日産セレナe-POWER AUTECH(FF)
海と空のミニバン 2023.09.12 試乗記 「GT-R」をはじめとした「NISMO」ロードカーが人気だが、大人の上質感を狙う「AUTECH」も忘れてはならない。ことに「日産セレナAUTECH」は、ミニバンがずらりと並ぶ休日のショッピングモールなどで個性をアピールするのにぴったり。走行性能も先代とは一線を画す仕上がりだ。特別な仕立ての人気モデル
試乗車のボディーカラーは、「カスピアンブルー」と「ダイヤモンドブラック」のツートン。海をイメージさせる鮮やかな青だ。「日産セレナe-POWER AUTECH」に日本で一番オシャレとされる湘南ナンバーが付けられているのは、演出ではない。日産車のカスタマイズや特装車を手がけるオーテックは、神奈川県茅ヶ崎市で誕生した会社なのだ。2022年にモータースポーツ部門のニスモと合併したものの、今も湘南を拠点にしている。
セレナは2022年11月に6代目モデルが発表され、2023年春にハイブリッドのe-POWER版が発売された。「トヨタ・ノア/ヴォクシー」「ホンダ・ステップワゴン」というライバルと時を同じくして新型が登場し、ミドルサイズミニバンの市場が活況を呈している。どうしたって比較されるので、それぞれが強みをアピールするわけだ。いずれも純ガソリン車とハイブリッド車をラインナップするなかで、セレナの売りは駆動をモーターのみが担うe-POWERである。
純ガソリン車よりも高価なe-POWERモデルだが、販売の主流となっているという。人気ミニバンだから、同じクルマに出会う機会は多い。他人と違うちょっと特別なバージョンが欲しいというユーザーは多いはずで、セレナe-POWER AUTECHには興味をそそられるだろう。ガソリン車も用意されているが、8人乗りだけ。7人乗りを望むのであれば、e-POWER一択となる。
先代にもセレナAUTECHがあった。試乗したことがあるような気がしたので調べてみたら、それは勘違い。乗ったのは「セレナNISMO」だった。オーテックがブルーをイメージカラーにしているのに対し、ニスモはレッド。モータースポーツ活動のイメージを強く打ち出していて、セレナNISMOはフロントグリルやバンパーで空力性能を高めていた。エンジン自体はノーマルと同じでもコンピューターチューンで加速のリニア感を高め、スポーツマフラーですごみのあるエキゾーストノートを演出していた。
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湘南・茅ヶ崎をアピール
セレナAUTECHのパワーユニットは普通のセレナと変わらない。ピュアスポーツを志向するNISMOとは違い、AUTECHはプレミアムスポーティーをうたっている。職人のこだわりを詰め込んで、上質さや高級感を追求するブランドなのだ。湘南という地の利を生かすことも重視していて、茅ヶ崎の海と空の色をモチーフとした「オーテックブルー」がそこかしこに使われている。
エクステリアではドットパターンのグリルやブルーのシグネチャーLED、メタル調フィニッシュのプロテクターなどが特別感を付与する。足元にはAUTECHの「A」をかたどった専用アルミホイールが装着される。インテリアはオーテックブルーの乱れ打ちだ。ダッシュボードとドアトリム、本革巻きステアリングホイールは、ブルーステッチがアクセント。シートバックの波模様は茅ヶ崎の海をモチーフにしていて、さらに「AUTECH」の刺しゅうが施される。スペシャルな仕立てであることを見せながらも過度なアピールはせず、あくまで控えめなのが好ましい。
オーナーがオーテックのカスタマイズカーに乗っているという満足感を得るためには、セレナ自体がいいクルマであることが前提になる。ベースとなっているのは、「セレナe-POWERハイウェイスターV」。「プロパイロット2.0」を搭載する最上級グレード「ルキシオン」の1つ下に位置づけられている。
走りだすには、ダッシュボードに備えられたボタンでDレンジをセレクトする。ホンダのハイブリッドではおなじみだが、日産としては初採用の機構だ。2つの横長ディスプレイを並べたインストゥルメントパネルは最近の日産車で使われているデザインで、新しいもの感が漂う。使い勝手に関しては賛否があるだろうが、これがトレンドなのだ。
心地いい減速感のeペダル
発進時にはエンジンが始動していないので、滑らかさと静かさが約束されている。モーター駆動を前面に出すハイブリッドが増えた今ではもはや驚くことはないが、さきがけとなったのがe-POWERだ。先代「ノート」で採用されて以来、制御システムには細やかな変更が加えられてきた。アクセルを踏み込んでいくとエンジンがかかるが、ほとんど気にならない静かさである。e-POWER用に新開発された1.4リッター直3エンジンは以前の1.2リッターよりも余裕があり、回転数を抑えられることがメリットになっているのだろう。
セレナAUTECHはエクステリアに専用デザインを採用したことで3ナンバーになっているが、ベーシックなモデルは従来どおりの5ナンバーサイズである。日本の交通事情を考えれば、拡大を抑えたことはユーザーに歓迎されるはずだ。大型ミニバンのようなどっしり感には乏しくて微振動が伝わってくるのは避けられないが、乗り心地に文句が出ることはないだろう。
高速道路ではまさにハイウェイスター、ということにはならない。モーターの回転はある時点で頭打ちになり、伸び感ではガソリンエンジン車にかなわないところがある。家族を乗せて移動することが大切なクルマなのだから、むやみに飛ばすのはやめておこう。ルキシオンのようなハンズオフ機能はないが、従来型のプロパイロットで安楽ドライブを楽しめばいい。
サイズ感と見晴らしのよさのおかげで、ワインディングロードでは思いのほか快活な運転ができる。e-POWERの持ち味を存分に生かすために、「eペダル」を有効にすることを忘れてはならない。ワンペダルドライブはさまざまなクルマで採用されるようになったが、eペダルは先行者として経験を積んだことでさらに進化を遂げたようだ。ノートは2代目になって減速Gがかなり弱まったが、セレナはアクセルペダルを離すといい感じで減速する。ただし、完全な停止に至らないのは従来どおりなので、最後にはブレーキを踏むことが必須だ。
実用性の高い自動パーキング
アップデートが著しかったのは、自動パーキングである。先代セレナにも採用されていたが、まったく使えなかった。同時期のステップワゴンも同じようなものだったから、時期尚早だったのだろう。飛び抜けて優秀だったのが「リーフ」のシステムで、新型セレナは同じレベルに追いついた。モニターで駐車位置を指定すると、あとは自動でシフトとステアリングを操作して正確に枠内に駐車する。今回はテストできなかったが、登録しておくと近づくだけで勝手にシステムが起動する機能もあるというから、実用性は高い。
ファミリーカーとしての使い勝手のよさが重視されているのは当然のこと。セレナの看板となっている便利な「デュアルバックドア」が引き継がれたのはうれしい。室内の広さは限界に達しているはずだが、運転席の足元スペースや荷室長などはさらに拡大したそうだ。2列目キャプテンシートにゴージャス感は薄いが、前後左右に大きくスライドして自由度が高い。そのおかげで3列シートへの乗り込みは容易だ。
ミニバンは日本のガラパゴス的クルマと言われてきたが、それは悪いことではない。限定されたジャンルのなかで激しい競争が行われてきたから、速いペースで格段の進化が実現したのである。強力なノア/ヴォクシーに張り合って、セレナは安定した売れ行きを保っている。明確なキャラを確立し、オルタナティブとして存在感を発揮する手法はクレバーだと思う。
人気ファミリーカーのセレナだからこそ、オーテックの特別感をまとわせると商品性が向上する。オーテックブルーが海のイメージとオシャレ感をプラスし、細マッチョなイケメンのようだ。考え抜かれた見事な戦略には感服するしかない。
(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産セレナe-POWER AUTECH
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1725×1870mm
ホイールベース:2870mm
車重:1800kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)/--rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)205/65R16 95H/(後)205/65R16 95H(トーヨー・トランパスmp7)
燃費:--km/リッター
価格:415万0300円/テスト車=480万6500円
オプション装備:ボディーカラー<カスピアンブルー/ダイヤモンドブラック 2トーン>(7万7000円)/アダプティブLEDヘッドライトシステム+ワイヤレス充電器+6スピーカー+NissanConnectナビゲーションシステム<12.3インチディスプレイ>+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>+ドライブレコーダー<前後>+プロパイロットパーキング+SOSコール(45万4300円)/100V AC電源1500W<室内1個、ラゲッジスペース1個>(5万5000円) ※以下、販売店オプション 専用フロアカーペット(6万9900円)/専用ラゲッジカーペット(2万3400円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1654km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:409.0km
使用燃料:32.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.7km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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