ホンダCL500(6MT)
限りなく理想に近い 2024.09.28 試乗記 いろいろなバイクに乗っていると「もっと注目されてもいいのにな」と思う車両が出てくることがある。今回紹介する「ホンダCL500」は、その代表的なマシンだ。ハイスペックなマシンに埋もれてしまっている感はあるが、乗ってみると実に楽しいバイクである。エンジンの味つけがすばらしい
ホンダCL500は、一見すると「CL250」とよく似ている。エンジンを見なければ見分けるのが難しいほどだ。それもそのはず、CL500はCL250と車体の多くを共用している。だからスペックを見ると車体の大きさは250とまったく同じ。車両重量が20kg重くなっている程度である。エンジンはCL250がシングルなのに対して並列ツインだが、これもツインエキゾーストのシングルなのかと思ってしまうほどコンパクトだ。
最高出力は250の24PS/8500rpmに対して46PS/8500rpm。最大トルクは250の23N・m/6250rpmに対して43N・m/6250rpmを発生する。CL250でも十分満足できる動力性能なのに(参照)、同じ車体でパワー・トルクともに2倍弱を発生しているのだから、元気に走らないはずがない。
エンジンの特性はいたずらに高回転のパワーを追求したりせず、低中速からのトルクを重視しているからストリートではとても乗りやすい。ゴー・ストップを繰り返す都内では、スロットルの開け始めの特性と、そこから開けていったときのトルクの出方が重要なのだけれど、このあたりの味つけもいい。操作に気を使うことなく、右手の動きで欲しいだけの力が出てくる感じだ。
高回転まで回してもパワーが大きく盛り上がってくるような特性ではないが、レブリミットまで気持ちよく回ってくれるから、仮に高回転を常用することになってもストレスは感じない。どこかが突出しているわけではないけれど、扱いやすさとパワーがとても高いレベルでバランスしているうえ、適度に刺激的なところもあって、どんな使い方をしても不満が出ない。
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楽しくバイクの走らせ方を学べる
面白いのはハンドリングだ。スリムな車体にフロント19インチタイヤを組み合わせ、軽快なハンドリングとなっているのはCL250と同じなのだけれど、実際に走らせてみるとフィーリングが違う。要因はサスペンションの動きだ。前後ともにタップリとしたストロークが確保されていて、実によく動く。CL250よりずいぶんソフトに感じるのは、20kg重い車重やトルクのあるエンジンによるものだろう。加減速での姿勢変化が大きくなることによって、他のオンロードバイクとは違った面白さが生まれている。
減速でバイクが前かがみになっているとき、ブレーキをリリースしてやればバイクがより軽快にバンクしていくし、立ち上がりでスロットルを開けたときは、リアショックが沈み込んで後輪を路面に押し付け、車体が安定する。こういった挙動が分かりやすい。といっても難しいテクニックを使っているわけではなく、コーナーの手前で減速し、立ち上がりでスロットルを開けていれば、特に意識しなくても自然にこういう操作になっているはずである。
サスペンションの動きを利用するとバイクの運動性能が高まるのは、どのバイクも同じなのだけれど、CL500の場合は、ストリートを普通に走っているだけでもこの動きが感じられるというのがポイントだ。
こんなハンドリングだから、タイトなワインディングロードでは楽しいことこのうえない。セミブロックタイヤのグリップも良好だ。コーナリングでブロックの変形が少ないパターンデザインだから、ハードに攻めても腰砕け感がない。通常のオンロードタイヤと同じ感覚でコーナリングすることができる。
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ぶっ飛ばす必要なんてない
いっぽうで、速度レンジが高いワインディングでは、タイトコーナーほどの軽快さは感じられなくなっていく。不満はないが、低速コーナーを走っていたときほどの楽しさはない。そもそもスポーツバイクのように高速、高荷重域のことを考えた設定ではないから、これは当然のこと。けれどマイナスには感じられない。そもそも、中高速コーナーを本気で攻めるような走りをすれば、速度が上がりすぎてしまう。現実的、実用的なスピードで走っているときこそ楽しめるこのハンドリングは、日本の道路事情にとてもよくマッチしているのだと思う。
スポーツバイクなどに乗り慣れたライダーの場合、サスペンションが動きすぎると感じることもあるだろう。乗り方や好みによって評価は分かれるかもしれないが、CL500のハンドリングを好ましく感じるライダーは多いのではないかと思う。
以前、尊敬する先輩ライダーに理想のストリートバイクについて聞いたとき、中型クラスの車体サイズで低中速から元気のよいエンジンを搭載し、100km/hくらいまでの実用速度域で俊敏なハンドリングを楽しめるバイクだと聞いた。CL500に乗ると、当時の先輩が話していた理想のバイクに近いのではないかと思う。
ちなみにこのバイク、車体のどこを見ても“500”という文字はない。「排気量のことなど気にするのではなく、バイクの本質を見ろよ」とバイクが語りかけているように感じるのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2175×830×1135mm
ホイールベース:1485mm
シート高:790mm
重量:192kg
エンジン:471cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:46PS(34kW)/8500rpm
最大トルク:43N・m(4.4kgf・m)/6250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:27.9km/リッター(WMTCモード)
価格:86万3500円
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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