スーパーカーブランドにとって12気筒エンジンとは何なのか?
2024.05.20 デイリーコラム性能的にはマストではない
キリスト教徒でなくとも「12」という数字にはある種の完全性を感じているはずだ。12には“ひとまわり”という印象もあれば“それ以上なし”という感覚もある。生活に密着した数字であると同時に、それ自体に“人を引きつける力”があった。
一方で、レシプロエンジンの世界もまた12との相性がとてもいい。通常のエンジンはピストンの直線運動を回転力に変える装置である。それゆえストレート6が最もバランスに優れるとされ、それを2つ、V字型に組み合わせたV12は、バランスのよさに加えてパッケージとパフォーマンスの効率に優れたエンジンであり続けてきた。ハイパワーレーシングエンジンといえばV12が主流だったこともあったし、ウルトララグジュアリーカーに使われたこともあった。
けれども今や制御技術の発達と過給器や電動アシストの進化によってパフォーマンスだけであればV6でも事足りるようになった。「フェラーリ296」シリーズや「マクラーレン・アルトゥーラ」などのPHEVはその最たる例だろう。いや、たとえ自然吸気エンジンであっても、「ポルシェ911 GT3 RS」のように、パッケージングとエアロダイナミクス次第では超一級の戦闘能力を提供することが可能な時代なのだ。
要するに、重量やコストのかさむ12気筒搭載にこだわる理由など、パフォーマンス面ではもはや無いに等しい。厳しくなる一方の排ガスや騒音の規制を考えれば、余計にそうだ。事実、ポルシェやマクラーレンといったドライバーとのエンゲージメントを重視するスポーツブランドは、これまでも8気筒以下のエンジンを主軸として勝負してきた。
止まりそうでも終わらない
V12は絶滅危惧種。そう言われるようになって久しい。実際、12気筒を得意とするブランドに“そんな気配”(=やめるっきゃないかなぁ的なムード)が漂っていたことも事実だし、その気配を感じるたびわれわれメディアも「これで最後か?」などと好事家たちの購買欲をあおってきた。
ところが最近、立て続けに新型12気筒エンジンを積んだスーパースポーツが誕生している。ランボルギーニはPHEVのフラッグシップ「レヴエルト」を、フェラーリはその名も12気筒という自然吸気の「12チリンドリ(ドーディチ チリンドリ)」をデビューさせたし、アストンマーティンは2024年秋デビューの「DBS」後継モデル(順番からいうと「ヴァンキッシュ」か?)に新たなV12を積むと公言した。12気筒絶滅の気配など消し飛んでしまったのだ。
これはいったいどうしたことか。なるほど彼らが公式に“やめます宣言”をしたことはない。繰り返すが、筆者を含めたメディアが“代わって宣言”してきただけだ。
やめる気配はあったのに、今やそれすらも皆無なように思える。潮目が変わったと感じたのは、2023年春にEUが、2035年以降も内燃機関の搭載を認める決定をしたこと。かなり厳しい生産条件をクリアする合成燃料を使わなければならないなどハードルも高いが、とにかくエンジンの存続に一定の活路が見いだされたことは間違いない。
加えてスーパーカー系のハイブランドはサーキットなどで楽しむトラック専用マシンの開発を並行して行っており、それには官能性と性能を両立する12気筒エンジンを積む傾向が強かった。つまり、V12エンジンそのものの開発は“止まったことなどなかった”わけだ。
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いわば「ブランドの生命線」
12気筒を決して諦めない。その理由はブランドごとに少しずつ異なっている。ランボルギーニは最もアグレッシブにその開発を続けてきた。レヴエルトに積まれたV12はモーターアシストを前提とした完全に新設計のエンジンだ。そもそもサンタアガータはマラネッロより(例えばDOHCなど)先進的なV12を積んで誕生したブランドである。ミドエンジンにこだわり、状況が許す限りV12にも執着する。それも最新の技術を駆使して、だ。レヴエルトのV12が量産初のプラグインハイブリッドとなったように。なぜならそれが彼らのブランド価値の生命線であるからだ。
フェラーリもまたそうだ。大方の予想を裏切って、FR2シーターのフラッグシップモデルに、引き続き自然吸気のV12を積んだ。12チリンドリに取りあえずF140HDという既存のV12エンジンの改良版を搭載したのだ。自然吸気のV12、というよりも、V12の継続にこだわったともいえる。なぜならマラネッロもまたその誕生時から20年間も、跳ね馬エンブレム付きでいえば30年間にわたりV12しかつくってこなかったブランドだ。彼らにはまだ、モーターライズと過給機という時代に合わせるツールが残されている……。
これまた予想を裏切ってV12を新設計したと発表したアストンマーティンの場合はしかし、ランボやフェラーリとは事情がまるで違っている。ブランドの歴史はV12とさほど密接ではない。21世紀になってから、「V12ヴァンキッシュ」以来だ。ところがV12の搭載をやめる気配を見せた途端、カスタマーからの存続要望が噴出した。メルセデスAMGの供給するV8エンジンの性能は今やV12を凌駕(りょうが)していたというのに、だ。結局、最新設計へと見直しの図られたV12ツインターボは最大トルク1000N・mを誇るなど頂点エンジンとしての面目を保っている。
要するに12気筒は今や完全に、カスタマーの欲求を精神的に満たす、最も有効な記号となっているのだった。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ、アウトモビリ・ランボルギーニ、アストンマーティン、webCG/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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