方針転換か縮小か? 電動化の推進を掲げたフォルクスワーゲンとメルセデスの現在
2024.09.19 デイリーコラムEV一本足打法から方針転換
自動車の電動化が進むなかで、2020年代に入り欧州の2大メーカーといえるフォルクスワーゲン(VW)とメルセデス・ベンツが打ち出した経営方針は、いずれも興味深い内容だった。
VWは2021年に、「NEW AUTO」と呼ぶ2030年までの経営戦略「モビリティーの変革に向けた計画」を発表した。その基本コンセプトは、「現在VWは内燃機関からe-モビリティーへの移行を経験しているステップにあり、よりクリーンな地球環境を目指す」というもので、さらに「2030年までには人間や荷物の移動手段は、馬からクルマへと移行した20世紀初頭以来となる最大の変化を遂げることになるだろう」と説明された。
そのために必要不可欠なものが内燃機関(ICE)に代わる動力を持つ電気自動車(EV)というわけである。自動車一台あたりが排出するCO2はパリ協定に従って、2030年に現在の30%減が目標値に定められている。目標値のクリアにはEVでシェア50%を確保する必要があり、またそれから10年後の2040年にはその数字は60%に至るとも試算された。
VWが完全にカーボンニュートラルな企業になるのは、計画では2050年。一瞬遠い未来のように感じるものの、研究開発を含めれば残された時間は驚くほどに短いものだ。
EVの普及に立ちはだかる問題のひとつは、ICE車と比較して価格が高いところにある。すでにVWはNEW AUTOの発表後に、2025年までに730億ユーロをEV関連事業に投資するとアナウンスしており、それによってプラットフォームを新開発の「SSP」に集約。自動車用のソフトウエアなど、新型EVに必要なメカニズムを開発するという。OTAによるアップデートが可能になるのも、この新しいソフトウエアの大きな特徴だ。2025年にはソフトウエアプラットフォーム2.0を投入し、すべての車両のオペレーティングシステムが統合されるほか、レベル4の自動運転も可能になる予定……であった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
VWは新型プラットフォームの導入を先送り
バッテリーや充電に関する技術のロードマップについても、VWは明確な計画を打ち出した。
まず2030年にバッテリーのコストは現在の50%程度となり、すべてのEVに新規格のバッテリーセルを搭載する。2030年までに欧州に6カ所のセル工場を建設することで、それをまかなう予定である。
充電施設においては、2025年までに協力会社とともに欧州で約1万8000カ所を運営する計画を持つ。
だが2022年12月、VWがこれまでのEV用プラットフォーム「MEB」を当初のプランよりも長く使用する決定を下したというニュースがドイツから発信されると、それは一瞬にして世界を駆け巡った。MEBの改良・進化に向けては、新たに15億ユーロの研究開発費が投じられるという。一方、2021年に発表されたNEW AUTO計画は要再検討とされ、目に見えた進捗(しんちょく)がない状態に置かれた。
MEBは2020年代後半には、新型プラットフォームSSPに切り替わる予定であったが、それが遅延するとなれば、「MEB EVO」と呼ばれる改良型のMEBプラットフォームを用いる必要性が生まれてくる。バッテリーはSSP用のものをMEB EVOでも使えるようにすれば、プラットフォームがSSPに切り替わってもコストアップは抑えられるはずだ。
新世代のSSPでは800Vバッテリーに対応するというが、関係筋によれば導入は2028年かそれ以降まで遅れることになるらしい。VWのEV化計画は、大幅な見直しが図られているのである。われわれにとってできることは、彼らからの新型EVがデビューするのを待つことだけのようだ。
一方のメルセデス・ベンツも2030年までにすべての新車をEV化するという計画を打ち出していたが、こちらもその計画には不安定な要素が生まれている。それを直接的に表現するのならば、EV需要の鈍化に主な要因がある。結局、同社は2030年までICE車の販売を継続する方針を打ち出した。需要の変化を考えると、やはりICE車からEVへと、スイッチを切り替えるような動きには無理があると判断されたのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
メルセデスの新たな電動化戦略は?
メルセデスは、さらにプラグインハイブリッド車(PHEV)に関する目標値も先日修正している。これまでの2025年までに新車販売台数の50%をPHEVにという計画は、2020年代に最大で50%という表現にソフトランディング。これは主に北米市場におけるPHEV需要の鈍化が理由と考えられる。北米はメルセデスにとっても最大の輸出市場であるから、ここでの人気は世界販売にも非常に大きな影響を与えるのだ。
EVのセールスが鈍化しているのは、VWと同様の事情だ。2024年のEV販売は全ラインナップのなかで約20%と見込まれる。特に広大な国土を持つアメリカなどでは、いかにして満足できるエネルギーインフラを整備することができるのかも、深刻な問題となるだろう。
メルセデスはまだしばらくの間、EVやPHEVに加えて、最新のICEを搭載した魅力的なニューモデルを市場に投じていく必要がある。新型「Eクラス」が用いている「MRA2(モジュラーリアドライブアーキテクチャー2)」は、2030年代初頭までそれを継続して使用できるというが、MRA2を用いてICE車とPHEV、そしてEVをつくり分けるには、膨大なコストが必要になるだろう。
一方でメルセデス・ベンツは、今後数年間でバッテリーのコストを30%ほど削減できるとしている。それが販売価格に反映されれば、EVセールスの追い風となる可能性もあるが、果たして彼らのビジネス戦略は市場で認められるだろうか。
ドイツの2大メーカーが直面する自動車の電動化という課題。当初目標として掲げた完全電動化が実現されるのは、いつのことになるのだろうか。少なくとも2030年という節目に、当初の計画のクリアが難しい状況にあることは間違いない。
(文=山崎元裕/写真=フォルクスワーゲン、ダイムラー/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

山崎 元裕
-
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!NEW 2026.1.19 アメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。
-
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る 2026.1.16 英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。
-
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する 2026.1.15 日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。
-
30年の取材歴で初めてのケースも 2025年の旧車イベントで出会った激レア車 2026.1.14 基本的に旧車イベントに展示されるのは希少なクルマばかりだが、取材を続けていると時折「これは!」という個体に遭遇する。30年超の取材歴を誇る沼田 亨が、2025年の後半に出会った特別なモデルを紹介する。
-
東京オートサロンでの新しい試み マツダのパーツメーカー見学ツアーに参加して 2026.1.13 マツダが「東京オートサロン2026」でFIJITSUBO、RAYS、Bremboの各ブースをめぐるコラボレーションツアーを開催。カスタムの間口を広める挑戦は、参加者にどう受け止められたのか? カスタムカー/チューニングカーの祭典で見つけた、新しい試みに密着した。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。










































