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フィアット・ドブロ(FF/8AT)

至れり尽くせりではないけれど 2023.07.07 試乗記 サトータケシ プジョーの「リフター」、シトロエンの「ベルランゴ」と基本コンポーネンツを共用する「フィアット・ドブロ」。やはり気になるのは「どこがどのように兄弟車と異なっているか」だろう。2列シートの標準ホイールベース車を郊外に連れ出し、細部をチェックした。
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感心するほどの割り切り

すでにアナウンスされているように、フィアット・ドブロは、同じステランティスに属するプジョーのリフター、シトロエンのベルランゴと基本コンポーネンツを共用する。いわば、MPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)の三兄弟だ。

これまで日本に導入されている長兄と次兄のキャラを簡単に説明すると、プジョー・リフターがヘビーデューティーな外観と、悪路や雪道での走行性能向上に寄与する「アドバンスドグリップコントロール」という機能を備えたSUV風味のMPV。シトロエン・ベルランゴは、最新世代のシトロエンに共通するしゃれたデザインのエクステリアと、きれいな色使いのインテリアを組み合わせた芸術家肌のMPV。

では、最後に日本に入ってきた三男はどんなキャラなのか。ちなみに、1.5リッター直4ディーゼルターボエンジンに8段ATを組み合わせたパワートレインと、乗車定員7人の3列シートを備えるロングホイールベース版をラインナップする点は、三兄弟に共通。今回試乗したドブロは、定員5人、2列シートの標準ホイールベース版だ。

フィアット・ドブロの第一印象は、三兄弟のなかで最も“働くクルマ”っぽい、というものだった。フロントバンパーをはじめとする外装の樹脂パーツが黒く塗られるほか、インテリアもブラック基調。この三兄弟は乗用車と商用車の両方で使われることを想定して開発されているけれど、ドブロが最も「商」寄りに見える。

プジョー・リフターがサーフボードやMTBを積んで出かけるイメージで、シトロエン・ベルランゴは移動型のお花屋さんやカフェとして使ったら似合いそう。対してフィアット・ドブロは、ワインショップの配送車とかによさそうだと思った。

二度見してしまったのが、シフトセレクターの左上あたり、プジョー・リフターではアドバンスドグリップコントロールを操作するダイヤルがあった部分。ダイヤルがなくなっているのはいいとして、そこにはなんの手当ても施されず、ただの穴ボコになっているのだ。ドリンクホルダーになるわけでもなく、用途としては小銭入れぐらいしか思いつかないくぼみで、めっちゃ割り切っているなと、逆に感心してしまった。

2023年5月に発売されたフィアットのマルチパーパスビークル「ドブロ」。2列シート5人乗りの標準仕様「ドブロ」と、3列シート7人乗りのロングモデル「ドブロ マキシ」の2種類をラインナップする。今回は車両本体価格399万円の前者に試乗した。
2023年5月に発売されたフィアットのマルチパーパスビークル「ドブロ」。2列シート5人乗りの標準仕様「ドブロ」と、3列シート7人乗りのロングモデル「ドブロ マキシ」の2種類をラインナップする。今回は車両本体価格399万円の前者に試乗した。拡大
2000年にデビューした初代モデルから数えて3代目にあたる現行型は、「プジョー・リフター」「シトロエン・ベルランゴ」の兄弟車となり、スペインで生産される。
2000年にデビューした初代モデルから数えて3代目にあたる現行型は、「プジョー・リフター」「シトロエン・ベルランゴ」の兄弟車となり、スペインで生産される。拡大
前後バンパーをはじめとする外装の樹脂パーツが黒く塗られ、プロ仕様を印象づけるエクステリア。夜間走行中に対向車や先行車を検知して、ハイ/ロービームを自動で切り替えるオートハイビームが全車に標準で装備される。
前後バンパーをはじめとする外装の樹脂パーツが黒く塗られ、プロ仕様を印象づけるエクステリア。夜間走行中に対向車や先行車を検知して、ハイ/ロービームを自動で切り替えるオートハイビームが全車に標準で装備される。拡大
シフトセレクターはダイヤル式。「プジョー・リフター」で「アドバンスドグリップコントロール」の操作スイッチが設置されていた場所は、スイッチの“跡地”とばかりに小さなくぼみになっている。
シフトセレクターはダイヤル式。「プジョー・リフター」で「アドバンスドグリップコントロール」の操作スイッチが設置されていた場所は、スイッチの“跡地”とばかりに小さなくぼみになっている。拡大
「ドブロ」のボディーカラーは6万0500円の有償色となる「マエストログレー」(写真)と「メディテラネオブルー」に、無償の「ジェラートホワイト」を加えた全3色のラインナップ。
「ドブロ」のボディーカラーは6万0500円の有償色となる「マエストログレー」(写真)と「メディテラネオブルー」に、無償の「ジェラートホワイト」を加えた全3色のラインナップ。拡大
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走りでは区別がつかない

三兄弟のなかでも最も働くクルマっぽい、と感じたのは、値段を見たせいかもしれない。5人乗り仕様のベーシックモデルで比べると、ドブロは399万円、リフターの受注生産モデル「アリュール」が410万円、最近ラインナップに加わったベルランゴのエントリーグレード「フィールパック」が413万円と、家族4人でちょっとした旅行にいけるぐらいの違いがある。参考までに、直接のライバルとおぼしき「ルノー・カングー」は384万円からだ。

走りだして感じるのは、いい意味でフィアットっぽくないということだ。まず、乗り心地がフィアットっぽくない。自分が知っているフィアット車の乗り心地は、ドライというか小気味よいというか、ソールの薄いスニーカーで駆け足をするような、「カツン、カツン」というフィーリングが特徴だった。

けれどもドブロは違う。ちょっとお高い、ウオーキング用スニーカーのソールのように、地面と接した瞬間にしなやかにたわんで、衝撃を吸収してくれる。

この乗り心地は、記憶のなかのリフターやベルランゴとほとんど同じだ……。で、いまさらではありますが、わかった。MPV三兄弟は、三つ子の兄弟なのだ。昭和のボキャブラリーでいうなら、『魔法使いサリー』に登場するよっちゃんの弟、トン吉、チン平、カン太なのだ。クルマの場合、もちろんブラインドテストはできないわけですが、目をつぶって乗ったらMPV三兄弟は区別がつかないだろう。

ダッシュボードの基本デザインは「ベルランゴ」と共通。左右独立調整式オートエアコンや、Apple CarPlay/Android Autoに対応した8インチのタッチ式モニター、USBソケットなどが標準で装備される。
ダッシュボードの基本デザインは「ベルランゴ」と共通。左右独立調整式オートエアコンや、Apple CarPlay/Android Autoに対応した8インチのタッチ式モニター、USBソケットなどが標準で装備される。拡大
狭い場所などで荷物を出し入れする際に便利なリアオープニングガラスハッチがリアゲートに組み込まれている。これも兄弟車に共通する装備だ。
狭い場所などで荷物を出し入れする際に便利なリアオープニングガラスハッチがリアゲートに組み込まれている。これも兄弟車に共通する装備だ。拡大
グレーとブラックのコンビネーションファブリックに、ホワイトとグレーのステッチが入るフロントシート。助手席の背もたれを前方に倒せば、2700mm程度の長尺物を積み込むことができる。
グレーとブラックのコンビネーションファブリックに、ホワイトとグレーのステッチが入るフロントシート。助手席の背もたれを前方に倒せば、2700mm程度の長尺物を積み込むことができる。拡大
リアの3席は独立しており、それぞれをワンアクションで折りたたむことができる。フロントシートの背面には折りたたみ式のトレイが備わっている。
リアの3席は独立しており、それぞれをワンアクションで折りたたむことができる。フロントシートの背面には折りたたみ式のトレイが備わっている。拡大

走りの基本ができている

三兄弟の違いを確認しようと試乗をスタートしたものの、そのもくろみは途中でついえた。唯一、プジョー・リフターだけが小径ハンドルの上からメーターパネルを見るかたちになる、独自の「i-Cockpit」を採用しているのでインテリアの雰囲気が異なるけれど、それ以外にドライブフィールの違いはない。

極低回転域から力強く車体を引っ張ってくれる1.5リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンの頼もしさも、変わらない。

エンジンが頼もしいと感じるのは、8段ATの手柄でもある。変速ショックはほぼ皆無であるけれど、注意深く観察をすると、車速が上がると早め早めにシフトアップしているのがわかる。そして加速が必要な時にアクセルペダルを踏み込むと、ドライバーの意思を先読みしているかのように素早くギアが落ちて、エンジン回転数がポンと跳ね上がり加速態勢に入る。このキックダウンの場面でもシフトショックは極小だから、加速フィールはシームレスだ。

前述したとおり、サスペンションがしなやかにストロークしていることが伝わってきて、速度域を問わず乗り心地は快適だ。なかでも、一番得意なのは高速道路で、たとえばインターチェンジのランプなどである程度のスピードを保ったままぐるりと旋回するような場面で、懐の深さと粘り強さを感じさせる。

アイポイントは高いけれど、ハンドルの手応えがしっかりしていることと、前後のロールのバランスが絶妙なセッティングになっていることがあいまって、不安はまったく感じない。エンジン、トランスミッションと合わせて、「走る」「曲がる」「止まる」の基本がばっちりできている。

「ドブロ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4405×1850×1800mm、ホイールベースは2785mm。リア左右に手動式のスライドドアが備わる。
「ドブロ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4405×1850×1800mm、ホイールベースは2785mm。リア左右に手動式のスライドドアが備わる。拡大
最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300N・m/1750rpmの1.5リッター直4ディーゼルターボエンジンに、8段ATが組み合わされる。
最高出力130PS/3750rpm、最大トルク300N・m/1750rpmの1.5リッター直4ディーゼルターボエンジンに、8段ATが組み合わされる。拡大
ブラックに塗られた16インチアルミホイールと205/60R16サイズのタイヤを標準で採用。今回の試乗車は「ミシュラン・プライマシー4」タイヤを組み合わせていた。
ブラックに塗られた16インチアルミホイールと205/60R16サイズのタイヤを標準で採用。今回の試乗車は「ミシュラン・プライマシー4」タイヤを組み合わせていた。拡大
荷室容量は5人乗車時で597リッター、2列目シートをすべて倒せば2126リッターに拡大できる。ラゲッジスペース内の荷物を外部から見えなくするフレキシブルラゲッジトレイも標準で装備する。
荷室容量は5人乗車時で597リッター、2列目シートをすべて倒せば2126リッターに拡大できる。ラゲッジスペース内の荷物を外部から見えなくするフレキシブルラゲッジトレイも標準で装備する。拡大

自分の好きなように使える

前から疑問に思っていたのが、ミニバン王国のこの日本で、ルノー・カングーやプジョー・リフターなどがしっかりと売り上げを伸ばしていることだった。日本勢は、コンビニフックとかティッシュケース入れとか至れり尽くせりで、シートアレンジメントも箱根名物、寄せ木細工のからくり箱のようで、簡単な操作でさまざまなスタイルにすることができる。

けれども、この素っ気ないと表現したくなるほどシンプルなフィアット・ドブロに試乗して、こっち側を選ぶ人の気持ちもよくわかった。

コンビニフックやティッシュケース入れがあると、自宅リビングルームの延長という雰囲気になるけれど、ドブロをドライブしていると、家から離れたという気持ちになる。同時に、ドライバーがオトーサンやオカーサンには見えない、という気もする。

冒頭で働くクルマっぽいと書いたけれど、シンプルで道具っぽいところがフィアット・ドブロのキャラだ。至れり尽くせりではないけれど、自由に、自分の好きなように使うことができる。クルマいじりが好きな人なら工具箱、釣りが好きな人ならタックルボックスのように使いこなすはずだ。

そして、なによりもドライブフィールがいいから、クルマいじりと釣りの両方が好きな人にとって、素晴らしい選択肢になると思う。

(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

後席右と中央の背もたれを倒した様子。折りたたんだシートは、荷室床面とほぼフラットに格納される。背もたれは重量感があり、引き起こす際にはそれなりの力が必要。
後席右と中央の背もたれを倒した様子。折りたたんだシートは、荷室床面とほぼフラットに格納される。背もたれは重量感があり、引き起こす際にはそれなりの力が必要。拡大
前席上部に大容量の収納トレーを装備。シーリングランプの左右にマップランプを配置し、サンバイザー裏のバニティーミラーにも照明が備わる。
前席上部に大容量の収納トレーを装備。シーリングランプの左右にマップランプを配置し、サンバイザー裏のバニティーミラーにも照明が備わる。拡大
助手席側のダッシュボード上部に車検証ケースが入るグローブボックスが備わるほか、同中央部と下部にオープンタイプの収納スペースが設けられている。
助手席側のダッシュボード上部に車検証ケースが入るグローブボックスが備わるほか、同中央部と下部にオープンタイプの収納スペースが設けられている。拡大
「EMP2」プラットフォームが用いられた「ドブロ」のサスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式。これらは兄弟車の「リフター」「ベルランゴ」とも共通する。
「EMP2」プラットフォームが用いられた「ドブロ」のサスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式。これらは兄弟車の「リフター」「ベルランゴ」とも共通する。拡大

テスト車のデータ

フィアット・ドブロ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1850×1800mm
ホイールベース:2785mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(後)205/60R16 92H(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:18.1km/リッター(WLTCモード)
価格:399万円/テスト車=409万6700円
オプション装備:ボディーカラー<マエストログレー>(6万0500円) ※以下、販売店オプション フロアマット<フロント左右2枚セット>(1万3200円)/ETC2.0車載器<スタンドアローンタイプ>(3万3000円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1509km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:354.0km
使用燃料:22.6リッター(軽油)
参考燃費:15.6km/リッター(満タン法)/17.2km/リッター(車載燃費計計測値)

フィアット・ドブロ
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サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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