予想外の一強他弱? 新型「ホンダ・フリード」の人気はなぜ1グレードに集中するのか
2024.08.01 デイリーコラムハイブリッドの人気は圧倒的
新型「フリード」の話題は、webCGのページビューでも上位を占めるコンテンツなのだという。つまり、クルマ自体の人気が高い。実際、フリードの国内販売台数は、ホンダの白ナンバー登録車で「ヴェゼル」とならぶ2トップである。先代のモデル最末期といえた2024年前半の登録台数でも、ヴェゼルとの差はわずか月間数百~2000台強。それどころか、同年3月にはヴェゼルをしのいだほどだ。
そして新型フリードが正式発売となった6月は、先代の駆け込み需要なのか、新型がいっせいに登録されたのか、(前年同月比で2倍近い台数だった)ヴェゼルを再び抜き返して、ホンダの登録車トップとなった。「大人5人以上がきっちり乗れるコンパクトミニバン」というフリードは、その存在自体が唯一無二ともいえ、モデルチェンジもあまり関係なく堅実な需要があるのだろう。
そんななか、6月28日に発売となった新型フリードの初期受注の状況が明らかにされた。発売から約1カ月後となる7月27日時点での累計受注台数は約3万8000台。月販計画は6500台だから、その約6倍。好調な立ち上がりといっていい。
新旧ともに人気の新型フリードだが、その受注の内訳を見ると、先代と新型ではちょっと様相が異なっていることにも気づく。
というわけで、先代フリードと比較した場合の、新型の商品特徴はいくつかある。
ひとつはパワートレインだ。1.5リッター直4ハイブリッドと1.5リッター直4純ガソリンエンジン(以下、ガソリン)という基本構成は先代同様だが、その中身は様変わりした。ハイブリッドが「i-DCD」から最新の「e:HEV」に刷新されて、動力性能も燃費も大きく向上したのはよく知られるところだ。しかし、じつはガソリンも先代の直噴とは別物のポート噴射エンジンになり、乗り味や静粛性は進化しているのだ。それなのに、カタログ上の動力性能や燃費は大差ない……というか、わずかに後退しているのだ。
そうしたこともあって、先代では約半々だったハイブリッド:ガソリンの比率が、新型では60:40くらいのハイブリッド優勢になると、ホンダ自身は見込んでいたという。
しかし、フタを開けてみれば、新型での受注はe:HEVが83%、ガソリンが17%。新車発売直後は上級機種に人気が集まりがちとはいえ、ホンダの担当者によると、8割超えはさすがに想定外という。ハイブリッドとガソリンのカタログ燃費差(WTLCモード)は先代の3.8km/リッターから9.1km/リッターまで拡大(6人乗り・2WDの場合)している。まあ、価格差も新型で6万~7万円拡大しているのだが、その価格差以上に、新しいe:HEVの燃費や乗り味が、潜在顧客の心に刺さったということか。
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最上級グレードが販売の6割以上を占める
新型フリードのもうひとつの特徴は、SUV風バリエーションの「クロスター」に、3ナンバー幅となるホイールアーチの専用クラッディングを筆頭に、標準となる「エアー」とのちがいを際立たせたデザインが与えられたことだ。先代では「フリード+」という別車種あつかいだった2列5人乗りや、介護にとどまらない使い方を提案する「スロープ」や「助手席リフトアップシート」などの福祉車両も、すべてクロスター専用設定とした。つまり、ちょっとハズシのアクティブなキャラクターを、新型フリードではクロスターに集約したわけだ。
そんな新型クロスターのフリード全体に占める比率は、ホンダの計画では30%(先代では10~15%)と見込んでいたという。で、この7月27日時点でのクロスター比率は29%。担当者も「ほぼ想定どおり」と語るが、典型的な中高年クルマオタクの筆者と今回の編集担当のサクライ氏は、取材前に「今度のクロスターはカッコいいから半分以上いっているんじゃない?」なんて盛り上がっていた。
市場の空気をまるで読めていないことは恥ずかしいかぎりだ。しかし、あらためて考えると、まずクロスターはいまだに日本では心理的抵抗感が残る3ナンバーであることに加えて、3列シートの選択肢が実質的に1種類しかない(FFと4WDは選べるが)ことが間口をせばめている。さらに、3列6人乗りでほぼ同じ装備内容の「エアーEX」と比較すると、車両本体価格は約16万円高い。フリードはあくまで“手ごろな価格のコンパクトミニバン”であることが最大の存在意義だとすれば、正面からフリードらしいのはエアーということなのだろう。
しかし、新型フリードの初期受注で、担当者が「もっとも意外でした」と評したのが、エアーの上級モデルであるエアーEXの人気ぶりだ。新型フリードのグレード別の受注では、エアーEXが66%を占めている。続くクロスターが28%、素のエアーは5%、クロスター スロープと助手席リフトアップシートが合わせて1%なので、エアーEXの人気は圧倒的というほかない。
そこにはセカンドがベンチシートになる7人乗りの設定がエアーEXのみとなるといった背景もあるが、そもそもフリードでは以前からセカンドがキャプテンシートの6人乗りが主流。なのに、必要十分な装備はそろえつつ、安価な素のエアーが5%とは、筆者としても意外というほかない。
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群を抜くエアーEXの満足度
今回の説明をしてくれたホンダの担当者は、いっぽうで「残価設定ローンなどの普及もあって、以前と比較すると、上級グレードに人気が集まる傾向にあるのはフリードにかぎったことではありません」とも指摘する。これは先に述べた“予想外のe:HEV人気”にも合致する。そうであれば、クロスターの人気がもっと上がってもいい……ともいえるが、そこはやはり3ナンバーの心理的な壁が大きいのだろうか。
ためしに、ホンダの公式ウェブサイトの「セルフ見積もり」で、エアーEX(6人乗り・2WD)に「マルチビューカメラシステム」を含むメーカーオプションをトッピングして、さらにフロアマット、ドラレコ(前後タイプ)、ETC2.0車載器、9インチナビといった定番の販売店オプションを追加した支払い例を確認してみた。すると、5年60回払いで乗った場合、サブスクの「楽まる」で月々5万3444円(月間走行1000km)、残価設定ローンの「残クレ」で4万5100円となった。対して、素のエアー(2WD)に同様の販売店オプションを追加した場合、楽まるで月々4万9944円、残クレで4万1400円となった。
購入した場合の支払総額では、両者に30万円強の差があるが、楽まるや残クレでは、月々3500~3700円の追加でリアクーラーに本革巻きステアリングホイール、ブラインドスポットインフォメーション、一部合皮のコンビシート、前席シートヒーターといった標準装備に加えて、メーカーオプションのマルチビューカメラシステムやコーナリングライトといったエアーEXならではの機能までつくのだから、素直にコスパが高いと感じられる。
マルチビューカメラシステムはクルマを真上から見た映像で周囲の安全を確認できるもので、一度でも体験すると、ないと不安になるタイプの依存性の高い装備だ。もし不要というなら、新型フリードではエアーEXと素のエアーとの支払額の差はさらに縮小する。
また、素のエアーでも、販売店オプションの「リアカメラdeあんしんプラス4」を追加購入すれば似た機能は手に入るが、それは厳密には直前録画映像による疑似的機能であるうえに、装着すると当然ながら支払額はエアーEXにさらに近づく。それならいっそのこと、最初からエアーEXを選んだほうが面倒くさくないし、見た目の支払いは少し高くても結局は買い得……と考える人が多いのも納得だ。
とまあ、細かい話をしてしまったが、日本の交通環境に「ちょうどいい」が最大の売りであるフリードを選ぶような人は、やはりとても賢いということだ。で、こうして皮算用しているだけでもワクワクしてくるクルマ選びというものは、かくも悩ましく、そして楽しい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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