トヨタ・クラウン セダンZ<FCEV>(RWD)/クラウン セダンZ<HEV>(FR/CVT+4AT)
トヨタの底力 2023.12.16 試乗記 「16代目は大政奉還」としてすっかりイメージチェンジに成功した「トヨタ・クラウン」だが、従来の需要に応える後輪駆動の「セダン」もきっちりラインナップしている。水素燃料電池とハイブリッド、両方のパワートレインを乗り比べてみた。セダンだけが後輪駆動
経済成長に伴うマイカーブームのなか、代々のクラウンには主に個人事業者のニーズを支えるバンやピックアップトラック、よりパーソナライズされた需要に応えるクーペやステーションワゴンなど、さまざまな車型が存在した。トヨタ自ら群戦略と呼ぶ現行クラウンの多彩なラインナップは、この歴史が着想点になっているという。
とあらば、従来のセダンに相当するのが「クロスオーバー」、クーペに相当するのが「スポーツ」、そしてワゴンに相当するのが「エステート」とみるのが順当だろう。そう思っていたら、ひょいっと登場したのが純然たるセダンの位置づけとなるこのモデルだ。
じゃあクロスオーバーの立場はどうなるのよ……ということになるわけだが、よくよくみればセダンは、プロポーションからして他の3モデルとは大きく異なっている。それもそのはず、用いるアーキテクチャーはFF系の「GA-K」ではなくFR系の「GA-L」、つまり先代にあたる220系クラウンをはじめ、「LS」や「ミライ」が用いるそれでつくるクラウン王道のパッケージということになるわけだ。
ただしサイズはLSとミライの間くらいと、今までのクラウンのそれとは大きく異なる。全長は5mの大台を突破、全幅は1890mmとなると、車格的にほど近いクルマとして想像してもらいやすいのは先代40系のLSだ。昭和や平成的な価値軸でいえば、クラウンに乗せられるのは霞が関なら事務次官、永田町なら副大臣といったところだが、令和の今は閣僚の方々がこぞって「アルファード/ヴェルファイア」に収まることもあって、そんなヒエラルキーなど関係なしということになるのかもしれない。
ミライとの価格差はわずか
でも引き戸ものではどうにも場が締まらない市ヶ谷方面の幕僚長に朗報なのは、新しいクラウン セダン、はっきりと広くなっていることだ。それもそのはず、ミライに比べても80mm長い3000mmのホイールベースはすべて前後席間長や後席の足まわりの拡張に使われていることもあって、後席の居住性はこれまでのクラウンになぞらえれば200~210系の「マジェスタ」にも匹敵する印象だ。
ただし220系譲りというかミライ譲りというべきか、6ライトキャビンのためグラスエリアは後ろに広い。開放感が高いとみるか撃たれやすそうとみるかは用途次第だが、4つのバリエーションのなかであえてセダンと銘打つなら、後席主体の秘匿感を織り込むオーセンティックなスタイルの提案があってもよかったのかなとも思う。というか、アルヴェルに加えて「センチュリー」にも分派が生まれ、LSだの「LM」だの「ES」だのとレクサス銘柄も絡みつつ、当のトヨタ自身も後席に乗せられるクルマのキャラ分けが相当渋滞気味になっているのではないかとはたから見ていても心配にはなる。
クラウン セダンならではのパワートレインとして注目されるのは燃料電池(FC)だろう。スタックやボンベ、インバーターやモーターといったメカニズムはミライのそれを受け継ぎ、搭載水素容量や出力、航続距離といったスペックはほぼ違いがない。
と、ここでふと気になるのがミライとの価格差だ。可能な限り同等装備同士での比較となると、ミライであれば「Z」グレードの「エグゼクティブパッケージ」が最もそれに近い。そして価格は817万2000円と、クラウン セダンとの価格差は13万円程度となる。もちろん銘柄が異なるから単純比較はできないが、単にロング代と考えてもクラウン セダンのFC代は気持ちアフォーダブルな設定のようにうかがえる。ただしミライには高速巡航時のハンズオフを可能とする「アドバンストドライブ」を搭載したグレードも用意されている。
ひと回り上の上質感を備えるFCEV
一方でクラウン セダンの側は、燃料電池車(FCEV)より100万円安い価格でハイブリッド車(HEV)を選ぶことも可能だ。しかも中身はFR系の車台に合わせて、4段ATを軸とする「マルチステージハイブリッド」システムに2.5リッター4気筒のダイナミックフォースユニットを縦置きで組み合わせた初めてのパッケージとなっている。
そのマルチステージハイブリッドの仕上がりは、さすがに十八番モノだけあってこなれていた。力強い駆動モーターのカバレッジの広さも、そこにエンジンのアシストが加わっての伸びやかな加速も、日常をともにするアッパーサルーンとして程よいところにいる。エンジンがうなるような急加速を求めると、ダイナミックフォースユニットの高速燃焼からくる特有の濁音成分が相変わらず耳障りだが、普通に走らせるぶんには静粛性も合格点だろう。
となると、多くの向きが選ぶのはHEVということになるかと思いきや、それとはひと回り異なる上質感を備えていたのがFCEVの側だった。車外ではポンプやインバーター、排水など耳慣れないメカ音が若干気になるが、それらの車内への透過はしっかり抑え込まれており、静粛性は電気自動車(BEV)とほぼ同等のところにいる。
走りだしからのトルク変動は至って滑らかで、アクセル操作にことさら気遣うことなく、望むトルクが思いどおりに引き出せる。これはドライバーズカーとしても重要な項目だ。でも、それ以上に驚かされたのが止まるの側のセットアップだった。
意のままに止まる
電動車の主たる制動は減速エネルギーを回収して再利用できる回生ブレーキが担うのが合理的だ。が、急減速時や停止時、もしくは緊急時などのために従来のメカニカルな油圧ブレーキも備わる。電動車に慣れないメーカーはこの双方のキャリブレーションに苦労することになるわけだが、近年はBEV開発のキャリアもあって、多くのメーカーが違和感の少ない味つけを施すようになっている。
となれば、トヨタはアドバンテージのひとつを失うことになるわけか……と思っていたが、クラウン セダンのFCEVはちょっと様相が異なっていた。踏力でみても踏量でみてもコントロール性は抜群で、意のままに止めることはもちろん、足裏の力加減で減速Gを思うがままに抜き差しできる。そして完全に止まるときもブースターの与圧に引っ張られずジャークを丸く小さく収束させるなど、さながら足裏とペダルとが一体化したようにリニアリティーが高い。
クラウン セダンはドライブモードに後席の快適性を最優先とする「リアコンフォート」モードを備えているが、正直、あまりそのモードの必要性を感じなかったのは、それよりもっと上流のパワートレインやシャシーのセッティング段階でクルマがきれいに動かせるからだ。意のままに走るという話はとかく曲がることに大きくフォーカスされがちだが、乗り心地や扱いやすさといった日常的項目にこそ深く関わっている。それを電動でここまで明快に表せているクルマはなかなかない。水素どうなんですかねえといぶかしがる向きも少なからずだが、BEVよりも技術的ハードルが全然高いFCEVでトヨタがこの域にいるという現実は、よそさんには沈黙の脅威だろうと思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタ・クラウン セダンZ<FCEV>
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5030×1890×1475mm
ホイールベース:3000mm
車重:2000kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:182PS(134kW)/6940rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3267rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101V/(後)235/55R19 101V(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:148km/kg(WLTCモード)
価格:830万円/テスト車=846万1700円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスホワイトパール>(5万5000円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(7万3700円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1520km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--kg(圧縮水素)
参考燃費:--km/kg
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トヨタ・クラウン セダンZ<HEV>
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5030×1890×1475mm
ホイールベース:3000mm
車重:2020kg
駆動方式:FR
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT+4段AT
エンジン最高出力:185PS(136kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:225N・m(22.9kgf・m)/4200-5000rpm
モーター最高出力:180PS(132kW)
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)
システム最高出力:245PS(180kW)
タイヤ:(前)245/45ZR20 103Y/(後)245/45ZR20 103Y(ダンロップe SPORT MAXX)
燃費:18.0km/リッター(WLTCモード)
価格:730万円/テスト車=776万9700円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスメタル>(5万5000円)/ブラックパッケージ<245/45R20タイヤ&20×8 1/2アルミホイール[ブラックスパッタリング塗装]、ヘッドランプモール[漆黒メッキ加飾]、ロアグリルモール[漆黒メッキ加飾]、フェンダーガーニッシュ[漆黒メッキ加飾]、ベルトモール[漆黒メッキ加飾]、リアバンパーモール[漆黒メッキ加飾]>(19万8000円)/パノラマルーフ<電動シェード&挟み込み防止機能付き>(11万円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(7万3700円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1466km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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