ポルシェ・タイカン4S(4WD)
電気でもポルシェ 2024.02.27 試乗記 ポルシェの電動化戦略の試金石として、先陣を切って登場した100%電動モデル「タイカン」。プレミアムブランドの電動サルーンといえばさまざまなライバルが存在するが、ポルシェならではの“強み”はどこにあるのか? 4WDモデルの「4S」に乗って確かめた。“ポルシェのBEV”という絶妙な存在
2023年、ポルシェの100%電気自動車(BEV)であるタイカンは、世界で4万0629台を売り上げたという。同年におけるポルシェ全体の販売台数は32万台強なので、全体の12~13%がタイカンという計算になる。ちなみに2023年のタイカンは、「カイエン」「マカン」「911」に次ぐ4番目に売れたポルシェで、タイカンとしては2021年の4万7291台に次ぐ台数だそうである。2023年の業績について、ポルシェ自身は「911とタイカンの堅調な成長による安定した販売台数」と評している。
ネットかいわいには「タイカンを購入すると、せまき門である911や718ケイマンの高性能モデルのオーダーでも優遇される?」といった販売現場でのウワサ話も散見されるが、残念ながらポルシェの購入経験のない筆者に、その真偽のほどはよく分からない。ただ、欧州スーパースポーツカーやラグジュアリーSUVを何台もガレージにならべられるような富裕層が「さて、話のタネにBEVでも買ってみようか」と考えたときに、タイカンが好適な一台であることは間違いない。“ポルシェのBEV”なら、クルマに興味のない友人・知人たちにも興味をもたれやすいだろうし、ひとりのクルマ好きとしても、純粋に好奇心が刺激されるはずだからだ。こうした魅力がタイカンの販売台数に結びついている面もあろう。
個人的にタイカンを試乗したのは2021年秋(日本上陸は2020年冬)以来。仕事がらBEVを試乗する機会は年々増え続けているが、少なくとも操縦安定性や快適性については、タイカン(と共通のDNAをもつ「アウディe-tron GT」)がいまだにBEVとしてはアタマひとつ抜けた存在といっていい……と、あらためて再確認できたことは今回の収穫だった。
普段使いでも感じられる低重心の恩恵
タイカンの大きな特徴は全高が低いことだ。車体形式はいわゆる4ドアクーペで、911や718ケイマンよりは背高だが、「パナメーラ」より低い。床下に大型電池を積むBEVは、室内空間を確保するために、SUVやハイトワゴンのような背高タイプとなる場合が多い。セダンスタイルでも総じてBEVは背が高い。そんななかで1.4mを切るタイカンの全高は、現在日本で手に入る量産BEVとしては、もっとも背の低い一台である。
床下に重いバラスト=電池を抱えるBEVは必然的に重心が低くなる。タイカンもそうしたBEVならではのパッケージを採用するが、背も本当に低い。実際、そのドライビングポジションもスポーツカーばりに低い。と同時に、電池は後席フットスペースを避けるように配置されていて、総電力量で79.2kWh(「パフォーマンスバッテリープラス」搭載車は93.4kWh)という大きな電池を搭載しつつも、大人4人が普通に座れる空間を確保している。この点にも、あらためて感心する。
そんなタイカンの走りは、素直に素晴らしい。タイカンでも比較的穏当なモデルとなる今回の4Sは、さらにその傾向が際だっている。ダンパーが柔らかめの設定となる「ノーマル」モードでは、路面の凹凸を包み込むような優しい路面感覚でありながら、ほぼすべての揺れが一発で収束して、無駄な動きもない。高速道路でのレーンチェンジやワインディングロードであえて無理な運転をしても、路面にフラットに吸いついたまま、上屋は微動だにしない。このあたりは可変ダンパーにエアサスペンション、そして電子制御スタビライザーなどの巧妙な制御に加えて、やはり圧倒的な低重心のおかげと思われる。
ドライブモードを「スポーツ」や「スポーツプラス」にすると、フットワークもじわりと引き締まって動きも俊敏になるが、低重心ゆえに締めすぎる必要もないからか、乗り心地の悪化は最低限だ。ただ、ノーマルモードがあらゆる場面で絶品のバランスを披露するので、慣れてしまうと公道でスポーツやスポーツプラスに切り替えたくなるケースは激減する。これもタイカンが絶対的に低重心であるおかげだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
そこかしこにただようポルシェらしさ
ご承知のように、タイカンは基本の骨格構造やハードウエアをアウディe-tron GTと共有する。2台を同時に乗れば、共通のDNAを感じざるをえない。いっぽうで、最新のタイカンは、いかにも911との近似性を感じさせるインテリアデザインだけでなく、乗り味からして「ポルシェだなあ」としか思わせないのだから、たいしたものだ。
今回の4Sはタイカンとしては下から2番目の動力性能が与えられているモデルだ。それでもシステム最高出力は530PS(オーバーブースト時)に達して、4.0秒という0-100km/h加速タイムは911でいうと「カレラ4」と「カレラS」の中間に匹敵する駿足である。ただ、そうした絶対的な速さより感心するのは、いかにもポルシェといったタイトなパワーフィールだ。
タイカンでは一部のBEVにあるようなアクセル操作と実際の加速とのラグがほとんど感じられない。そのぶん荒っぽいアクセル操作では明確なショックが出るが、ラグのなさのわりにはそれも軽微だ。こうしたいかにも高精度感がただようパワーフィールがポルシェっぽい。さらに、加速時にキャビンに響く疑似サウンドも、アウディのそれよりエンジンの残り香が色濃い。
ステアリングに力を込めてから実際にクルマが反応してヨーが発生するタイミング、そのヨーの立ち上がりかた、そしてステアリングから伝わってくる硬質な剛性感……も、ポルシェだなあとしか思えない。今から約2年半前の試乗時の記憶を呼び起こしてみても、そこかしこにただようポルシェ感は、当時よりさらに明確かつ濃厚になっているような気もする。これはファンや好事家が、どういう部分や手応え、味わいに“ポルシェ”を感じているのかを、ポルシェ自身がきっちりと定義・定量化できているということなのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実は絶妙な「レンジ」モード
タイカンに用意されるドライブモードには、前出のノーマル、スポーツ、スポーツプラス、そしてカスタマイズ機能の「インディビジュアル」に加えて、「レンジ」モードがある。レンジモードとは文字どおり、レンジ=航続距離を可能なかぎり確保するモードで、一般的なエコモードに相当する。従来の価値観では、ポルシェのようなスポーツカーブランドのクルマでは“ただのガマンモード?”と思われがちなレンジモードだが、「もしかしたら、これが掛け値なしにベストモードか!?」と思えるくらいに具合がいいのが、タイカンの新しさかもしれない。
レンジモードはアクセル反応こそ少しおとなしくなるが、といって、あからさまに去勢されるわけでもない。どんな高性能車でも、BEVと比較すればレスポンスに難があるエンジン車に慣れきった体には、ほどよくマイルドなレンジモードのほうが逆に心地よい場面もあるくらいだ。また、タイカンのレンジモードでは、シャシーはソフトな調律のまま、空気抵抗を減ずるべくエアサスはローダウンされる。結果として、快適性はそのままに、身のこなしはさらにフラットになる。多少は段差などに気を使う必要も出てくるが、もともと絶品に近かった快適性と操縦性のバランスが、さらに向上するのが面白い。
今回の試乗車は、2023年10月登録の個体だった。この2024年2月に「新型」を名乗るタイカンの改良モデルが日本でも予約受注を開始したから、今回のような従来モデルの最終期型はすでに新規オーダーできないことになる。ただ、タイカンの中古車はすでに結構な数が流通している。
新型タイカンはいわゆるマイナーチェンジに相当する内容のようだが、海外メディアでは事実上のフルモデルチェンジと評されるほど、大幅に進化しているらしい。となると、新しいタイカンはさらに“ポルシェ”になっていることだろう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・タイカン4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1966×1379mm
ホイールベース:2900mm
車重:2140kg(DIN)
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
システム最高出力:530PS(390kW)
システム最大トルク:640N・m(65.3kgf・m)
タイヤ:(前)265/35ZR21 101Y XL/(後)305/30ZR21 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
一充電最大走行可能距離:407km(WLTPモード)
交流電力量消費率:24.6kWh/100km(約4.1km/kWh、WLTPモード)
価格:1489万円/テスト車=2011万7000円
オプション装備:ボディーカラー<ネプチューンブルー>(39万6000円)/レザーフリーインテリア<スレートグレー>(59万7000円)/パワーステアリングプラス(4万8000円)/ホイール<ジェットブラックメタリック塗装>(19万8000円)/ポルシェダイナミックコントロールスポーツ<PDCC Sport>(54万5000円)/スポーツデザインパッケージ(77万3000円)/21インチTaycan ExclusiveDesignホイール(73万2000円)/ウインドスクリーン<グレートップティント付き>(1万9000円)/LEDマトリックスヘッドライト ポルシェダイナミックライトシステムプラス<PDLS Plus>含む(28万8000円)/スポーツクロノパッケージ モードスイッチを含む(35万5000円)/テールライトストリップ PORSCHEロゴ<ブラック>(11万9000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(22万5000円)/ホイールセンター<ジェットブラックメタリック塗装>(0円)/ポルシェトルクベクタリングプラス<PTV Plus>(24万8000円)/パッセンジャーディスプレイ(17万1000円)/ヘッドアップディスプレイ(26万6000円)/アダプティブスポーツシート<18way電動調節>メモリーPKG(24万7000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1669km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:204.4km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.6km/kWh(車載電費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。
-
スズキeビターラZ(4WD)/eビターラZ(FWD)【試乗記】 2026.2.5 スズキから初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」がいよいよ登場! 全長4.3mで、航続距離433~520km(WLTCモード)、そして何よりこのお値段! 「By Your Side」を標榜(ひょうぼう)するスズキ入魂のBEVは、日本のユーザーにも喜ばれそうな一台に仕上がっていた。
-
日産エクストレイル ロッククリークe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.2.4 「日産エクストレイル」に新たなカスタマイズモデル「ロッククリーク」が登場。専用のボディーカラーや外装パーツが与えられ、いかにもタフに使い倒せそうな雰囲気をまとっているのが特徴だ。高速道路とワインディングロードを中心に400km余りをドライブした。
-
フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.2.3 フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。
-
NEW
ガス代は下落しハイブリッド好調 では“燃費の相場”はどうなっている?
2026.2.9デイリーコラム暫定税率は廃止となり、高止まりしていた燃料代は下落。一方でBEV化の速度は下がり、ハイブリッド車需要が高まっている。では、2026年現在の燃費はいかほどか? 自動車購入時の目安になるであろう“燃費の相場”について考える。 -
NEW
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】
2026.2.9試乗記「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。 -
トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”(前編)
2026.2.8思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「トヨタ・カローラ クロス“GRスポーツ”」に試乗。人気の都市型SUVに、GRのデザイン要素と走りの味つけを加味した特別なモデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】
2026.2.7試乗記モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。 -
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】
2026.2.6試乗記アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。 -
ホンダの「Hマーク」がいよいよ刷新! ブランドロゴ刷新の経緯とホンダのねらい
2026.2.6デイリーコラム長く親しまれたホンダ四輪車のロゴ、通称「Hマーク」がついに刷新!? 当初は「新しい電気自動車用」とされていた新Hマークは、どのようにして“四輪事業全体の象徴”となるに至ったのか? 新ロゴの適用拡大に至る経緯と、そこに宿るホンダの覚悟を解説する。


















































