高速道路の無料開放がまたまた先送りに! ……それでも利用者がぜんぜん怒らないワケは?
2023.07.07 デイリーコラム90年代だったら大問題になっていた
2023年5月31日、参議院本会議で、2065年までとしていた高速道路の料金徴収期限を50年延長し、2115年までとする改正「道路整備特別措置法」が静かに成立した。
これについて大手メディアは、「半永久的に料金徴収が続くことになり、利用者への丁寧な説明が求められる」等論評しているが、このニュース自体、まったく注目されていないし、反対の声も聞こえない。
これが1990年代なら、批判の嵐になっただろう。当時は日本道路公団による全国料金プール制が敷かれており(現在も似たようなものですが)、先に開通した東名・名神などの収益が、地方の赤字路線の建設費に回され続け、永久に無料になりそうにないことに、怒りの声が集まっていた。
当初、日本の高速道路は、路線ごとに、建設費の償還が終わったら無料開放されることになっていた。しかしそれでは地方路線の建設に支障が出ることから、1972年にプール制が導入されたという経緯がある。このプール制によって、日本道路公団は野放図に建設を続行することが可能になり、コスト意識もなくなって、談合の横行を許した。そういう状況に対する怒りから、当時は「東名や名神はとっくに借金の返済が終わっているんだから、即刻無料にしろ!」というスジ論が大いに語られていた。
このままでは、高速道路建設の借金は膨れ上がる一方で、無料化どころか、第二の国鉄になってしまう。それを回避するために、道路4公団民営化が断行され、債務の返済期限を、2005年の民営化の実施から45年後の2050年と定めた。そもそも民営化は、「いつか無料にします」という約束を守るために行われたと言ってもいい。
ところがその期限は、2014年に15年間延長され、今回はさらに50年間延長されてしまった。「話が違う!」という批判が巻き起こっても不思議はないが、その気配はない。なぜか?
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通行料が支える設備の保全とNEXCOの健全経営
最大の要因は、「老朽化対策のため」という大義名分だろう。2012年、中央道笹子トンネルの天井板が老朽化によって崩落し、多くの犠牲者を出した。ああいう事故は絶対に避けなければならない。そのためにお金がかかりますと言われれば、利用者は納得せざるを得ない。
加えて、NEXCO 3社が健全に経営されており、サービスエリア/パーキングエリアの充実という果実を利用者に還元していることもある。多くの利用者は、現在の高速道路におおむね満足している。満足しているからこそ、現状を維持するために料金徴収が半永久的に行われても、「まあいいか」と思えるようになったのだ。これが「値上げします」なら別だが、料金は据え置きだ。2065年の無料化だって、多くの利用者は「自分とは関係ないな」だったのが、さらに50年延長されても、「自分とはまったくぜんぜん関係ないな」である。
じゃ、路線ごとの償還議論はどうなのか? 例えば、今から「東名・名神などの償還の終わった路線は無料開放します」となったら、大混乱が起きる。並行する新東名・新名神の交通量は激減し、無料の東名・名神が大混雑になってしまう。そんなことができるはずがない。かつてのスジ論は、現在では無理筋になっている。
料金徴収の半永久化は、NEXCO各社にとって吉報だ。いずれ自分たちの会社がなくなるより、半永久的に安泰なほうがいいに決まっている。そのぶん各社は、高速道路をよりよくするためにまい進していただきたい。
今回の法改正では、SA/PAのEV充電設備や、自動運転車両の拠点を整備しやすくする制度も設けられた。NEXCO各社が整備する際、費用の一部を無利子で貸し付け、事業者負担を軽くするという。
それはそれで結構だが、減少しているSAのガソリンスタンドの再整備も行ってもらいたいし、SAのスタンドの燃料価格の高さもなんとかしてもらいたい。そのあたりは、半永久的な存続を許されたNEXCO各社が、義務として取り組むべき課題だ。内燃エンジン車はまだまだ死にませんから!
(文=清水草一/写真=NEXCO東日本/編集=堀田剛資)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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