ホンダ・フリードe:HEVエアーEX プロトタイプ(FF)/フリード クロスター プロトタイプ(FF/CVT)
こだわりが詰まっている 2024.06.19 試乗記 ホンダの屋台骨を支えるコンパクトミニバン「フリード」がフルモデルチェンジ。洗練されたデザインが目を引く「エアー」と、アクティブなイメージを前面に押し出した「クロスター」のプロトタイプに、クローズドコースで試乗した。その第一印象を報告する。思い切った振り幅
間もなく正式発表されるホンダの新型フリードにテストコースで試乗した。あらためて紹介するまでもなくフリードは、ホンダにおいて軽自動車「N-BOX」に次ぐ販売台数を誇る人気モデルだ。今回ステアリングを握ることができたのは、「e:HEV」と呼ばれるホンダ自慢の最新ハイブリッドパワートレインを搭載したエアーと、シンプルにグレード名のみが掲げられた純ガソリンエンジン車のクロスターである。前者が6人乗りのFF車、後者も同じく6人乗りのFF車であった。
新型フリードには既報のとおり、上質で洗練されたデザインのエアーと、力強く遊び心にあふれるクロスターの2モデルがラインナップされる。クロスターはそのルックスからもわかるように、最近流行しているオフロードテイストを盛り込んだいわばアクティブ仕様。ホイールアーチに専用の樹脂クラッディングが追加され、グリルやバンパーにはシルバー加飾が組み込まれている。デザインでも明確にSUVっぽさを狙う。
これら両モデルに基本となる3列シートの6人乗り仕様があり、さらにエアーには3列シートの7人乗りが、クロスターには2列シートの5人乗り仕様が設定される。エアーはコンパクトミニバンとして乗員数を重視し、クロスターは遊びのシーンでいかに便利に使うかがテーマ。そんなふうに両モデルはキッチリとすみ分けられている印象だ。グリルやルーフレール、前後バンパーといったコスメ系の差異化にとどまっていた従来モデルに対して、新型のクロスターは思い切った振り幅を感じさせる。
イメージカラーが「フィヨルドミスト・パール」と呼ばれる薄いブルーの外板色のせいか、実際に野外で見るエアーは、ミニ「ステップワゴン」ともいえそうな印象である。いっぽうのイメージカラーである「デザートベージュ・パール」の外板色をまとったクロスターはいかにも道具っぽく、存在感も十分だ。3代目フリードの開発責任者を務めた本田技研工業の安積 悟さんは、「エアーはゼネラルでシンプルにして多くの人に受け入れられやすいデザインを目指し、そのぶんクロスターをとがらせて個性を表現しました」と言う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
思わず口元が緩む
新型フリードに設定される2つのパワートレインは、いずれもマイナーチェンジした「ヴェゼル」譲りのもの。e:HEVが最高出力106PSの1.5リッター直4エンジンに少し出力を抑えた最高出力122PSのモーターを組み合わせたハイブリッド、純ガソリンエンジンが最高出力118PSの1.5リッター直4となる。
プラットフォームは、従来モデルの進化・熟成型。シャシーは基本的な骨組みを流用しながら、新開発のフロアパネルを組み合わせることで剛性をアップし、重量バランスにも配慮しているという。さらにフリード初となるe:HEVの搭載に対応すべくサブフレームやエンジンマウントを強化し、ブッシュ類の低フリクション化も実現。ガソリンタンクの容量拡大や電動パワステモーターのスペックアップ、電子制御パーキングブレーキの適用などでアップデートされている。
リニアシフトコントロールが組み込まれたe:HEVの加速シーンは、「胸のすくような」と言っては少し褒めすぎのようにも思うが、ドライバーのイメージする加速感と実際のスピードにずれがなく、気持ちよくクルマが前進する。発進こそモーターが担当するのでほぼ無音だが、いったんアクセルペダルを踏み込めば、まるで有段ATのようなエンジンサウンドを伴ってぐいぐい加速する。正直フリードの加速シーンで気持ちよさを覚えるとは思わなかった。
ガソリンエンジン車のCVTにも全開加速ステップアップシフト制御が採用されており、加速感とエンジンサウンドの演出はなかなかのもの。こちらはe:HEVほどパワフルではないが、CVT車のネガとして取り上げられることの多いラバーバンドフィールを覚えることはない。このガソリン車でなるほどと感心したのはシフトダウンの制御。コーナーの手前でブレーキをかけて減速すると、有段ATで行うシフトダウンのようにエンジン回転が少し上がる。クリッピングポイントでアクセルペダルに力を込めると、ドライバーの意図をくんだかのようにレスポンス良く加速に移る。運転が好きな人なら、思わず口元が緩むシーンだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
走りも視界もノイズレス
家族のための“ちょうどいいホンダ”がフリードのはず。つまり、基本的なキャラクターはファミリーカーといっていい。けれども「そこそこ運転も楽しめるとは」と感心していると、高速周回路に入って再び「おお」と小さく声が漏れた。高速巡行が想像よりも静かだったからだ。しかも、直進安定性もかなりのレベル。この好印象は今回乗ったe:HEV車もガソリン車も変わらないものだった。
高速道路のランプから本線への合流をイメージしつつ加速し、高速周回路へとアプローチ。モーターからエンジンへの切り替えは、とてもスムーズだ。ワンタッチターンシグナルの点滅が終わるころ本線(と見立てたレーン)に無事合流すると、ヨーを残したり、ふらついたりすることなくスルッとノーズが直進方向に定まる。
120km/hの制限速度を想定し、アダプティブクルーズコントロールをセット。e:HEV車はエンジン直結モードで穏やかに巡行する。お目付け役として助手席に座るホンダの開発メンバーに「静かですよね。しかも(視界がよく)クルマの周囲がきちんと見えるので、高速道路に苦手意識を持つ人でも安心して流れに乗れそうです」と言うと、「ロードノイズの削減もそうですが、視界にはかなりこだわりました」との回答があった。
「見通しのいいグラスエリアに加え、Aピラーは車幅をつかみやすい位置と角度を追求しました。水平基調のダッシュボードとサイドのベルトラインも採用も運転のしやすさにつながっています。運転席からあまり見えないワイパーの位置決めも、余計な視覚情報を極力抑える“ノイズレス”にこだわった結果です」とのこと。これらのファクターは主に街なかの走行や駐車時にメリットを実感できそうだ。ただし見えすぎてもだめで、「見えすぎると今度は落ち着かなくなるので、そのいいバランスを試行錯誤しました」とのこと。ちなみに3列目横のウィンドウも三角形から四角形に形状を変更し、閉塞(へいそく)感のない明るいキャビンの実現に貢献している。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
使いやすさや実用性を追求
その3列目シートは跳ね上げシステムを設計し直し、より低く手前で楽に跳ね上げることができるようになっている。従来型から手数はそう変わらないが、試してみると、確かにより小さな力で折りたたんだシートを跳ね上げることができるように進化していた。重心が低くなったことで、ストラップで固定する際もかなりイージー。固定位置も下げられているため、サイドの採光面積も増えた。
2列目シートは6人乗り仕様の場合、従来型と同じく左右が独立したキャプテンシートとなる。3列目シートは、前方が抜けて見えるように着座位置が設定されている。1列目シートのシートバック横の形状を変更し、車内における1列目から2列目へ、またはその逆の移動がしやすく工夫されているのも新型フリードのセリングポイントだ。ウオークスルーのしやすさは、2列目にチャイルドシートを固定して使う子育て世代の声を反映したという。
触感のいい素材を用いたエアーのインテリアは温かみのあるリビングライクなもので、ブラックとカーキの2トーンカラーでコーディネートされたクロスターのそれは、道具感も少々。コックピットはモダンに進化しているものの、スイッチはスイッチとして残され、使いやすさや実用性が吟味されている。小物を置けるトレイの配置や大きさ、グローブボックス形状や使い勝手には、知ればつい誰かに語りたくなるこだわりが詰まっている。
クローズドコースでの試乗に限定されたためか、いずれのパワーユニットも性格(ハイブリッドと自然吸気の純エンジン)の違いが浮き彫りになっただけで、おおむね好印象に終始した。ガソリンエンジン車はe:HEV車に比べれば確かにうるさく少し非力だが、従来型とは比べるまでもなく静かにしつけられている。洗練された乗り心地も印象深い。果たして公道ではどんな発見があるのか。いつもの道を新型フリードで走るのが楽しみである。
(文=櫻井健一/写真=本田技研工業/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ホンダ・フリードe:HEVエアーEX プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4310×1695×1755mm
ホイールベース:2740mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:106PS(78kW)/6000-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:122PS(90kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:--km/リッター
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダ・フリード クロスター プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4310×1720×1755mm
ホイールベース:2740mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:118PS(87kW)/6600rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:--km/リッター
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
-
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
-
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
-
アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
-
NEW
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
NEW
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
NEW
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。