アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ(4WD/8AT)
本領はワインディングロード 2024.02.26 試乗記 フェラーリ由来の2.9リッターV6ターボエンジンを搭載した「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ」。最高出力510PSの強心臓と「ジュリアGTA/GTAm」ゆずりの機械式LSDを備えたハイパフォーマンスSUVの実力に、伊豆のワインディングロードで触れた。特別なアルファの特別なアイコン
「クアドリフォリオ」=白地に刻まれた四つ葉の印は、アルフィスタにとって特別な意味をもつものだ。それは110年以上に及ぶアルファの歴史において、純然たるコンペティツィオーネの勝利の守護でもあり、近年はハイパフォーマンスモデルがいただく冠でもある。
アルファ・ロメオのSUV、ステルヴィオは、2023年初夏にセダンの「ジュリア」とともに外装のイメージチェンジやデジタル装備の充実をはかるべく、マイナーチェンジが施された。パッと見で一番わかりやすい変化はフルLED化とともにデイタイムランニングランプのグラフィックが「トナーレ」調へと変わったヘッドランプだが、控えめながらアイコニックな盾形のグリル「トライローブ」や、ロアグリル、テールランプなども刷新されている。クルマ好きなら、その違いは感じ取れるものだろう。
そこから遅れること約半年の2023年11月末に、同様のマイナーチェンジがクアドリフォリオにも施された。性能面での改良点としては、「ジュリアGTA/GTAm」用の知見を生かした機械式LSDを採用している。くしくも2023年は、初めてクアドリフォリオをまとったアルファ・ロメオのレーシングカー「RL」が、タルガ・フローリオで優勝して100年という節目の年だったが、それを記念して用意された限定車「クアドリフォリオ100thアニヴェルサリオ」に、パフォーマンス面では倣ったかたちだ。
“跳ね馬”由来のV6ツインターボ
クアドリフォリオが搭載するエンジンは、2.9リッターV6ツインターボ。これはフェラーリが設計し、現行であれば「SF90」や「ローマ」が搭載する「ティーポ154」型をベースに2気筒をドロップしたもので、マセラティが直近まで搭載していたV8ツインターボとも縁が深い。本国仕様では2023年のマイナーチェンジでアウトプットが520PSに向上しているが、日本仕様は510PSの据え置きとなる。それに組み合わされる8段ATは、世のハイパフォーマンス系の定番ともいえるZFの「8HP」だ。
と、ここまでのメカニズムはジュリアのクアドリフォリオとも共通するが、ステルヴィオの側は駆動マネジメントのソフトウエアのみならず、多用途性を織り込んでギアがローギアード化されるなど、独自のチューニングが施されている。駆動方式はジュリアがFRなのに対しステルヴィオは4WD。トランスファーはオンデマンド式で、0:100~50:50の間で前後駆動配分をリニアにコントロールする。
ちなみに、ジュリアやステルヴィオが用いる「ジョルジオ」プラットフォームは、同門のマセラティも「グレカーレ」で採用しているが、ステルヴィオはホイールベースが80mm短く、車格的にひと回り小さい。全長は4700mmと5ナンバー枠の上限に収まるが、それでも日常的な取り回しで気になるのは1955mmの全幅だろうか。さりとて立てられたAピラーやボンネットラインの抑揚などもあって、前方の車両感覚はつかみやすい。
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硬い乗り心地も“速さ”を思えば納得
加えて、アーキテクチャーの鮮度はドイツのプレミアム勢と互角以上ということもあって、パッケージは車格相応以上のものをもっている。ジュリアと同じホイールベースながら、上方空間の広さを生かして前席はアップライトな姿勢がとれ、そのぶん後席のヒザまわりのスペースにも余裕が感じられる。ただし、後席の背もたれの角度設定が寝かせ気味なのが惜しい。もう少し立てることができれば、後席乗員の視線的な疲れも軽減できるだろう。
いっぽうで、クアドリフォリオのそれたる由縁であるパフォーマンスの一端は、最高速が283km/h、0-100km/h加速が3.8秒という数字で示される。ちなみにこれ、3リッターV6ツインターボの「ネットゥーノ」を搭載したグレカーレの「トロフェオ」とほぼ同等だ。数字的なところを事務的に追うぶんには、この2つの選択肢は購入を検討するにあたって案外悩ましいものだったのかと気づかされる。
フットワークははっきりと硬めだ。ダンパーはアクティブ制御付きだが、「ALFA DNAドライブモードシステム」が最もおとなしい「アドバンスドエフィシェンシー」=「a」の状態でも、低中速域ではけっこうな揺れや突き上げが感じられる。ダンパーうんぬん以前に、バネやスタビライザーなど使っている金物がギュッと締められている印象だ。他車と比べれば高重心にならざるを得ないSUVの体格を、ハイスピードでも落ち着かせようとあらば、ある程度の硬さは甘受すべきことなのだろう。言ってもこのクルマは、ほんの3年ほど前までは“ニュル最速のSUV”の座にいたのである。
四駆でもやっぱりアルファ
その片りんを垣間見るのはやはり山道。肌当たりをガラリと変えて、生き生きとコーナーを駆け抜けるサマはまさしく水を得た魚だ。
直近までのFF世代のアルファ・ロメオは、旋回時に外輪の荷重をうまく使って鋭いコーナリングを実現していた。対してジョルジオプラットフォームを用いたFR世代は、後輪をきっちり使いながらも、ドイツ勢のようにアクセル操作でにじり寄るように曲げていくというよりは、前輪の舵角や応答性で素早い機動力を引き出している印象だ。かといって四駆になっても回り込みが強すぎたり、どアンダーに陥ったりということはない。いきすぎることなく、ニュートラルからきれいな弱アンダーの間に収まってくれる。同様のマナーのよさはグレカーレ トロフェオでも感じられるところだが、サスの素養や特性もあって、こちらのほうがよりカッチリした印象だ。
アルファ・ロメオにして四駆というのは、古いクルマ好きにとっては的外れな存在かもしれない。が、昔日には荷重に応じて駆動配分を変えるフルタイム4WDと特製のブッソV6を搭載した「164 Q4」というクルマもあった。恐らくは「GT-R」や「ランエボ」によって築かれた量産スポーツ四駆というカテゴリーに対する、彼らの回答という意味合いもあったのだろう。シュタイア・プフとの共同開発になる「ビスコマチック」は、あまりに凝りすぎていてまったく長続きしなかったが、個性と個性が織りなす世界は、荘厳(そうごん)にして甘美でもあった。
対して現在の四駆は、「500PSオーバーのフェラーリV6が載ったアルファ・ロメオのSUV」という多方向で危ういキャラクターを整え、クルマとして成り立たせる役割も果たしているのだろう。それをFRでぶっ込んでくるジュリアのキレっぷりもそれらしいが、この四駆もドライビングファンにおいて、また立派なアルファ・ロメオである。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1955×1680mm
ホイールベース:2820mm
車重:1960kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6500rpm
最大トルク:600N・m(61.2kgm)/2500rpm
タイヤ:(前)255/40R21 102Y/(後)285/35R21 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1383万円(試乗車は2024年1月の価格改定前のモデル。改定後の価格は1400万円)/テスト車=1393万0100円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット“Alfa Romeo”(6万0500円)/ETC2.0車載器(3万9600円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1070km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:317.9km
使用燃料:53.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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