第38回:ええ!? 量産eアクスルで世界2位を目指すって!? 日本が誇る「CVTのジヤトコ」の社長を直撃
2023.06.14 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ世界最大のCVTメーカーの超電動化戦略
みなさんこんにちは。昨今のニッポンの自動車業界が立ち向かうハンパなき大波といえばやはり電動化。2022年の中国では600万台レベルの電気自動車(BEV)が売れた今、変化は待ったなしなわけですが、問題は大完成車メーカーさまはもちろん、日本にあまたいるサプライヤーであり部品メーカーさんであります。
ある意味この方々こそがニッポンの自動車産業の命運を握るわけで、小沢は先日の横浜で行われた「人とくるまのテクノロジー展2023(ヒトクル)」でラッキーにも“CVTのジヤトコ”の佐藤朋由社長を直撃! 不躾(ぶしつけ)な質問をジャカジャカしてまいりました。
くしくも当日、世界最小&最軽量ともおぼしき電動ギアボックス「e-Axle(eアクスル)」を2種も発表。オマケに2030年にeアクスルを500万台販売という大目標もドカンと宣言!! 日本は電動化の大波にどう立ち向かうべきなのか? いざいざ~。
AT&CVTの世界はシュリンクする
小沢:突然スイマセン、佐藤社長! 不躾と知りつつぶっちゃけ「ジヤトコはこの電動化時代をどう生き残るか?」を聞きたいわけですが、まずはプレゼンテーションを聞いて驚きました。なんと2030年にeアクスルを世界で500万台量産するというどデカい目標。かなりの大風呂敷では?
佐藤:はいはいはい(笑)。
小沢:ジヤトコといえば現在CVTで世界49%のシェアを握るいわば“CVTのジヤトコ”みたいな存在ですが、実は新工場の計画もされているようで、いつごろからこの投資計画というか電動化計画を考えていたんですか?
佐藤:基本的には6~7年前、2016年か2017年にはCVT、ATの世界がシュリンクしていくのは見えてきていたので、今後は何をやるかを役員で論議したんですね。御殿場のある合宿所で。
小沢:きっかけはあったんですか?
佐藤:それ以前から戦略を考えるチームにプランをいろいろ練らせていて、役員合宿でそれを論議し始めたんです。で、われわれがやるべきはeアクスルだと……。もっとも当時そんな言い方はしてませんでしたけどね。
小沢:eアクスルとは、要はモーターとインバーター、ギアボックス、コントローラーをひとまとめにしたアッセンブリー商品で、どちらかというと日本電産の永守重信社長のイメージが強く、確か「2030年にBEVの価格は5分の1になる」との衝撃的発言が(苦笑)。
佐藤:でも部品点数は減りますからね。どこまでかは分かりませんが、価格が落ちるのは間違いないと思います。やるべきはあのタイプだろうと。
小沢:それが今回のヒトクルに出した同軸と3軸の2つのeアクスルコンセプトですか? 電動車両用の。
佐藤:あれもですが、それ以前に日産自動車向けに開発した次世代電動パワートレイン(X-in-1)が最初です。
小沢:先日、日産が別のプレゼンで説明していましたがジヤトコさんの技術なんですね。3-in-1がBEV用で、5-in-1が「e-POWER」用とありますが、それぞれ「アリア」と「ノート」用?
佐藤:細かくは言えないです。次世代なので(笑)。まずはここが第一歩、C/Dセグメントがメインなので取りあえずそこを狙おうと。
小沢:では今回出した新作の2つは?
佐藤:まだお客さんは言えませんが、やっぱりAセグとBセグ(コンパクト)も要るし、軽にも載るだろうと。考え始めたのは4年ぐらい前で、ようやくカタチになり始めた。
小沢:勝手に言うと次期型「日産サクラ」に載るといいのかもと。現行サクラはeアクスルになっていないですよね? モーターとかバラバラで。
佐藤:今はそうだと思います。
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世界2位を目指すって本気(マジ)ですか?
小沢:ところでeアクスル事業に乗り出すのは早いほうですか? 遅いほうですか?
佐藤:正直、遅いほうだと思います。考え始めた時期に差はないかもしれませんが、実際に着手できたのはちょっと遅いかと。
小沢:それはなにゆえですか? 僕自身、電動化の読みはホントに難しいですが、やはり2010年からの(日産)“「リーフ」ショック”はありますよね? 予想以上に世界で売れなかった。
佐藤:影響は否めないと思います。われわれとしても親会社(=日産)がなかなかこれに踏み切ってくれないというか。自動車メーカーと企画を一緒にやりますから投資にはおのずと慎重になりますよね。
小沢:リーフの時に投資し過ぎて困ったとかあったんですか?
佐藤:私の口からは言えません(苦笑)。
小沢:eアクスルが出始めたのはいつ?
佐藤:4年ぐらい前ですかね。ニデック(元日本電産)さんが言い始めて、徐々に定着し始めて……。
小沢:市場的にはどこを狙うんですか。やはり得意な日本とアメリカ?
佐藤:もちろん全世界です。アメリカもそうですし、中国も。
小沢:でも中国のBEV用パーツって地場が強いんじゃないですか? 国家主導ですし。
佐藤:だからってそこをあきらめる手段はないですよ。可能性がある限りはいきます。売れるかどうかは別にして(笑)。
小沢:どこかのメーカーみたいにeアクスルで世界ナンバー1を目指すとか?
佐藤:そこまでは言いませんけど、ナンバー2になります(笑)。
小沢:おおスゴイ! 2030年に量産500万台目標ってそれくらいの規模感なんですね。ジヤトコさんはギアボックスを年間どれくらい?
佐藤:今は500万台以下ですね450万~460万台。
小沢:ピークは? でCVTは約何割?
佐藤:確か650万台ぐらいだったかと。CVTがだいたい8割です。
小沢:つまり7年後には機械式ギアボックスと同じぐらいeアクスルをつくると。それって相当デカいターゲットですね。
佐藤:そうですね。言い過ぎじゃないかってよく言われますけど(笑)。
小沢:それで世界のeアクスル需要の何%?
佐藤:そんなにたくさんじゃないですよ。世界の年間自動車生産がざっくり1億台として、そのうち5000万台が電動車になったとして、そのうちの500万台というと……。
小沢:1割! なるほど世界の電動車ギアボックスの10%のシェアを取ろうというのが今回の目標であり、宣言なんだ。
佐藤:そんなことになっちゃいましたけどね。言うと社内のみんなは「ヒー」ってなりますけど(笑)。
CVTの技術はeアクスルに生かせるか?
小沢:自信の元はなんですか?
佐藤:そういう技術を持っていると。
小沢:さっきのプレゼンでジヤトコさんの強みは、小さいスペースの中に、ケースでありボックス剛性まで含めたパッケージ力であり、根本はギアも含めたある種の伝達でありサイズ効率のよさになるということなのですが。
佐藤:そうです。またわれわれは変速をよく知っているので、どうやってギアチェンジするか、どうギアを配置するか、クルマからの反力もあるので、そこをうまく組み合わせていいeアクスルがつくれるのかと。
小沢:つまり今まで培ってきたケースの小型、軽量、高剛性の技術、ギアの精度、効率、マネジメント技術はすべて生かせると。
佐藤:そうですね。マネジメントには熱の面もあるし、われわれは車両メーカーに入り込んで、運転性能と一緒につくり込むことができます。そこが強みです。
小沢:一番のライバルは? 世界的にはドイツのZFとかアメリカのボルグワーナーとか?
佐藤:日本のアイシンさんやニデックさんもそうですし、そこは勝っていくしかないですね。
小沢:ジヤトコがCVTで勝てたのはなぜでしょう。
佐藤:それはベルトとプーリーと呼ばれるコア技術のコンビがあったからですね。大トルクに耐えられるベルトがつくれ、さらに緻密な油圧コントロールと、クルマの走りに合わせてベルト位置も最適化できるといった。
小沢:そこは電動化時代にも使えますか?
佐藤:それがうまく使えないんです(笑)。さっき言った反力にせよ、今までCVTで吸収していたのを、EVはモーターでコントロールし、ギアで受けることになる。そこはわれわれにまだない技術なんですね。うまくパートナーと組みながら、新しい技術開発で乗り越えていく。
小沢:広い意味では、日本のクルマ好きが心配しているのはそこなんです。一部の大メーカーは電動化で負けていない、遅れていないと言うけど、製品的には物足りない部分もあるし、サプライヤーはどうなのかと。
佐藤:日本は遅れていると思いますよ。ニデックさんがあれだけやっているのも僕にはよく分かりますし、出だしはちょっと遅れました。ただ、同時に盛り返せるとも思っています。
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ジヤトコの強みとカルチャー
小沢:強みはやはりメカ技術?
佐藤:それもそうですが、クルマそのものをよく知っていますし、あとは安全性です。そこは揺り戻しがあると思います。
小沢:今はBEVの安全性が少しおざなりになっていると個人的には思ってまして、社長もそう思われますか。ところで今回発表されたeアクスルの特に小さいほう。モーターもギアボックスも入っているのにメチャクチャ小さいですよね。本当にパソコンサイズで感覚的には既存の半分ぐらい。
佐藤:3分の2ぐらいにはなってると思います。
小沢:これさえあれば、あとはバッテリーをつなげれば走っちゃうわけですよね。制御も入ってて。要はソニーの「ウォークマン」じゃないけど、出力60kWでは世界最軽量かつコンパクトで、フロントドライブにもリアドライブにも使えるeアクスル。軽自動車以外にも使えますよね?
佐藤:もちろん。
小沢:やはり小型軽量と高効率が最大の強みで中国にもそのまま出せると。ところでアチラはどうやって攻めるんですか?
佐藤:さっきも言った品質と安全がメインで、あとはユニーク性ですよね。どこまで認めていただけるかですけど、やっぱりチャレンジし続けるしかないです。
小沢:コストという意味では?
佐藤:中国メーカーは厳しいです。こちらも日進月歩なんで。
小沢:もう一つのでかいeアクスルはアメリカのピックアップ用ですか?
佐藤:お客さまはまだいないのですが、いずれ必要になるだろうと。
小沢:ところで佐藤社長は某社のようなオーナー社長ではないそうなんですが、競合のハードワークにはどう対抗する?
佐藤:僕が言っている目標は、あくまでも僕の目標であって会社の目標にはしていません。決して強要はしません(笑)。でもじわーっと浸透していき、みんなが思い始めて動いてくれればいいのかなと。僕もジヤトコで20年やってモノの受け止め方とか仕事のやり方はよく知ってますから。ドカンと言わなくても、最初はエエー? と言いつつも皆さんそっちに動いてくれる。そこがわれわれの強みでありカルチャーかなと。
ってな具合にeアクスル世界2位狙いの大胆目標を、ジョーク絡みで優しく、なおかつ熱く語ってくれた佐藤社長。マジな話、日本が自動車で食っていき続けるには技術と、最終的には気合と情熱しかないのかもしれません。ぜひ頑張ってください。陰ながら応援しておりますです!
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)
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小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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