホレイシオ・パガーニさん、クリスチャン・フォン・ケーニグセグさんといった、スーパーカー界の大物たちとも邂逅(かいこう)する。なんという場所だ!
金曜の夕方。エントラントへの説明会が開かれ、いよいよ公式行事がスタートした。この日はカジュアルなディナーで、BMWからは秘密のプレゼンテーションもあった。「Z4」ベースのシューティングブレーク、コンセプトツーリングクーペだ。その場にはデザイナー(エイドリアン・ファン・ホーイドンク氏)と開発者がいたが、市販化の可能性を聞いてみると「ないとはいえない」といった感じ。ぜひとも市販してほしい。もっとも、クルマ好きが騒ぐほどには売れないかもしれないけど。そのほか、カメラ持ち込み禁止エリアではBMW 5シリーズの新型を正式発表する前に見ることができた。
緊張が走る審査のとき
土曜。いよいよコンクールが始まる。朝7時にガレージから愛車を引っ張り出し、ホテル内の展示場所へと自走で向かって所定の位置に止める。BMWクラシックのスタッフがすべてを指示してくれるので、とてもラク。われわれのミウラは展示会場の最も奥まったヴィラの前。眺めとしては最高の場所だった。
土曜日のコンクールは参加者と関係者、そして限られた人だけが観覧できる。10時を過ぎると小雨がぱらついていたにもかかわらず、会場内は人であふれた。ペブルビーチと同様に、写真を撮りたいなら“早起きは三文の得”を心得るべし。
この日は、ジュリー(審査員)による審査がある。クラスごとに審査時間が前もって決められており、その時間帯にオーナーと関係者はクルマの近くにいなければならない。果たして時間が迫ってくると、自分のクルマでもないのに緊張する。周りの空気も少しピリピリし始めた。ミウラのエントリーした「クラスE」は戦後のグランドツーリングカーによる組で、アルファ・ロメオやフェラーリのレアモデルばかり7台がエントリー。どう転んでも勝てそうにない相手ばかりだったから、審査の順番が来てもリラックスできる、かと思いきや、やっぱり緊張した。来歴を簡単に説明し、ジャッジの指示でカウルやドアを開け、ヘッドライトやウインカー、フォーンを機能させる……。あ、ウインカーがつかない!
慌ててヒューズを見れば切れている。昨日は問題なかったのに? なぜだ? プチパニック。間の悪いことにヒューズの予備がなかった。
ジャッジたちは時間もないので次のクルマを先にチェックし、また戻ってくるといって立ち去った。時間の余裕はない。部屋に戻れば何か小さな金属くらい都合がつくだろうけれど、そんな時間もない。銀紙に包んだガムなんて今どき誰も持っていないし、レディからヘアピンを貸りるなんてことなど、思いもよらない。見かねた別のクラスの参加者が俺のヒューズを使えと持ってきてくれるも、年代が違って届かない。万事休すか(賞を狙っているわけではなかったけれど)。
粋な機転で窮地を脱する
慌てているところへ救世主が現れた。われらがヴァレンティノ・バルボーニさん。今や伝説となっている、ランボルギーニのファクトリーテストドライバーだ。ひとしきり悩んだヴァレンティノ、何やらほほ笑んでフロントカウルを閉めた。OKだという。試してみれば確かにつく。審査員が戻ってきた。ウインカーレバーを左右に倒す。基本の審査通過。オーケーサインが出た。オーナーともども胸をなでおろす。審査員が立ち去った後、ヴァレンティノがウインクしてカウルを開けると、ヒューズの収まる位置に銅のコインがはまっていた!
審査が終わると、ヴィラデステのメインイベントというべき敷地内パレードが始まる。湖畔と建物との間を、全参加者がゆっくりと走るのだ。午後4時をまわり、雨は本降りになっていたが、それでも審査員はもちろん多くの観客で花道ができていた。そう、これこそがヴィラデステに参加する者の晴れ舞台。サイモン・キッドソン氏が、一台一台をユーモアたっぷりに紹介する。
この日、人気投票による「コッパドーロ・ヴィラデステ」が発表された。香港から参加の「フェラーリ250GTスパイダー カリフォルニア」が獲得する。ハードトップを備えたライトブルーの美しい個体だった。
土曜の夜はヴィラエルバに移動して、RMオークションを楽しみ、次いでカクテル&ディナー。深夜までパーティーは続いていく……。
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公道を駆ける伝説的な名車の数々
日曜日。ホテルのガレージを7時半に出発し、昨夜のパーティー会場であるヴィラエルバへ向かう。一般公開日ということで、全参加者が場所を移しての展示となった。ヴィラデステからヴィラエルバまではほんの1kmくらい。とはいえ小さな街を抜けていく。そう、公道なのだ。至極のヴィンテージカーやクラシックカー、そしてレーシングカーも、この日ばかりは特別な許可を得て街なかを駆け抜ける。ポルシェ917Kや同936、935といった歴史的レンシュポルトが公道を走るシーンはたまらない!
展示を終えた夕方。再び参加者はヴィラデステへ戻る。もう一度、公道の走行シーンを見ることができるというわけで、朝よりも多くの見物客で沿道はにぎわっている。
そして夢のような週末を締めくくるのは、ブラックタイ着用(正装)によるガラパーティー。夕方にはようやく雲間から太陽が顔を出し、“本当の”コモ湖が見えてきた。シャンパーニュを手にクルマ談義に夢中の紳士淑女たち。その間をクラス優勝のマシンたちがゆっくりとパレードする。果たして今年のベスト・オブ・ショー(ジュリーによる審査)はどのモデルなのか。
湖畔に並ぶ8台のベスト・オフ・クラス。夜のとばりが降りるとライトアップされ、そのボディーやモールやホイールが一層宝石のようにきらめく。その光景もまた夢のようだった。
(文=西川 淳/写真=BMW/編集=堀田剛資)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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