「ポルシェ911」に初のハイブリッドモデルが登場 その特徴を分析する
2024.06.13 デイリーコラム3リッターと同等のSB比を死守
その名も「T-ハイブリッド(T-Hybrid)」である。Tは
ハイブリッド化に合わせ、水平対向6気筒エンジンもアップグレードした。3リッター(2981cc)だった排気量を3.6リッター(3591cc)へと20%増加させ、電動ターボチャージャーを組み合わせた。従来型の3リッターツインターボも残されている。
排気量の拡大はボアとストローク、双方を拡大して行っている。3リッター版のボア×ストロークは91.0×76.4mmだ。3.6リッター版はボアを6mm、ストロークを4.6mm伸ばして97.0×81.0mmとした。
ちなみに、911および「718」向け6気筒エンジンの最大排気量は4リッターでボア×ストロークは102.0×81.5mm。911ターボが積む3.8リッター版のボア×ストロークは102.0×76.4mmだ。
水平対向エンジンでストロークを伸ばすのは幅方向の制約があるので難しく、現行プラットフォームでは81.5mmが限界なのだろう。エンジンの効率(燃費、排ガス性能)を考えると、ボアはできるだけ小さく、ストロークはできるだけ長くしたい。
ストロークとボアの比率であるストローク/ボア比(SB比)は、SB比1.0を超えるロングストローク型のほうが混合気の形成や損失低減など効率面で有利とされる。世の高効率エンジンはおしなべてSB比1.2前後である。911が搭載する4リッター版(自然吸気)のSB比は0.800、3.8リッターは0.750、3リッターは0.840、最新の3.6リッターは0.835だ。3.6リッターの開発にあたっては燃焼効率を考えてボアだけでなくストロークも拡大し、3リッターと同等のSB比を死守しようとしたことが伝わってくる。
今回のアップグレードで3リッター版も性能向上が図られており、最高出力は394PS、最大トルクは450N・mを発生する。いっぽうT-ハイブリッドと組み合わされる3.6リッターエンジン単体での最高出力は485PS、最大トルクは570N・mだ。
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熱エネルギー回生システムとしても機能
エンジンの排気量によらず、トルク特性を横並びで評価する指標にBMEP(正味平均有効圧)がある。そのBMEPを計算してみると、3リッター版は19.0barなのに対し、3.6リッター版は19.9barでわずかに高性能化している。ターボエンジンとしては依然として控えめな数値で、3.8リッター版のBMEPは26.8barだ。BMEPが25barを超えるとパフォーマンスに振っている印象が強くなる。
T-ハイブリッドの核となる3.6リッターエンジンは、エンジン単体のスペックを見るとパフォーマンスよりも効率を重視したユニットに感じられるが、それで十分なのは、排気量増に加えモーターを組み合わせるからだ。
ターボが効果を発揮するのは排気エネルギーが十分に確保された領域である。発進時は無過給状態なので、蹴り出しの強さは排気量の大きさが効く。911のアップグレード版T-ハイブリッド搭載車は従来よりも20%排気量の大きなエンジンを積んでいるので、その効果で力強い蹴り出しが期待できそうだ。
そこから加速していくシーンでは、電動ターボチャージャーの出番となる。コンプレッサーとタービンの間に最高出力15PSのモーターを挟んでおり、排気エネルギーが少ない領域でコンプレッサーを高速回転させ、過給圧を高める役割を果たす。そのため、応答遅れのない、リニアで力強い加速が得られるはずだ。
3リッター版は左右バンクにそれぞれ1基、計2基のターボチャージャーを備えているが、3.6リッター版は1基の電動ターボチャージャーで済ませている。それで十分狙った性能を実現できるということだし、軽量化にもつながる。
また、電動ターボチャージャーに備わるモーターは、コンプレッサーをアシストするのに使うだけでなく、余剰の排気エネルギーを回生して電気エネルギーに変換するのにも使う。つまり、熱エネルギー回生システムとして機能するということだ。
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T-ハイブリッドの重量増は50kg
2015年から2017年にかけて、ルマン24時間レースで3連覇を果たした「919ハイブリッド」が熱エネルギー回生システムを搭載していた。その革新的な技術が量産モデルに降りてきたと思うと感慨深いものがある。
T-ハイブリッドは8段デュアルクラッチトランスミッション(PDK)の後端に最高出力54PSのモーターを搭載する。アイドル回転でも最大150N・mのトルクでエンジンをアシストするというから、電動ターボチャージャーとの合わせワザで、低回転・低速時の力強さは保証されたようなものだ。
T-ハイブリッドのシステム最高出力は541PS、同トルクは610N・mとなる。3リッター版の0-100km/h加速タイムが4.1秒なのに対し3.6リッターのT-ハイブリッド版は3.0秒で、パフォーマンスの違いは歴然。絶対的な加速性能だけでなく、ターボと駆動用の2基のモーターアシストが寄与するレスポンスの良さに感動を覚えそうだ。
円筒形セルを敷き詰めたリチウムイオンバッテリーはフロントアクスル上に搭載。エンジン上に搭載するインバーターやDC/DCコンバーターなどの電気系ユニットと高圧ケーブルで結んでいる。電源電圧は400V。容量は1.9kWhということだが、公開された画像を見ると大型の12Vバッテリー程度のサイズしかなく、相当に(出力密度を確保しながらも)エネルギー密度の高いセルを採用しているものと想像できる。
一方で、12Vバッテリーは軽量化のために一般的な鉛バッテリーではなく、軽量なリチウムイオンバッテリーを採用。こうした軽量化策もあり、T-ハイブリッド搭載車の重量増は先代比で50kgに抑えられているという。
投入された技術をざっと俯瞰(ふかん)してみると、T-ハイブリッドを搭載した911は単に絶対的な性能が高いだけでなく、レスポンスが良くて扱いやすく、スムーズで、環境にもやさしい(高性能車としては燃費がいい)スポーツカーに進化しているものと想像できる。
(文=世良耕太/写真=ポルシェ/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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