ハーレーダビッドソンX350(6MT)/X500(6MT)
こいつは面白い! 2023.11.01 試乗記 ハーレーダビッドソンから、普通二輪免許で乗れるニューモデル「X350」と、その兄弟モデル「X500」が登場。これまでのラインナップになかった小・中排気量クラスの2台は、いかなる走りを見せるのか? 軽快な都市型ハーレーの実力をリポートする。太平洋をまたにかけたコラボレーション
この原稿を書いている今、土曜日の昼間に放送されているFMラジオのニュースで、ハーレーダビッドソン(以下、HD)が普通自動二輪免許(いわゆる中免だ)で乗れる新型車X350と、その兄弟モデルであるX500を発売したと報じられた。休日のお昼のニュースになってしまうほど、中免で乗れるHDの発売はインパクトのある出来事だということだ。そう、いよいよHDの新時代を告げるX350/X500の国内販売がスタートした(参照)。デリバリーの開始時期は、2023年11月末から12月初旬だ。
実はその発売前に、一足早くX350/X500の両車を東京都内で試乗することができた。それは想像以上に楽しい時間だった。
まずはX350/X500の基本的な情報をお伝えする。HDの小排気量モデルの存在が公式に明かされたのは、2018年に発表されたHDの中長期戦略「More Load」のなかでのこと。2020年の後半に、中国のZhejiang QJmotor社(以下、QJモーター)とともに排気量350~500ccのモデルを開発し、アジア市場に投入するとしたのだ。その後、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大や、HD経営陣の入れ替わり&中長期戦略の変更などによりスケジュールの変更はあったが、X350/X500は無事に発売されたというわけだ。
QJモーターは中国の二輪トップメーカーのひとつ。自社ブランドのQJモーターにくわえ、イタリアの老舗ブランドBenelli(ベネリ)、さらにはアジアや欧州などで販売するKeeway(キーウェイ)など、複数のブランドを持つ。ベネリの中間排気量アドベンチャーは、いまや欧州でトップセールスを記録するほどの人気モデルで、そのプラットフォームはMVアグスタも採用している。またロードレース世界選手権MotoGPのMoto2クラスにもQJモーターブランドで参戦するなど、各方面でその影響力を強めている。
HDのX350/X500は、それぞれベネリの「TNT302S」(日本に導入されている「TNT249S」の兄弟モデル)と「レオンチーノ500」(日本未導入)とコンポーネントを共有するモデルである。ただし、外装はもちろんエンジンの詳細や出力特性、前後サスペンションのセッティング、ABSの介入具合など、さまざまなポイントにHD独自の味つけが施されている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
上手に引き出された共通点と相違点
先述したベースモデルの違いからも分かるとおり、そもそもX350とX500は、コンセプトの大きく異なるバイクである。したがって、エンジンが360°クランクの並列2気筒であることは共通だが、そのエンジンの基本設計やフレーム構成、シャシー構成なども異なっている。しかし両車は、例えばエンジンのフィーリングに共通点を感じさせるセッティングを施すなどして、「“X”シリーズの世界観」をうまく表現している。
その共通点とは、360°クランクを採用する並列2気筒エンジン特有の、扱いやすく滑らかなフィーリングだ。この形式のエンジンは等間隔でシリンダー内爆発が起きることから、ビッグVツインのHDよろしくシリを蹴飛ばされるような、ドカッという明確な爆発感はない。その特性もあってトルク感に乏しく、つい半クラッチを多用してしまいがちだ。しかし360°ツインエンジンはトルク“感”が薄いだけで、トルクそのものはしっかりと出ている。したがって、さっさとクラッチをつないで、あとはアクセル操作で一気に回転を上げていけばよいのだ。そのときに感じるツブのそろった爆発と、そのツブツブが回転上昇とともに「ビーンッ!」というビートに変わっていく独自のエンジンフィーリング、そして滑らかで力強い加速が、360°パラレルツインエンジンの特徴だ。
X350とX500も、まさにそんなエンジンフィーリングに仕上げられている。両車で異なるのは、爆発のツブの大きさとビートの力強さだ。X500は全域で扱いやすく、滑らかで力強い。大型バイク初心者の人も、これまでビッグVツインに乗ってきたベテランも、4気筒スポーツバイクに乗ってきた猛者でも楽しむことができるだろう。首都高速も走ってみたが、多少クルマで混雑していても、3速から上なら何速のギアを使っても楽しく走れる。3速で高回転をキープして上述の「ビーンッ!」を楽しんでもいいし、6速に入れてエンジン回転を落としてから、360°ツインエンジンらしいブリブリッという加速を楽しんでもいい。回転を落としても、ソコからぐいっとアクセルを開けると吸気音が一気に高まるのだ。いずれにしても、車速の乗りは素早く力強い。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
既存のハーレーとはまったく違うところがいい
いっぽう、X350で首都高速を走れば、どのギアを使ってもX500より1500~2000rpmほど余計にエンジンを回して走ることになるが、それはそれでとても楽しい。特に6000rpm以上までエンジンを回して走るシーンは爽快だ。アクセルをガバっと開けた際、少し遅れてエンジン回転が上昇してくる感じは、ちょっと古い並列4気筒エンジンのスーパースポーツのようなフィーリングなのだ。
また排気量350ccクラスの2気筒エンジンであること、しかもショートストローク型であることから「高回転型で扱いにくいのではないか?」と思う向きもいるかもしれない。しかし、実際にはそんな神経質さはまったく感じなかった。渋滞した都心において、ノロノロと前のクルマについて走るときも、人通りが絶えない交差点を、前後左右を確認しながら走るときも、わずかな半クラッチと、あとはアクセル操作のみでユルユルと進んでくれる。ソコをクリアしてササッと3速くらいまでシフトアップしても、ゆっくりとした交通にギクシャクすることなくついていける。
HDは、「このXシリーズはバイク初心者やHD初心者に最適な車両であり、国内二輪市場を活性化させる起爆剤になる」と息巻いている。しかし、そんな枕ことばで新世代HDを擁護しなくても、経験値の高いライダーが乗っても楽しめるバイクじゃないかと感じる。特にこのエンジンは、自分が360°並列ツイン好きであるがゆえの甘い採点を差し引いても、キャリアを越えて幅広いライダーが楽しめると思う。特に、ビュンビュンとエンジンを回して車体も振り回せるX350の爽快感は格別だ。HDのビッグツインモデルに搭載される「ミルウォーキーエイト」とも、「パン アメリカ」や「スポーツスターS」「ナイトスター」などに搭載される水冷Vツイン「エボリューションマックス」ともまったく違うフィーリングであることが、さらにいい。新世代をうたうのであれば、見た目もメカニズムもフィーリングも車体の大きさも、まったく違うほうが潔い。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
シンプルに「楽しい!」といえる
もちろん、気になる部分がないわけではない。X350はハンドルやシートの位置に対して“足の置き場”がバックステップすぎるし、高速道路の継ぎ目を通過したときなど、サスペンションが速く動く時にガツッと衝撃が強く出る。いっぽう、X500はハンドルがやや遠く、サスペンションの動き始めが硬い。そしていずれの車両もシートが硬く、シリがかっちり収まりすぎて自由度がない。試乗車は2台とも、慣らしも終わっていないまっさらな新車だったことから、足まわりの印象については距離を重ねれば変わってくると思うが……。
いずれにせよ、「HDの小排気量モデル?」といぶかしがりながら乗った自分は、走りだして比較的早くに、心のなかの靄(もや)が晴れた。コレ楽しい、と。おそらくライダーの多くは、試乗前の私と同じ感じでこのX350とX500を見ていることだろう。皆さんの心の靄が晴れるか、さらに闇を深めるかはよく分からないが、まずは試してみることをお勧めする。国内外のブランドがニューモデルを投入するこの中間排気量カテゴリーが、X350とX500の登場でさらに面白くなることは、間違いないのだから。
(文=河野正士/写真=ハーレーダビッドソン ジャパン/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ハーレーダビッドソンX350
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2110×--×--mm
ホイールベース:1410mm
シート高:777mm
重量:195kg
エンジン:353cc水冷4ストローク 直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:36HP(27kW)/8500rpm
最大トルク:31N・m(3.2kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:69万9800円
![]() |
ハーレーダビッドソンX500
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2135×--×--mm
ホイールベース:1485mm
シート高:820mm
重量:208kg
エンジン:500cc水冷4ストローク 直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:47HP(35kW)/8500rpm
最大トルク:46N・m(4.7kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:83万9800円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆軽量都市型のハーレーダビッドソン、「X350」「X500」販売開始
◆これがハーレー!? 中排気量の新型バイク「ハーレーダビッドソンX350/X500」日本上陸!【Movie】

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?
2025.9.19デイリーコラム中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか? -
NEW
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.19試乗記プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。 -
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。 -
第4回:個性派「ゴアン クラシック350」で“バイク本来の楽しさ”を満喫する
2025.9.18ロイヤルエンフィールド日常劇場ROYAL ENFIELD(ロイヤルエンフィールド)の注目車種をピックアップし、“ふだん乗り”のなかで、その走りや使い勝手を検証する4回シリーズ。ラストに登場するのは、発売されたばかりの中排気量モデル「ゴアン クラシック350」だ。