フィアット600eラプリマ(FWD)
“かわいい”だけじゃない 2024.09.27 試乗記 「フィアット600e」は、“かわいい”をキーワードとした丸みのある4ドアハッチバックフォルムが目を引くBセグメントの電気自動車(BEV)。個性的な内外装デザインとゆとりある実用性をバランスさせた、最新イタリアンBEVの走りを報告する。「600」がBEVで復活
恥ずかしながら、イタリア語はからっきしわからない。知っている単語といえば、ワインを注文するときに使う“rosso(赤)”と“bianco(白)”、そして、数えるほどの数字だ。しかも数字はすべてクルマ絡みで、「フィアット・ウーノ」の“uno(1)”、「アウディ・クワトロ」の“quattro(4)”、「フィアット・チンクエチェント」の“cinquecento(500)”、「ミッレミリア」の“mille(1000)”くらい。
そして、最近覚えたのが“seicento(600)”。はるか遠くの1950年代、フィアットはコンパクトカーの「フィアット600」を市場に投入。2ドア2ボックスに加えて、MPVの「ムルティプラ」を用意した。
その2ボックス版を現代のテクノロジーでよみがえらせたのが、日本でも最近販売がスタートしたBEVのフィアット600e(セイチェント・イー)である。
かつてのフィアット600がリアエンジンの2ドアだったのに対して、現代の600eはフロントに電気モーターを配置し、ボディーも4ドア+ハッチバックというスタイルを採用するので、この2台に強い関連性は感じられない。一方、「フィアット500」の兄貴(姉貴!?)分という意味では、BEVの「フィアット500e」とイメージが重なるこの600eは、そう名乗っても誰もが納得するはずだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“大きな500e”ではない
フロントマスクが似ている500eと600e。それだけに、600eは500eの拡大版と思われるかもしれないが、中身はまるで別モノである。600eは、500eとは異なる「eCMP」プラットフォームを採用していて、中身だけを見れば、「プジョーe-208」や「シトロエンE-C4エレクトリック」に近い存在なのだ。
600eのボディーサイズは、全長×全幅×全高=4200×1780×1595mmで、日本車なら「トヨタ・ヤリス クロス」、輸入車なら「アウディQ2」あたりとほぼ同サイズだ。
数字だけ見るとコンパクトなクルマをイメージするが、実車を目の当たりにすると、背が高いのと全幅が広いことで、数字以上に大きく見える。弟分の500eに比べて全長は570mm長く、さらに4ドアのボディーを手に入れたことにより、これまで以上に幅広いユーザーに受け入れられるはずだ。
BEVとしての利便性が向上したのも見逃せないポイントで、500eでは「CHAdeMO充電アダプター」という、“ハンディクリーナー”のような機器で日本の急速充電に対応していたが、この600eでは他のBEV同様、充電アダプターなしでCHAdeMO充電に対応。急速充電能力は最大50kWと、いまどきのBEVとしては低めとはいえ、そのままCHAdeMO充電器につながるようになったのは朗報である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
温厚なキャラクター
さっそく運転席につく。2本スポークのステアリングホイールや丸いメーター、横長のセンターディスプレイ、細かいスイッチが横一列に並ぶ空調のコントロールなど、コックピットは500eを連想するデザインに仕上げられている。シフトセレクターはプッシュスイッチ式だが、一番右が「D/B」で、回生ブレーキの強さを簡単に切り替えられるのがうれしいところだ。
ステアリングコラムの左側にあるスタートスイッチでシステムを起動し、まずはDレンジと「NORMAL」モードを選んで走りだすことにする。この600eでは、ブレーキペダルから足を離すとクリープによりゆっくりとクルマが動き出し、そこからアクセルペダルを踏むと、穏やかに速度を上げていく。
最高出力が156PS/4070-7500rpm、最大トルクが270N・m/500-4060rpmのモーターは、スポーティーな印象こそないが、街なかを走らせるには十分な速さを見せ、さらに高速に足を踏み入れても加速に不満はない。
試しに、「SPORT」モードを選ぶとアクセルペダルに対する反応がさらに素早くなり、一方、「ECO」モードではさらに反応が穏やかになるうえ、パワーが抑え気味になる設定。とくにこだわらなければ、NORMALだけで済みそうである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ファミリーも注目のやさしい乗り味
アクセルをオフにしたときに利く回生ブレーキは、Dレンジでは弱め。Bレンジに切り替えてもさほど強くなく、しかも回生ブレーキだけでは停止には至らない。それ自体は問題ないが、ブレーキペダルを踏んで減速する際に、ペダルのタッチが頼りないのが気になった。それでも、加減速ともに温厚な600eは、初めてBEVを運転する人でも扱いやすい性格といえる。
パワートレイン同様、600eの乗り味もやさしい。路面によってはリアから軽く突き上げられることもあるが、乗り心地はおおむねマイルドで、実に快適。全高は1595mmとやや高めだが、横方向の、いわゆるロールの動きもよく抑えられている。高速道路を巡行する場面で軽いピッチングが見られるが、それほど気になるレベルではなく、高速走行時の直進安定性もまずまずである。
パッケージングについては、後席のヘッドルームは十分余裕があるが、足先が前に出せないぶん、大人が座るには足元がやや窮屈なのが惜しいところ。ラゲッジルームは4200mmの全長相応というレベルで、使い勝手は悪くない。
個人的には、全高が1550mmを超えているのが惜しいところで、シャークフィンアンテナを削るか、車高をもう少しだけ下げてくれたらと思う。全体的にそつのない仕上がりを見せるフィアット600eは、温かみあるデザインのBEVを求めているファミリーにおすすめできる一台だと思う。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
フィアット600eラプリマ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4200×1780×1595mm
ホイールベース:2560mm
車重:1580kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:156PS(115kW)/4070-7500rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/500-4060rpm
タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
一充電走行距離:493km(WLTCモード)
交流電力量消費率:126Wh/km(約7.9km/kWh、WLTCモード)
価格:585万円/テスト車=598万6640円
オプション装備:ボディーカラー<サンセットオレンジ>(5万5000円)/フロアマット プレミアム(4万4000円)/ETC2.0車載器(3万5640円)/電源ハーネスキット(2000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:587km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.9.19 プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ランボルギーニ・ウルスSE(前編)
2025.9.21思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。時代の要請を受け、ブランド史上最大のヒットモデルをプラグインハイブリッド車に仕立て直した最新モデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS(6AT)【レビュー】
2025.9.20試乗記日本のモーターサイクルのなかでも、屈指のハイテクマシンである「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」に試乗。高度な運転支援システムに、電子制御トランスミッション「Y-AMT」まで備えた先進のスポーツツアラーは、ライダーを旅へといざなう一台に仕上がっていた。 -
あの多田哲哉の自動車放談――ポルシェ911カレラGTS編
2025.9.19webCG Moviesトヨタ在籍時から、「ポルシェ911」には敬意を持って接してきたというエンジニアの多田哲哉さん。では、ハイブリッド化した911にどんなことを思ったか? 試乗した印象を存分に語ってもらった。 -
メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ
2025.9.19画像・写真2025年9月19日に国内での受注が始まった「メルセデス・マイバッハS680エディションノーザンライツ」は、販売台数5台限定、価格は5700万円という高級サルーン。その特別仕立ての外装・内装を写真で紹介する。 -
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか?
2025.9.19デイリーコラム中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか? -
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.19試乗記プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。