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フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)

これぞスーパーGT 2024.10.02 試乗記 西川 淳 象徴的な“12気筒”という車名をいただく、フェラーリの新型車「12チリンドリ」。“跳ね馬”のDNAを完璧に体現したという走りは、どのようなものなのか? 公式試乗会が開催された、欧州はルクセンブルクからの第一報。
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新たな“超優等生”

このところの高性能モデルを試して思うことがある。それはクセのない超優等生が多いということだ。クセは時にポジ=アジになることもあるのだけれど、多くの人にとってはネガになるから、それはなくなって当然ともいえる。工業製品の進化というやつで、すでに大量生産のクルマにはそれが顕著だけれど、ついに高性能ブランドの領域にも達しつつあるのだ。反対に“クセスゴなクルマ”に新車で乗りたいというのであれば、ハイパーカークラスを狙うほかないだろう。もしくは「日産GT-R」のような“生ける化石”を選ぶか。

それはともかく、夏から秋を飛ばして冬になったかのようなルクセンブルクで試した最新の跳ね馬、フェラーリ12(ドーディチ)チリンドリもまた“超優等生”組の一員だった。それが良い意味か、はたまた悪い意味なのかは、あなたのフェラーリ観にもよると思うし、幸運にもすでにオーダーできたカスタマーにとっては「ガレージに並べる別の跳ね馬」の種類を今一度考え直すことにつながることだろう。

英語で言えばトゥエルブ・シリンダー。他のブランドが使おうものなら“なんと工夫のないことだ”といったそしりさえ免れないネーミングも、マラネッロにこう臆面(おくめん)もなく使われると「なるほどなぁ」となる。歴史と伝統とはかくも強力なものなのだ。もっとも彼らは昔からシンプルな名前を好んで使う。ブランドそのものにインパクトがあることを彼ら自身が最もよく知っているからだ。

2024年5月、アメリカ・フロリダ州で世界初公開されたフェラーリの新たなフラッグシップ「12チリンドリ」。車名のイタリア語読みは「ドーディチ チリンドリ」で、12シリンダー、つまり12気筒を示している。
2024年5月、アメリカ・フロリダ州で世界初公開されたフェラーリの新たなフラッグシップ「12チリンドリ」。車名のイタリア語読みは「ドーディチ チリンドリ」で、12シリンダー、つまり12気筒を示している。拡大
リアまわりは、大きな山型(デルタ型)の輪郭が強烈な個性を放つ。エキゾーストパイプは左右2本ずつの4本出しとなっている。
リアまわりは、大きな山型(デルタ型)の輪郭が強烈な個性を放つ。エキゾーストパイプは左右2本ずつの4本出しとなっている。拡大
長いノーズのフードは、前ヒンジで後ろ側が立ち上がる。リアは大きく開くハッチバックスタイルとなっている。
長いノーズのフードは、前ヒンジで後ろ側が立ち上がる。リアは大きく開くハッチバックスタイルとなっている。拡大
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フェラーリ史上、最高に……

簡単にその仕様を復習しておこう。肝心要となるエンジンの型式名は「F140HD」といい、完全フロントミドに搭載される。「812コンペティツィオーネ」用の「F140HB」をベースに専用開発された。

コンセプトそのものはHBと非常に似通っており、総排気量は6.5リッターで、最高出力830PS/9250rpm、最大許容回転数9500rpmといったスペックも同じ。ただし最大トルクは678N・mと若干下げられた。同時に発生回転を7250rpmと250rpm上げ、HBと同じ馬力を稼いだというわけ。これはユーロ6をはじめとする排ガスや音のレギュレーション対応のため、排気系をメインに再設計したことが影響するという。

新たに8段となったDCTのギア比や変速のプログラム、革新的なトルク制御システム「アスピレーテッド・トルク・シェイピング(ATS)」などにより、わずかに増えた車重をカバーしつつドライバーには従来以上のパフォーマンスを感じさせる、というのがマラネッロによる事前説明の骨子であった。

果たして、その実力のほどはどうか。走りだしての第一印象は「プロサングエ」より乗り心地が良い、だった。ということはマラネッロ史上最高にコンフォートなクルマだということ。内外装のラグジュアリーな雰囲気を裏切ることなく、極上のドライブフィールでカントリーロードを駆け抜ける。

マラネッロの開発陣はいつだって真面目なのだ。いかついデザインのクルマにはいかついパフォーマンスを与える。12チリンドリには、マラネッロ史上最高どころか英国のラグジュアリーブランドをも上回る快適な乗り心地が与えられたように思う。なるほど見栄え・質感もまた匹敵するものがあると思えたのだから、乗り味がそうなるのも当然だろう。

最高出力830PSを誇る自然吸気の6.5リッターV12エンジン。最大トルク678N・mの80%を2500rpmという低回転域で発生する。
最高出力830PSを誇る自然吸気の6.5リッターV12エンジン。最大トルク678N・mの80%を2500rpmという低回転域で発生する。拡大
インテリアのデザインは、既存の「ローマ」や「プロサングエ」にも見られる左右対称なコクーンスタイルとなっている。
インテリアのデザインは、既存の「ローマ」や「プロサングエ」にも見られる左右対称なコクーンスタイルとなっている。拡大
「12チリンドリ」の乗車定員は2人。内装には、リサイクルポリエステルを65%含むアルカンターラをはじめ、サステイナブルな素材が多く使われている。
「12チリンドリ」の乗車定員は2人。内装には、リサイクルポリエステルを65%含むアルカンターラをはじめ、サステイナブルな素材が多く使われている。拡大
「12チリンドリ」を走らせてまず印象的だったのは、極めて乗り心地が良いことだった。そのフィーリングは、同モデルの見た目や質感にもマッチするものといえる。
「12チリンドリ」を走らせてまず印象的だったのは、極めて乗り心地が良いことだった。そのフィーリングは、同モデルの見た目や質感にもマッチするものといえる。拡大

何もかもが見事

気になるF140HDエンジンのフィールはというと、これがもうウルトラシルキーだった。ライドフィールに恐ろしくマッチしたエンジンとでもいおうか。9000rpmまでよどみなく回っていく。サウンドはもちろん勇ましいが、ラウドネスは控えめ。キャビン内に響くエンジン音はBGM並みに聴きやすく、それでいてクルマ好きをとりこにする類いの音だ。外では高らかに鳴り響いている。

驚いたのは9000rpmまで回ってなお、キャビンは一切のバイブレーションと無縁だったこと。エンジンとトランスミッションの存在感が振動のうえでは見事に抑えられていた。テスト車両のオドメーターはすでに1万kmを超え、エンジンは絶好調のようだった。

ドライブモードによるとはいえ変速ショックも見事に抑えられていた。しかも変速そのものも相当に速まっている。もちろんレースモードではダイレクトなフィールも演出される。

かくも超優等生なエンジンフィールだが、加速中に見せる切れ目のない力強さという点で従来モデル「812スーパーファスト」をしのぐことは確かだ。812コンペティツィオーネと比べると、車体全体から感じる速さという点では劣るかもしれないが、絶対的にはほとんど同じだろう。徒競走でも一番を取ってしまう優等生なのである。

「12チリンドリ」は「812コンペティツィオーネ」ゆずりの4WS(4輪独立操舵システム)を搭載。優れたコーナリング性能を誇る。
「12チリンドリ」は「812コンペティツィオーネ」ゆずりの4WS(4輪独立操舵システム)を搭載。優れたコーナリング性能を誇る。拡大
メーターパネルは15.6インチの液晶タイプ。ステアリングスイッチは静電タッチ式となる。
メーターパネルは15.6インチの液晶タイプ。ステアリングスイッチは静電タッチ式となる。拡大
トランスミッションは8段ATのみだが、シフトセレクターのデザインには、MT車のシフトゲートのイメージが反映されている。
トランスミッションは8段ATのみだが、シフトセレクターのデザインには、MT車のシフトゲートのイメージが反映されている。拡大
「12チリンドリ」が0-100km/h加速に要する時間は2.9秒。最高速は340km/h以上と公表される。
「12チリンドリ」が0-100km/h加速に要する時間は2.9秒。最高速は340km/h以上と公表される。拡大

歴史的GTの再定義

公式タイヤに選ばれたグッドイヤーのプルービングコースで能力の一部を開放した。クローズドコースでも、ある意味、優等生だ。非常に扱いやすいスポーツカーである。各種電子制御の進化はもちろん、20mmものショートホイールベース化が効いている。タイトヴェントの続くコースをひらひらとこなし、時にリアの滑り出しを心地よく感じながら、余裕をもってスポーツドライブを続けることができた。

もっとも、リアステアの動きに少々ナーバスな点があったことも事実。特にウエット路面ではリアが不用意に動く感覚が時折あって、面食らうことも。直進時にリアステアが悪さをしでかすことはまるでないから、慣れで克服できるのかもしれない。ちなみにクローズドコースでは280km/hまで出してみたが、エアロダイナミクスの優秀さを証明するかのように、その安定感はすこぶるつきだった。

12チリンドリは超優等生。跳ね馬の走りに刺激だけを求めたいという向きには、良い意味ではないだろう。けれども歴史的なFRモデル、例えば「275GTB」や「365GTB/4」といったモデルの上質なGTフィールを現代的に再定義し表現したと考えれば十二分に納得のいく内容だ。

最後にガレージでこのクルマの隣に似合う跳ね馬を記しておこう。例えば「フェラーリF40」、例えば「フェラーリ365GT4/BB」。そしてもちろんデイトナである。また、812スーパーファストとも、812コンペティツィオーネとも総じてまるで違うキャラの持ち主だということを考えれば、812系の横に並べてもおかしくはないだろう。TPOに合わせて使い分けることができるに違いない。

(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)

タイヤについては、今回の試乗車が装着していた「グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ」のほか、「ミシュラン・パイロットスポーツS 5」が公式の指定タイヤとなっている。
タイヤについては、今回の試乗車が装着していた「グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ」のほか、「ミシュラン・パイロットスポーツS 5」が公式の指定タイヤとなっている。拡大
クローズドコースを走る「12チリンドリ」。コーナーをひらひらと駆け抜けるさまには、進化した電子制御システムの恩恵も感じられる。
クローズドコースを走る「12チリンドリ」。コーナーをひらひらと駆け抜けるさまには、進化した電子制御システムの恩恵も感じられる。拡大
ノーズからヘッドランプにかけてのデザインは、往年の名車「365GTB/4(通称:デイトナ)」をほうふつとさせる。
ノーズからヘッドランプにかけてのデザインは、往年の名車「365GTB/4(通称:デイトナ)」をほうふつとさせる。拡大
今回はクーペ(写真)に試乗したが、オープントップバージョンの「12チリンドリ スパイダー」もラインナップされている。日本での価格は「12チリンドリ」が5674万円で、12チリンドリ スパイダーが6241万円。
今回はクーペ(写真)に試乗したが、オープントップバージョンの「12チリンドリ スパイダー」もラインナップされている。日本での価格は「12チリンドリ」が5674万円で、12チリンドリ スパイダーが6241万円。拡大

テスト車のデータ

フェラーリ12チリンドリ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4733×2176×1292mm
ホイールベース:2700mm
車重:1560kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:830PS(610kW)/9250rpm
最大トルク:678N・m(69.1kgf・m)/7250rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21/(後)315/35ZR21(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ)
燃費:--リッター/100km
価格:5674万円(日本国内価格)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

フェラーリ12チリンドリ
フェラーリ12チリンドリ拡大
「12チリンドリ」のV12エンジンは、フロントのかなりキャビン寄りに搭載される。公表されている前後の重量配分は48.4:51.6である。
「12チリンドリ」のV12エンジンは、フロントのかなりキャビン寄りに搭載される。公表されている前後の重量配分は48.4:51.6である。拡大
タッチ式センターディスプレイのサイズは10.25インチ。携帯端末のワイヤレス充電トレーなども用意される。
タッチ式センターディスプレイのサイズは10.25インチ。携帯端末のワイヤレス充電トレーなども用意される。拡大
メーターパネルやセンターディスプレイのほか、助手席前方にはパッセンジャー用となる第3のディスプレイ(8.8インチ)が備わる。
メーターパネルやセンターディスプレイのほか、助手席前方にはパッセンジャー用となる第3のディスプレイ(8.8インチ)が備わる。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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