第832回:空飛ぶクルマよりも「あの復活」 イタリアでジャパンモビリティショーはこう報道されていた
2023.11.02 マッキナ あらモーダ!日出ずる国の人気車種
本稿が読者諸氏の目にふれる頃、東京ではジャパンモビリティショー(JMS)の開催期間も終盤に差しかかっているはずである。そこで今回は、JMSがイタリア系メディアの電子版でどう紹介されていたかをお伝えしよう。
まずは、経済紙『イル・ソーレ24オーレ』である。社内・社外計4名のライターが、2023年11月25日にメーカー写真を用いながら、レクサス、ホンダ、トヨタ、マツダ、スズキ、日産のコンセプトカーを紹介している。例としてホンダでは「プレリュード コンセプト」を「東京で発表された新型車のなかには、象徴的な日本モデルの後継車もデビュー」という前文とともに紹介。スズキではイタリアにおける同ブランドの人気車種「スイフト コンセプト」を取り上げている。経済紙でありながら、車両の解説に注力していた。
筆者が知る限り、一般紙で最もJMSの報道に気合が入っていたのは10月27日付の『コリエッレ・デッラ・セーラ』だ。同紙は日刊紙でありながら、長年にわたり自動車ページが充実している。2023年9月には、欧州導入予定は未定にもかかわらず、「ベントレー級の価格のトヨタ」という見出しとともに、「トヨタ・センチュリー」のSUVタイプを解説している。
今回のJMSに関する執筆者は、公営放送を含めさまざまな主要メディアで長年フリーランスとして活躍するアンドレア・パオレッティ氏である。「東京ショーの舞台に立つ、未来のモビリティー:シティーカーからスポーツカーまで」という全体タイトルの直後の小見出しで「最新型車の祭典。主に100%エレクトリックと日本ブランドの展示」と紹介している。2021年の東京ショーはパンデミックによりキャンセルを余儀なくされたとの説明から始まり、電気自動車はもとより、あらゆる形態のモビリティーに重点を置いたものに変わったことを記している。
同紙はそのあと、4ブランドに絞って解説している。トップはスズキだ。日本においてKei-Car(軽自動車)というカテゴリーが歴史的に常に税制上の優遇措置を享受し、市場シェアの40%を占めていることを紹介。そのうえで、スズキが発表した軽ワゴン型コンセプトカー「eWX」を解説し、欧州導入への期待も寄せている。同時に、イル・ソーレ24オーレ同様、スイフト コンセプトについて紹介している。
次に続くのはトヨタで、「日出(い)ずる国でスポーツカーへの欲求は消えることはない」として、「FT-Se」を「MR2」の再来を匂わせるモデルとして説明している。さらに「マツダ・アイコニックSP」の「2ローターRotary-EVシステム」を紹介。締めはホンダの「サステナ・シー コンセプト」で、「フレンドリーだった1980年代の」という言葉とともに、初代「シティ」がデザインの発想源となっていることを解説している。
日本の話題を維持してもらうのは大変
自動車メディアを見てみよう。
イタリアを代表する自動車雑誌『クアトロルオーテ』の電子版は、プレスデー前日の10月25日からメーカー写真を用いて、出展各社の車両を紹介した。「ダイハツ・ビジョン コペン」には「グランデになったKei-Car」の見出しが付けられている。Grandeのふたつの意味「偉大な」「大きい」の双方をかけて、このコンセプトカーが普通車サイズであることを表している。
それとは別に、トヨタ自動車の豊田章男会長による「カーボンニュートラルへの山の登り方はひとつではない。多様な選択肢を提供する必要がある」といった最近の発言をまとめて、1ページをつくっている。そのあたり、本来ならば一般メディアが紹介すべき視点にまで踏み込んでいる。
実を言うと、イタリアのメディアでは、JMS報道の直後に、いくつかの大きなニュースが重なった。ひとつは10月26日にプレスデーが行われたヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」だ。もともとイタリア最大級の古典車イベントであるうえ、今回は初めて従来のパドヴァからボローニャに場所を移して開催された。そうしたこともあり、当日会場を訪問した筆者は、イタリア自動車産業界の名士や長年のジャーナリストたちをたびたび確認できた。
同じ26日には、ステランティスが中国の電気自動車メーカー、リープモーターへ出資するというニュースもあった。11月にミラノで開催される二輪車ショー「EICMA」の予告もおおいかぶさった。JMSに限らず、イタリアで日本の話題を維持してもらうのは、決して容易ではない。
空を飛んでも当たり前?
イタリアのJMS報道に話を戻せば、面白いのは、今回はモビリティー、すなわち移動手段にテーマの枠を拡大したにもかかわらず、やはり話題の中心は従来型の自動車であったことだ。
ホンダがゼネラルモーターズおよび自動運転を手がけるクルーズ社と共同開発した自動運転タクシー「クルーズ オリジン」、スバルの空飛ぶ車「エアモビリティー コンセプト」といった出展車は、思いのほか取り上げられていない。ソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ プロトタイプ」についても限定的だ。幸い今日でも、イタリア人の間で日本=技術の国である。日本人が披露するハイテクは当たり前すぎて、ニュース性が低いのである。
それよりも前述のように、プレリュードやコペンといった欧州のエンスージアストにとっても懐かしい名前が復活することに文字数を割いている。特にコペンに関してコリエッレ紙は、2002年登場の初代が2年後に欧州でも発売されたのに対し、2代目は導入されなかったこと、さらに同じく未導入ながら「トヨタGRコペン」が存在することまで詳説している。続くコメント欄を見ると、ダイハツが欧州から撤退していることを知る読者によるものだろう、「トヨタ販売店を通じて発売の可能性はあるかな?」といった期待の書き込みが早くもある。
どの国でも書き手は自分の関心とともに、読者の関心を呼び起こすものを常に意識する。そうした意味で、今回彼らが見せたJMSの切り口には、イタリアのユーザーが日本ブランドに求めているものが隠されている気がしてならない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=webCG, Akio Lorenzo OYA/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦 2025.11.13 アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。
-
第935回:晴れ舞台の片隅で……古典車ショー「アウトモト・デポカ」で見た絶版車愛 2025.11.6 イタリア屈指のヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」を、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが取材! イタリアの自動車史、モータースポーツ史を飾る出展車両の数々と、カークラブの運営を支えるメンバーの熱い情熱に触れた。
-
第934回:憲兵パトカー・コレクターの熱き思い 2025.10.30 他の警察組織とともにイタリアの治安を守るカラビニエリ(憲兵)。彼らの活動を支えているのがパトロールカーだ。イタリア在住の大矢アキオが、式典を彩る歴代のパトカーを通し、かの地における警察車両の歴史と、それを保管するコレクターの思いに触れた。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。











