ポルシェ・タイカン(RWD)
電気仕掛けのスポーツカー 2021.10.11 試乗記 ポルシェ初の100%電気自動車(EV)「タイカン」に、後輪駆動のエントリーモデルが登場。「4S」や「ターボ」といったバッジの付かない“素”のタイカンは、いかにもポルシェらしい、飾り気のない上質なスポーツカーに仕上がっていた。キモは後輪駆動にあり
ポルシェ初のEVとなるタイカンは、さまざまな想像をかき立てるクルマだ。まずは誰もが、「ポルシェがつくった初めてのEV」であることに興味をそそられることだろう。5ドアハッチということは、「パナメーラ」のようなグランツーリスモ? 他のEVとはやっぱり違うの? ずばり速いんですか? ナドナド。
きっとそんな風に、「911」マニアからアーリーアダプターまでが注目しているだろうタイカンだが、今回試乗したのはシリーズのなかにあって最もベーシックなモデルだった。その名もずばり「ポルシェ・タイカン」。この“素タイカン”に今回試乗できたことで、筆者はポルシェの本質を久々に肌で感じることができた。このモデルは、EVである前にシンプルで良質なポルシェである。
ベーシックなタイカンにおける最大の特徴をひとつ挙げるとしたら、それは後輪駆動モデルだということだ。ご存じの通り、タイカンにはすでに「4S」「ターボ」「ターボS」という4WDモデルが存在している。一方、「パフォーマンスバッテリー」と呼ばれる専用バッテリーは容量79.2kWhのシングルデッキが標準となるのだが、試乗車はオプションで用意される2デッキ方式の「パフォーマンスバッテリープラス」(93.4kWh)にアップグレードされていた。
最高出力は、ローンチコントロールとオーバーブーストモードを使うことが前提だが、パフォーマンスバッテリー仕様で408PS(300kW)を発生。これがパフォーマンスバッテリープラス仕様になると、476PS(350kW)へと68PSパワーアップされる。
ちなみに通常走行時のフルパワーは、前者が326PS(240kW)で後者が380PS(280kW)と、その差は54PSに縮まる。さらに面白いのが0-100km/h加速(5.4秒)と最高速度(230km/h)では、その数値が同じなことだ。つまり100~230km/h領域での動力性能を除くと、バッテリーの差は主に航続距離ということになる。もうひとつちなみに、その航続距離は前者が354~431km、後者が407~484kmとなっている(WLTPモード)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
並のEVよりさらにスムーズ
こうした予備知識を頭に入れて走らせたタイカンは、しかしそうした理屈で語るより前に、実にすっきりとした走りのクルマだった。
コンソール上にある、パソコンのそれようなスタートボタンをプッシュすると、音もなくメーター類が起動する。シフトノブと呼ぶには小ぶりなシフトセレクターは、既存のガソリンモデルとは違ってステアリングの奥に設置されており、最初はこれを探すのに手間取った。しかし、このレイアウトによってセンターコンソールまわりはすっきりとした設計となっており、室内空間も実際のスペース以上に広く感じられる。
Dレンジに入っても、当たり前だが駆動がつながるショックは皆無。アクセルを軽く踏み込めば前置きなくスルスルと走り始める所作は、EVの教科書通りだ。しかしながら、実際に路上を走りだしたその感触には、既存のEVともまたひと味違うスムーズさを感じた。まずはモーターならではのリニアなトルクが、リアタイヤの押し出しによって得られるためとても気持ちいい。重心の低いボディーとしなやかな足まわりの組み合わせも快適で、2900mmの長いホイールベースのおかげでピッチングも起こりにくい。
ちなみに、試乗車のサスペンションはコンベンショナルなスプリング&ダンパーの組み合わせで、路面の起伏や段差による垂直荷重は「ドスッ!」とダイレクトに伝わってくる。床下に敷き詰められたバッテリーの重さを感じる瞬間だ。しかし、このバッテリーがフロアを剛体化しているため、入力自体はガッチリ受け止められ、ダンパーによって素早く減衰される。もちろんエアサスのほうがこうした局面では有利だが、ベーシックモデルという立ち位置だと“コンベ足”も悪くないと感じた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
考えるな 感じろ
そして積極的に走らせると、タイカンは楽しい。フロントにエンジンを持たないことからくる、操舵感の軽やかさ。ワイドトレッドがもたらす反応のよさ。カーブでは、ここから得られる俊敏性を、長いホイールベースとダブルウイッシュボーンの足まわりがマイルドにバランスしてくれる。そして右足の動きに従順なモーターが、2130kgにもなるボディーを音もなく前に、前にと走らせてくれる。
正確にはその速度感を表現するべく、タイカンにはサウンドエフェクトが盛り込まれている。パーシャル域ではルルルル……とうなり、加速とともにこれがフゥオオオ……と高まっていくわけだが、それが決して押しつけがましい音量になっていないことには好感が持てた。
ギミックに頼らないという点では、回生ブレーキの使い方も慎重だ。その制御は2段階しかないうえに、通常はタッチパネルから車両制御の階層へアクセスすることでこれを切り替える。試乗車はこれをステアリング上のオプションボタンでも機能させられるようになっていたが、その減速Gもいわゆる“ワンペダルドライブ”が促されるほどのものではない。コックピットドリルでの説明にいわく、ポルシェはターンイン時の挙動をナチュラルに保つために、アクセルオフでの回生ブレーキを控えめにしているのだという。
こうしたタイカンの走りに身を委ねていると、クルマとのシンクロ感がハンパない(笑)。乗り心地のいい電動のレーシングカートを走らせているようだと言えばいいだろうか。理屈よりも、直感的に。考えるより感じてステアリングとペダルを操ると、タイカンは流れるように走る。そしてこれが、とっても気持ちがいい。
モーターのパワーは、正直言って迫力に欠ける。初速の立ち上がりは確かに鋭いものの、スピードを愛するポルシェフリークからすれば、速度が伸びれば伸びるほど加速Gは横ばいになり、「なんだ、こんなもんか」とすぐに慣れてしまうことだろう。しかし、そんな刹那(せつな)のスピードを求めずとも、シャシーのよさがドライビングプレジャーを十分に補ってくれる。筆者はこの素タイカンをクローズドコースでも走らせたことがあるのだが、真剣に追い込んだときの体さばきには、「718ボクスター」にも通ずる軽やかさがあった。
ポルシェらしいスポーツカー
必要以上にステアリングゲインが高くないのは、重量バランスがいいからだろう。エンジンを積まないことからくる重心の低さと、これがもたらすヨー慣性モーメントのまとまりのよさから、タイカンは面白いほどニュートラルなステア特性でコーナーを曲がる。
そこからパワーをかけてもスナップオーバーしにくいのは、4輪に荷重がバランスよくかかっているからだ。さらには電子制御が巧みに空転を防ぎ、出力を絞るというよりはLSD的な働きで安定性を保ってくれる。後輪駆動というとFR車のような動きを想像するかもしれないが、むしろタイカンは上質なミドシップ車のごとき走りをする。いや、これこそが後輪駆動EVの走りである。
限界領域でこうした走りができるタイカンだからこそ、オープンロードでは余裕をもってその軽やかさが堪能できる。まさにタイカンはポルシェの言う通り、スポーツカーなのである。ポルシェは今後セルの効率を高め、より小さなバッテリーでEVをつくろうとしている。そうなればホイールベースはさらに短くなり、このタイカンよりも旋回性能の高い、刺激的なスポーツEVが生まれるのだろう。それこそ「ミッションR」のような。
まとめるに、タイカンのベーシックモデルは、派手さこそないがEVのよさを高度なシャシーワークでまとめ上げた、実にポルシェらしい飾り気のないスポーツカーだった。なおかつ、そのホイールベースの長さから大人4人と荷物をのせて、GT的な使い方が十分にできるのもうれしい。参考までに今回の電費は、車載計読みで2.2km/kWhだった。
これ1台にポルシェのすべてを求めると、少し淡泊にすぎるのだが、たとえばクラシックポルシェを傍らに置いて普段はタイカンなんて使い方は、とてもぜいたくに思える。筆者も1995年式の「911カレラ」を持っているから、そんなパラレルユースができたら夢のようだ。そういう意味でも、タイカンにベーシックモデルがあることには意義がある。
(文=山田弘樹/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・タイカン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1966×1395mm
ホイールベース:2900mm
車重:2130kg(DIN計測値)
駆動方式:RWD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
最高出力:380PS(280kW)/476PS(350kW)(ローンチコントロール時)
最大トルク:357N・m(36.4kgf・m)(ローンチコントロール時)
タイヤ:(前)225/55R19 103Y XL/(後)275/45R19 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:25.4-21.5kWh/100km(約3.9-4.7km/kWh、WLTPモード)
価格:1203万円/テスト車=1563万6000円
オプション装備:ボディーカラー<ドロマイトシルバーメタリック>(18万3000円)/レザーフリーインテリア<グラファイトブルー>(59万7000円)/“PORSCHE”ロゴLEDドアカーテシーライト(4万8000円)/モデル名ハイグロスブラック(4万円)/リア2速ミッション(0円)/エレクトリックスポーツサウンド(8万4000円)/パフォーマンスバッテリープラス(95万3000円)/スポーツクロノパッケージ モードスイッチを含む(18万6000円)/19インチTaycan Sエアロホイール(19万1000円)/ブラックPORSCHEロゴ付きライトストリップ(11万9000円)/アクティブレーンキーピング(9万6000円)/4ゾーンクライメートコントロール(13万7000円)/4+1シート(8万円)/アンビエントライト(7万1000円)/コンフォートシート 14way電動調節 メモリーパッケージ(21万5000円)/シートヒーター<フロント、リア>(14万5000円)/グラファイトブルー シートベルト(8万2000円)/アルミニウムロンバスインテリアパッケージ(19万8000円)/モバイルチャージコネクト(18万1000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:5574km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:202.5km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:2.2km/kWh(車載電費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。






















































