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ハイブリッド化でパワー増し増し! 高性能車は一体どこへ向かうのか?

2024.06.10 デイリーコラム 西川 淳
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終わりのある“チキンレース”

消えゆく運命にあったはずの12気筒エンジンが再び息を吹き返したかと思えば、それ以下のマルチシリンダーエンジンでもハイパワー化の勢いは衰えることがない。極めて現代的に“電動化”の結果として高出力を得たように見えていたとしても、その実、エンジン性能も大幅に上がっていることが多い。

例えばハイブリッドになるという「ランボルギーニ・ウラカン」後継モデル用のV8を例にとれば、エンジンの最高出力がすでに800PSと、先代にあたるウラカン用V10はおろか、「アヴェンタドール」用V12のスペックすら上回った。ダウンサイジングの極み、であろう。

なぜそんなことが起きているのか? もちろん各種解析技術の向上によるエンジン開発能力の大幅なアップ、すなわちテクノロジーの進化としてその結果を素直に受け入れることはできる。高性能モデルは高性能を追求し続けて初めて称賛される。進化をやめた高性能モデルに未来はないといっていい。

環境や安全といった社会的要請を全うしたうえでの進化は正当である、と、メーカーの言い分は当然そうなるだろう。そしてそれを望んでいるのはあくまでもユーザーの側である、と。買う側がデザイン変更とともに進化=スペックの向上を買い替えの最も大きな理由であると考えているかぎり、メーカーはそれを自らやめるわけにはいかない。

資本主義社会の抱える矛盾と同じで、どこまでも進化し続けるわけにいかない(し、できるはずもない)ことは明白なのだが、かといってどこかで諦めて止まることなど決してできない。冷静に現況を見つめてみれば、やれるうちにやれることは全部やっておく的な競争にさえなっていて、どこかチキンレースにも似た状況になっているとも思う。

この状況はいつか必ず終焉(しゅうえん)する。問題はいつか、そのときどんな状況になっているのか、ということだろう。どうやらそのタイミングは、人間が自発的に運転することを少なくとも公道上で諦めたとき、になりそうだ。すべてが管理された、けれども自由な個別移動という社会が実現するとき、個々の性能差など誰も気にしなくなる。

もちろんサーキットなどクローズドな場所で楽しむ“ドライバーズカー”は、現在の延長線上にあって進化をし続けるのかもしれない。それでも物理的な限界は必ず訪れる。その先は、もはやリニアのようにクルマを浮かせるほかなくなるのだから。

2024年内のデビューが予定されている「ランボルギーニ・ウラカン」の後継モデル(コードネーム:ランボルギーニ634)には、4リッターV8ツインターボエンジン(写真)とモーターを組み合わせたハイブリッドシステムが搭載される。当然ながら環境性能は意識されているものの、エンジン単体の最高出力は800PSとウラカンのそれ(640PS)を大幅に上回り、システム総出力は900PSを超えるという。
2024年内のデビューが予定されている「ランボルギーニ・ウラカン」の後継モデル(コードネーム:ランボルギーニ634)には、4リッターV8ツインターボエンジン(写真)とモーターを組み合わせたハイブリッドシステムが搭載される。当然ながら環境性能は意識されているものの、エンジン単体の最高出力は800PSとウラカンのそれ(640PS)を大幅に上回り、システム総出力は900PSを超えるという。拡大
W型12気筒エンジンに別れを告げたベントレーは、V8エンジンを核とした新たな電動パワートレイン「ウルトラパフォーマンスハイブリッド」への移行を表明している。システム最高出力は782PS。システム最大トルクは大台超えの1000N・mと公表される。
W型12気筒エンジンに別れを告げたベントレーは、V8エンジンを核とした新たな電動パワートレイン「ウルトラパフォーマンスハイブリッド」への移行を表明している。システム最高出力は782PS。システム最大トルクは大台超えの1000N・mと公表される。拡大

いずれ意識や価値観は変わっていく

思い返せば、1970年代の排ガス規制の折、エンジンの性能は大いにスポイルされた。ユーザーの不満は大きく、メーカーは規制を乗り越えてハイパワー化を図った。それが進化であった。

1980年代後半になると交通事故による死亡者数が増え、性能の抑制を国が迫りはじめた。日本ではエンジン出力の自主規制(という名の国の指導。型式の認定権を持つ国の指導だから事実上の強制)という年月が長らくあったのだ(1990年~2004年)。上限280PS。当時は日本車の進化を阻む意味のない規制だといわれたものだが、今にして思えば、なんと“よくできた”性能キャップの仕組みだったことか。

速度への憧れが自動車の進化を後押ししてきたことは間違いない。果たしてそれが正しかったのかどうか。近い将来、完全な交通制御社会の前段階として、低速化社会が実現するだろう。そのとき自動車は本当の意味で生まれ変わる(もしくは新たなモビリティーに取って代わられる)ことになる。

並行してエンジンの高出力化もあらためて問い直されるようになるはずだ。同時にユーザー側の意識や価値の認識も徐々に変わっていく。本当のハイブランドならば、そんな人々の変化を敏感に捉えて、違う進化のかたちを見せることになろう。個人的にはフェラーリあたりが「もうばかばかしい最高出力競争をやめます」と言えば、一気に流れが変わると思うのだが……。

ドライビングファンさえ、この先どうなるのか雲行きが怪しい。今はどちらも欲張って求めているけれども、高出力を取るか、ファンを取るかと言われれば私ならファンを取るだろう。そこをフェラーリあたりが、それこそヘリテージにちなんだ3リッターくらいの12気筒エンジンで表現してくれたなら……。

めちゃくちゃ格好よくて、すさまじく高価な、けれども馬力が低くて、とてもドライビングファンに満ちているという夢のような憧れの跳ね馬が登場してくれたなら。ただやみくもに高性能を求める今の価値観も変わっていくように思う。

(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ、ベントレーモーターズ、フェラーリ、webCG/編集=関 顕也)

フェラーリのハイブリッドスーパースポーツ「SF90ストラダーレ」は、最高出力780PSの4リッターV8ツインターボエンジン(写真)と3基のモーターを搭載。そのシステム総出力は1000PSに達する。
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1960年代に生まれた名車「フェラーリ250GTO」は、排気量3リッターのV12エンジンを搭載。その最高出力は300PSだった。その程度のスペックを前提に、最高のドライビングファンが味わえる高級・高性能モデルをつくるというのも、選ぶべき道のひとつではないだろうか。
 
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西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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